マンゴーの木の下の診療所を目指して 戦闘と暴力の中で子どもの命を守る

2019年09月10日掲載

脅迫される、殴られる、レイプされる、殺害される——。世界最貧国の一つである中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)では、2013年に内戦が勃発して無法状態となってから、人びとは終わらない恐怖にさらされている。日常生活は崩壊し、何をするにも危険な移動を強いられる。食べ物や日用品を探し求めて何キロも歩く。医療機関にかかるためにも歩く。6年にわたる戦闘と暴力の中で、人びとは命がけで歩き続けている。

20歳の母親が向かう先は

丸一日かけてMSFの診療所にたどりついたビアトリスさんとケティラちゃん © Marcel-Philipp Werdier/MSF丸一日かけてMSFの診療所にたどりついたビアトリスさんとケティラちゃん © Marcel-Philipp Werdier/MSF

ビアトリスさん(20歳)も、歩き続ける住民の一人だ。幼い子どもを抱える彼女が目指す場所は、ボギラという町にある国境なき医師団(MSF)の診療所だ。生後10カ月の娘ケティラちゃんの体調が悪く、医師に診てもらわなければならない。

しかし目指すボギラが安全かどうかは、出発する前には分からない。この国では2019年の初めに和平合意に達したものの、状況が改善したと言えるのはごく一部だ。ビアトリスさんの家からボギラに向かうには、危険な場所を通過しなければならない。それでも彼女にとって、子どもが病気になった時に連れて行けるのは、ボギラにあるMSFの診療所だけだ。

ボギラでは、MSFはマラリア、栄養失調、予防接種と産科を担っている。人道援助は、この国の命綱だ。いまやMSFは、中央アフリカ最大の医療機関となった。MSFが提供する医療サービスの規模は、国の保健省を超える。2018年だけでも、MSFは80万件の診察と治療をした。

診療所の受付はマンゴーの木の下

診療所にはたくさんの母子が集まる  © Marcel-Philipp Werdier/MSF診療所にはたくさんの母子が集まる  © Marcel-Philipp Werdier/MSF

ビアトリスさんとケティラちゃんは危険をかいくぐり、丸一日かけてなんとかMSFの診療所にたどり着いた。診療所の受付は、大きなマンゴーの木の下にある。危険な旅路を命がけで歩いてきた二人にとっての終着点だ。マンゴーの木が日差しを遮り、親子が座る簡素な木のベンチの周囲に涼しい日陰をつくっている。

ほかにも20~30人の母親が子どもを連れて来ていた。ここには、小さな子どもが幼い弟や妹を連れて来ることも少なくない。

その後の検査でケティラちゃんは、栄養失調であり、さらにマラリアに感染していることが明らかになった。薬局でビアトリスさんは薬を受け取るだけではなく、薬の正しい飲ませ方を学ぶ。明日からはビアトリスさん自身がケティラちゃんに薬を飲ませなければならないからだ。そして、親子は再び危険な道を通り、家へと帰っていく。

医療スタッフが願う、たった一つの夢

MSFの診療所 © Marcel-Philipp Werdier/MSFMSFの診療所 © Marcel-Philipp Werdier/MSF

「中央アフリカでの活動でつらいのは、ここでは子どもたちが気持ちを抑えて育っているということです」と話すのは、MSFのアマデウス・フォンデル・ウルスニッツ看護師だ。ウルスニッツはボギラのアウトリーチ活動(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)のチームを率いて、基礎的な医療をより広い地域に届けられるようにしている。「多くの人が、終わらない暴力で心に傷を負っています。しかしこの状況は、世界に忘れ去られています」

ウルスニッツは既に4回、中央アフリカでの活動に参加した。「中央アフリカの人たちのために何を願う?」と問われると、彼は力強く答えた。「平和です。本物の、ずっと続く平和です」

和平合意も、国際社会の取り組みも、いまだ効果をあげていない。ウルスニッツの願いが実現するかどうかは、まだ誰にも分からない。

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