「一人ぼっちではないよ」行方不明者8万人の国に寄り添って

2018年09月06日

コロンビア国内で行方不明となっている人たちコロンビア国内で行方不明となっている人たち

 コロンビアは、50年にわたる内戦で、8万3000人が行方不明となった。ゲリラ、民兵、犯罪組織、政府軍などが関係しているとされるが、残された家族は、行方不明者の身に何が起きたのか分からないままだ。不安や絶望を抱え、ついにはうつ病なども発症。悲しみは宙に浮いたままだ。

国境なき医師団(MSF)は、コロンビアにある大都市カリ市と、エクアドルとの国境に近い街プエルト・アシス市で、行方不明者家族への心理ケアをしている。

MSFは、過去6ヵ月~1年の間で愛する家族が行方不明になった患者と対話を重ねている。プロジェクト・コーディネーターのジューリア・パンセーリに話を聞いた。

プロジェクト・コーディネーターのジューリアプロジェクト・コーディネーターのジューリア

患者が心に大きな傷を受けているのはなぜですか?

「行方不明者に何が起きたのかわからないことが、大きな苦しみへとつながっています。患者は行方不明者がどこにいるかも分からず、真実も分かりません。気持ちの区切りがつかず、その死を悼むことができません。行方が分からない状態は、何ヵ月も何年も続いています」

「一方で患者は、行方不明となった兄弟や、父親、娘たちに何が起きたかを周囲に話すことをためらいます。恐怖があるからです。行方不明の家族の消息を明らかにしようとしたところ、脅しにあった人もいました」

「残された家族には、世間から『あの人が連れ去られたということは、なにか理由があったはずだ』という差別と偏見の目が向けられます。こうした差別や偏見はなくす必要があります。やるべきことはまだたくさんあります」

公的機関の対応はどうでしょうか?

「公的機関の対応は不十分です。これまでに、3000人の遺体が見つかりました。家族への引渡しが必要ですが、資金や人材などが足りていません。国は行方不明者捜索ユニットを創設しましたが、最初に目指していた期限までにプロジェクトを終えるのが難しい状況です」

「6月に誕生した新政権が、どのようにプロジェクトに取り組んでいくかも不明です。コロンビア革命軍(FARC)との間で結ばれた和平合意で、行方不明者の消息が明らかになるとの期待もありましたが、これも先行きが不透明です。新政権の新たな対応を待つばかりです」

どのような援助が必要だと考えていますか?

「ある女性患者は、ある時から心理ケアを受けたがらなくなりました。ケアが役に立つものとは思えなかったためです。寄り添ってくれる人もなく、行方不明の家族がどこにいるかも分かりませんでした。その後、女性はMSFの診療を知り、訪ねて来られました。スタッフと二人三脚でケアしたところ、情緒不安定だった症状が回復し始めました。心理ケアに加え、専門家による法律相談や必要な社会福祉を受けられるよう、関連する団体を紹介しました」

「心理ケアだけでは、患者の抱える問題の解決にはなりません。他の機関や人びとと連携を組み、『一人ぼっちではないよ』と知ってもらおうことが、本当の回復のために役立ちます。家族が行方不明になることで家計に影響することもあり、包括的な支援が必要となります。そのため、MSFも、他団体と協力しながら総合的な支援ができるよう取り組んでいます」

カリ市内の大学で、心理ケアについて知ってもらう活動の様子カリ市内の大学で、心理ケアについて知ってもらう活動の様子

今後の展望は?

「これまでに297人がMSFの心理ケアを受けました。この半年だけでも、200人以上の患者を診ています。患者数は、MSFのことが広く知られるにつれて増えています」

「特にカリ市は大都市であり、診療を周知することが簡単ではありません。一方農村部では、MSFの活動地まで距離があるため、移動手段の確保が課題となります。それでもMSFは、患者のいる所に出向くことを大切にしています。このケア・モデルをさらに推進していこうと考えています」

「心理ケアのプロジェクトは、数時間から数日後で治るような病気に対するケアとは異なり、もっと長い時間を要します。不安や悲しみ、うつの症状や心的外傷後ストレスなどは、対処法を学ぶにつれてなくなっていきます。MSFは総合診療を担うことで、患者の回復を各段階で支えています。患者が治療を卒業し、患者自身で自分の人生を歩んでいけるようになることを願っています」 

MSFの活動概況

MSFは、コロンビアでトゥマコ市とブエナベントゥラ市で活動。暴力の被害者を心理ケアで支えるとともに、性暴力の被害者に、望まない妊娠の中絶を含めた総合的な診療を行っている。カリ市とプエルト・アシス市では、行方不明者家族に心理ケアを行っている。また、緊急対応チームも配置して、国内での健康と人道状況を見守っている。8月30日の国際失踪者デーでは、行方不明者を偲んだ。 

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