紛争、異常気象、コロナで子どもの飢餓が深刻 取り組み拡大を【東京栄養サミット2021】

2021年12月08日
シエラレオネ、栄養失調から回復した1歳の赤ちゃんとMSFスタッフ © Vincenzo Livieri
シエラレオネ、栄養失調から回復した1歳の赤ちゃんとMSFスタッフ © Vincenzo Livieri

12月7日と8日、「東京栄養サミット2021」が都内で開催されている。飢餓や栄養不良の問題を世界規模で解決するため、各国政府や国際機関、企業、市民団体などが一堂に会し議論する。

国境なき医師団(MSF)はこの歴史的な機会に、栄養失調の対策に十分な投資を確保し、治療アクセスを拡大すること、そして科学的効果が示された取り組みを推進することを全てのサミット関係者に訴える。栄養失調の改善は多くの子どもの命を救うことになる。

栄養失調の現状と治療不足の原因

2021年現在、世界で4500万人もの5歳未満の子どもが、命にかかわる急性栄養失調に苦しんでいる。また、発育不良の状態にある子どもは1億4900万人にのぼる。栄養が不十分な状態が長引くと、成長の遅れや知能障害、急性・慢性疾患、生産性の低下、貧困などを引き起こし、生涯に渡って影響を受ける。

栄養失調の子どもたちが治療されない理由はさまざまだ。紛争地であれば、政府や武装勢力の衝突によって人道援助が妨げられ、人びとは医療そのものを受けられない。また、大規模な洪水が続く南スーダンに見られるように、異常気象が医療へのアクセスや医療体制の維持を困難にすることもある。さらにここ数年は、資金援助の大幅な削減や、新型コロナウイルスの感染拡大、治安の悪化などにも対処しなければならない地域が増えつつある。

マダガスカル、栄養失調の状態を確認するため子どもの上腕周囲を測定する © iAko M. Randrianarivelo/Mira Photo
マダガスカル、栄養失調の状態を確認するため子どもの上腕周囲を測定する © iAko M. Randrianarivelo/Mira Photo

アフリカのサヘル地域では、栄養不足とマラリアなどの流行が重なる悪循環によって、何万人もの幼い子どもが命を落としている。子どもたちが適切な栄養や治療を受けられないと、季節性の感染症が流行する時期に「慢性的な緊急事態」が生じる。栄養治療を必要とする子どもが数百万人に達し、入院患者が急増するのだ。大規模な救急態勢を組まなくてはならないが、平時から人・物・資金不足に悩まされる医療体制での対応となり、医療従事者は心身ともに消耗する。

新たな取り組みの拡大を

一方、この20年間で栄養失調の治療は大きく進歩した。2000年代半ばに新たな治療法が開発されたことで、サヘル地域に住む数百万人の子どもも治療を受けられるようになったのだ。また同時に、それまで医療が届かず隠れていた栄養課題が世界の関心を集めるようになった。大規模な研究が行われ、子どもの栄養失調の原因やメカニズムに関してより多くのことが分かってきた。新しいワクチンやマラリア予防の戦略も導入され、幼い子どもが患う主な小児疾患の予防と治療も大きく前進。子どもの死亡率は大幅に減少した。

しかしサヘル地域では、いまだに重度の栄養失調で命の危機に瀕する子どもの治療が医療の重点となっているのが現状だ。

科学的に証明されたのは、妊娠してから子どもが2歳の誕生日を迎えるまでの1000日間、質の高い栄養を与えることの重要性だ。生後6~24カ月の子どもに、ミネラル、ビタミン、脂質、タンパク質を含む栄養価の高い栄養補助食を与えると、死亡率が大幅に低下し、急性と慢性の栄養失調を予防できることが複数の研究から明らかになっている。この方法は、ワクチン接種や飲料水の確保といった予防的な対策と、マラリアや肺炎、下痢などの早期治療を組み合わせることで、さらに効果的となる。またサプリメントを配布することで、家族が医療機関を訪れるようになり、予防接種などの他の診療も受けやすくなるという好循環も生まれる。

試算によると、これらの対策をすべて実施した場合、子ども一人あたり年間100ドル強(約11301円)のコストがかかる。しかし、このような予防的な取り組みは子どもとその家族だけでなく、医療体制や国全体にもメリットをもたらすため、優れた資金投資となる。

武装勢力による襲撃が続くモザンビーク北部で、野外診療を行うMSFスタッフ © MSF
武装勢力による襲撃が続くモザンビーク北部で、野外診療を行うMSFスタッフ © MSF

MSFが設立された1971年から現在に至るまでの50年間、栄養失調の予防や治療法は進歩したが、治療へのアクセスはまだまだ改善の余地がある。MSFは、「東京栄養サミット2021」を機に、各政府や資金拠出者が食料支援や栄養失調治療などに適切な資金を投じ、人道支援や栄養失調を含む医療へのアクセスを改善するための変革的なコミットメントが表明されることを願っている。

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