極めて過密な刑務所でのHIV/エイズとの闘い——MSFは活動の教訓をまとめたパンフレットを発表
2006年07月06日記事を全文読む
中南米で最も過密な刑務所

現在、ルリガンチョ刑務所には定員1500名のところに8500名以上の受刑者が収容されている。MSFは1990年代末にこの刑務所を視察する認可を受け、結核やHIV/エイズなどの性感染症(STI)の発症率に関する調査を行い、その結果を受けて同刑務所内でのSTIとHIV/エイズの防止プログラムを開始した。
刑務所内でHIVに感染する危険性は、リマ市内と比べて5~7倍も高い。視察期間中、1日平均4000名が刑務所の施設に出入りしていた。その中には受刑者の親族や友人、販売員などがおり、これらの人びとを介して感染症が受刑者の間にさらに蔓延する。
複雑な状況下での多角的なアプローチ

MSFは2000年から、ルリガンチョ刑務所内での医療プログラムをNPAと協力しながら展開してきた。チームは、さまざまな専門分野にまたがる多角的なアプローチをとることで、STIとHIV/エイズの予防プログラムにおいて医療の質を高め、HIV/エイズ患者への治療を改善することができた。また、心理学やソーシャルワーク、教育など他の研究分野の専門家を訓練し、最も弱い立場にある人びとのために特別な援助を行うことができた。そして、一般的な意味では、刑務所のような複雑な状況下であってもSTIの治療を適時適切に行えること、そしてHIV/エイズ患者に不可欠な医学的配慮を提供することが可能であることを証明できた。
ペルーにおけるMSF活動責任者、ピエロ・ガンディーニは次のように語る。「刑務所での活動は他では経験できないものであり、またHIV/エイズの予防においても他の場所とは異なる課題があります。この5年間の活動は多岐にわたり、その中で多くの議論や成功例・挫折例がありました。今回発行するパンフレットでは、このプログラムの核心部分最も直結する情報やエピソードを要約するよう努めました。」
ルリガンチョ刑務所には独特の内部組織が存在する。ここには連続強盗、殺人、銃器の不法所持、性犯罪、麻薬取引などの一般犯罪で捕まった男性受刑者が収容されている。また、初犯の受刑者と再犯者が混在している。刑務所は巨大で自立した共同体となっており、近隣住区や、特有の文化や、サービス、経済を有する小さな町として機能している。受刑者の中には「代理人」と呼ばれる独自の代表者たちがいる。
危険にさらされる受刑者の健康と、エイズ患者への差別
刑務所内の健康状態は危機的なものである。受刑者間での無防備な性行為や刺青行為、薬物乱用、性的暴行など、危険な行為がごく一般的に行われているさらにHIV/エイズ患者は、差別や辱めをうけ非常に困難な日々を送っている。
あるHIV陽性の受刑者は語る。「独房棟ではHIV患者は差別的に、あたかも死人かのように、あるいは他の人びとを侮辱したかのような目で見られます。大勢の目の前で「おい、エイズ野郎。食事が欲しければ並べよ。」とやじられることもあります。みんなの晒し者となり、恥ずかしい思いをします。だからHIV患者は自分の独房にこもるか、あるいは怯えながらも食事を取りに行くことになるのです。HIV患者が独房棟から離れて、廊下や別の場所で暮らすこともあります。辛いことですが、自分達が病気であるという事実を四六時中思い知らされるよりはましだと考えているのです。」
HIV/エイズに感染した人びとへの医療ケアや経過診察の水準は未だに不十分である。2005年10月にルリガンチョ刑務所でMSFチームが経過診察を行ったHIV/エイズ患者は97名であった。しかしMSFのプログラムに出入りする人数が多いため、この数は流動的である。これまでに受刑者17名が抗レトロウィルス薬(ARV)による治療を開始した。この治療を受ける人の数を増やし、刑務所の診察室で行っているHIV/エイズ治療の質を改善していく必要がある。
ガンディーニはこう話を結ぶ。「自分たちの失敗や成果を記録したこの『教訓』を発表することで、刑務所での医療に従事している専門家の皆さんの役に立てることを願っています。私たちのここでの活動は終わろうとしていますが、この経験を分かちあい、複雑な状況下でHIV/エイズやSTIとどう闘うかという議論に貢献できればと考えています。」
MSFのパンフレット『教訓:ペルー・リマのルリガンチョ刑務所における性感染症(STI)とHIV/エイズに関する総合的な活動の経験』(英語)
MSFのパンフレット『教訓:ペルー・リマのルリガンチョ刑務所における性感染症(STI)とHIV/エイズに関する総合的な活動の経験』(スペイン語)