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【報告】日本超音波医学会第96回学術集会でランチョンセミナー『災害や紛争地で──資源が限られた危機的現場での超音波診断』を開催

2023年06月06日
ランチョンセミナー登壇者。左から久留宮医師、中嶋医師、鈴木医師、門馬医師 🄫 MSF
ランチョンセミナー登壇者。左から久留宮医師、中嶋医師、鈴木医師、門馬医師 🄫 MSF

2023年5月27日~29日、埼玉で開催された日本超音波医学会第96回学術集会にて国境なき医師団(MSF)がランチョンセミナーを主催しました。
 
『災害や紛争地で──資源が限られた危機的現場での超音波診断』のタイトルで実施されたセミナーでは、国境なき医師団日本の会長である中嶋優子医師を座長とし、3人の異なる専門を持つ海外派遣スタッフが登壇。会場にはほぼ満席の約150名が参加してくださり、登壇者がそれぞれの派遣先で経験した医療資源の限られた現場のリアルや、超音波診断の有用性、MSF内におけるPOCUS(ポイントオブケア超音波)のトレーニングなどについての講演を行いました。

ほぼ満席の会場でセミナーを開始する中嶋医師 🄫 MSF
ほぼ満席の会場でセミナーを開始する中嶋医師 🄫 MSF
最初の登壇者である外科医の久留宮隆医師は、特にMSFプロジェクトにおけるPOCUSの重要性とそのトレーニングや普及状況について話しました。MSFの現場ではCTなど使える検査が限られている、専門家がいない、一刻を争う緊急症例が多いことを受け、迅速に診断を狭めることができ、治療までの時間を短縮したり、コスト削減にもつながるPOCUSの必要性について伝えました。MSFはニジェール、南スーダン、ナイジェリア、ミャンマー、イラクなど多くの国でPOCUSの現地トレーニングを実施しており、例えばニジェールのデータでは初期診断や治療計画の変更・確定において有用性が確認されています。
 
次に救命救急医の門馬秀介医師より、「命を見極める超音波」というテーマで超音波を使った戦略について、救命救急における病院前救急診療(プレホスピタル)での超音波の活用法が国際医療派遣では生きることについて発表がありました。日本での病院前救急診療での各種超音波の使用は、国際医療派遣で直面する、患者や関係者が入り乱れて混乱し、1秒を急ぐ救急診療の場に生きると話し、実際に自身が使用したことのある超音波機器の比較や、FAST(Focused Assessment with Sonography in Trauma)/E-FAST(Extended-FAST)、RASH、Blue protcol等の、命の現場における具体的な超音波診断戦略について例をあげながら、紛争地や災害地など資源が限られた危機的現場においては超音波診断だけではなく治療戦略が必須であると訴えました。
 
最後に産婦人科医の鈴木美奈医師は、派遣先で撮った超音波検査のビデオや画像を示しながら、超音波検査が可能だったからこそ救われた胎児や母親のケースを紹介。CT、MRIがなく、また妊婦健診などが定期的に行われないような国では、日本では診たことのないような重症例の患者が来ることや、自身が培った知識と経験、そして内診と超音波検査のみで全てを診断しなければならない現状を話しました。マラウイの子宮頸がんプロジェクトでも、CTやMRIがないため超音波で目を凝らしながら腫瘍の状態を判断し、治療を決めなくてはならなかった経験などを紹介。MSFの現場は超音波に支えられており、超音波は命を救うとても重要なツールであると締めくくりました。
 
質疑応答では、小児科の参加者より「日本では小児や成人などそれぞれ専門に分かれているが、現場においてはどうなのか」という質問があり、久留宮医師がMSFの現場においては小児・成人のみならず自身の専門外の症例も多く診療することとなり、幅広い知識やトレーニングが必要と回答しました。また門馬医師は救急の現場においては、多くの医師が小児も診られるジェネラリストとして対応している傾向も紹介。その他、座長の中嶋会長からの「POCUSトレーニング後の現地スタッフの技術向上について」「ウクライナやパレスチナ・ガザ地区における超音波検査の状況」「鈴木医師がどのようにして現地で内診や超音波検査の技術を習得したのか」といった質問に登壇者が回答しました。
 
アンケートでは75名の回答者のうちほぼ全員が、内容について「良かった」と答え、医療資源の限られた現場での超音波使用については「理解が深まった」と回答。「超音波の開発者として非常に刺激になる内容でした」「『超音波が命を救う』という言葉に感動しました」「長年超音波に携わっていますが、救急や海外で大いに役立っていることを嬉しく思います」などの言葉が寄せられました。
ブースで参加者に団体案内をするスタッフ 🄫 MSF
ブースで参加者に団体案内をするスタッフ 🄫 MSF
 また同学会にはMSFのブースも出展しており、3日間を通して多くの方が話を聞きに立ち寄ってくださいました。ブースでは実際に海外派遣スタッフとしての参加を考える方への応募資格などの詳しい情報提供や、実際に参加はできないけれど寄付者としてサポートしたい、などの想いを持ってくださる方への寄付案内などを行い、3日間ブースを運営したスタッフと参加者のとても充実した交流がありました。

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