新型コロナウイルス:「家を燃やすと脅された」——バングラデシュ、感染者が受ける深刻な偏見

2020年07月31日
コックスバザールの病院でフェイスシールドなどの防護具を付けて作業にあたるスタッフ © MSF/Daniella Ritzau-Reid
コックスバザールの病院でフェイスシールドなどの防護具を付けて作業にあたるスタッフ © MSF/Daniella Ritzau-Reid

「検査結果は、陽性です」 新型コロナウイルスへの感染の事実が告げられた時、まず何を思うか。過密したキャンプで避難生活を送るロヒンギャ難民の人びとは、何よりも周囲の人たちからの反応が心配だという。感染者への深刻な偏見について、また、新型コロナウイルスが与えているさまざまな影響について、当事者たちが語った。 

理不尽な非難を受けた感染者の家族

バングラデシュ・コックスバザールの難民キャンプで暮らす父親であるモハンマドさんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )と診断され、国境なき医師団(MSF)のクトゥパロン仮設病院の隔離病棟で治療を受けることになった。

濃厚接触者であるモハンマドさんの家族は、自宅から出ずに過ごした。しかしここで問題が起こった。周囲の人たちが、感染者の家族は自宅でなく、もっと遠い場所で過ごすべきだと一家を非難したのだ。
「家族を隔離しなければ、我が家に放火すると脅されたのです。家族はとても怖がっていました」とムハンマドさんは話す。

世界的な指針であるグローバル・ヘルス・ガイドラインは、新型コロナウイルス患者との濃厚接触者は、自宅隔離することで安全を確保できると記載している。だが、モハンマドさんの家族は地域から離れるよう圧力をかけられた。

モハンマドさんは入院している間、家族が意に反して遠くへ行かされてしまうのではないかと心配だったと振り返る。「感染者が偏見によって周囲から理不尽な対応を受けることで、新型コロナウイルス感染症の症状がある人が検査に来なくなってしまうのです」

エボラからジフテリアまで、世界中でさまざまな感染症の流行に対応してきた経験から、MSFは「信頼」を公衆衛生対策の中心に位置付けている。病院ではどのような治療を受けても適切に扱ってもらえるし、治療を受けに行っても自分と家族の身は安全だと、人びとに信頼してもらうことが重要だ。 

新型コロナウイルスに感染しMSFの病院に入院したモハンマドさん © MSF/Daniella Ritzau-Reid
新型コロナウイルスに感染しMSFの病院に入院したモハンマドさん © MSF/Daniella Ritzau-Reid

血液が足りない……献血者を待つ7歳の少女

感染の拡大は、新型コロナウイルス感染症以外の病気を抱える人びとにも大きな影響を与えている。7歳の少女シャハラさんは、遺伝性血液疾患であるサラセミアで通院し、半ば意識不明の状態で病院のベッドに横たわっている。

シャハラさんの足と腕は棒のように細く、お腹は膨れ上がっている。サラセミアによる脾臓の腫れが栄養失調で悪化しているからだ。サラセミアはヘモグロビン値を低下させ、定期的な輸血で治療しなければ死に至ることがある。しかし今、血液が足りない。シャハラさんはもう3日も献血者が来るのを待っている。

「普段は、献血してくれる人は簡単に見つかるのです。でも、今はコロナ禍のため、協力してくれる人がいません。怖くて誰も病院に来たがらないのです」と母親は話す。

ウイルス感染を恐れて大勢の人が医療機関へ行くのを控える一方で、ロックダウンで移動も難しくなっている。公共交通機関の料金は3倍に跳ね上がった。

シャハラさんの父親は、新型コロナウイルスによる規制で日雇い労働者の職を失った。家族にとって食べ物を買うにも困るほどなのに、娘の命をつなぎとめるには、90分かけて定期的に通院しなければならない。今回の通院には300タカ(約380円)借りてバス代を工面した。

「本当につらいです。家に帰るお金すらありません。どうやって5人の子どもに食べさせてやればよいのでしょう」と母親は嘆く。 

未来への希望は続く

新型コロナウイルスの世界的大流行の中でも、人びとの人生は続き、新たな命が生まれている。

「赤ちゃんと自分はこれからどうなるのか怖くてたまりません。いつ家に帰れるかも分かりません」と、初めての赤ちゃんを出産したサイイダさんは話す。彼女は分娩中に倒れた後、帝王切開を受けるために診療所へ救急搬送された。その直後に、母子ともに新型コロナウイルスに感染していると診断されたのだ。

幸い、2人は軽症にとどまっている。「息子は酸素をもらって回復しています。以前よりよくなりました」とサイイダさんは話す。

ロヒンギャ難民のショクタラさんも出産を終えたばかりだ。「新型コロナウイルス感染症が心配なのは、私たちもウイルスのことを知っているからです。十分な距離を保つように他人には言われますが、無理です。私たちは狭い場所で暮らしているのですから。できる限りのことはしていますけれども……」とショクタラさん。

それでも、ショクタラさんは笑顔を輝かせ、「とても幸せです」と話す。将来への希望も捨てていない。「ミャンマーでは苦労が多く、恐ろしい思いをしていました。私たちは拷問にもかけられましたし。だからここにいられて幸せです。私は息子と娘の両方に教育を受けさせたい。子どもたちが良い将来を迎えられるよう願うばかりです」

※記事中の名前は仮名を使用しています。 

コックスバザールの病院で新たに生まれた赤ちゃん © MSF/Daniella Ritzau-Reid
コックスバザールの病院で新たに生まれた赤ちゃん © MSF/Daniella Ritzau-Reid

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