プレスリリース

地中海:MSFとシーウォッチが共同し、人命救助プロジェクトを始動

2020年08月06日
地中海での救助活動の準備を進める「シーウォッチ4号」=スペイン・ブリアナ港で8月5日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF
地中海での救助活動の準備を進める「シーウォッチ4号」=スペイン・ブリアナ港で8月5日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF

国境なき医師団(MSF)は、独NGO「シーウォッチ」と共同し、新しい救助船「シーウォッチ4号」で地中海中央部での捜索・救助活動を開始する。この協力関係は短期間で実現したが、その背景には、欧州連合(EU)加盟国が、新型コロナウイルス感染症を口実に地中海での捜索・救助活動を縮小し、リビアで続く暴力や虐待を野放しにしている政策がある。意図的に人命救助しないという政策によって、地中海を越えようとした多くの人びとが死に追いやられた。

「アフリカから来た人びとの救助を拒否」

「地中海で溺れ死ぬ人たちを放ってはおけませんし、リビアでの拷問や暴力も許されることではありません」とMSFのオペレーション・ディレクターを務めるオリバー・ベーンは言う。

「こうした事態は欧州政府の不当な職務怠慢によって起きています。もちろんMSFは医療・人道援助団体として新型コロナウイルスがもたらした課題を認識していますが、地中海での人命救助活動を妨害したり阻止したりする最近の政府措置は、公衆衛生をうたっていても、内実は政治的意図に基づいたものだと言わざるを得ません」
 
「欧州政府は、正当性を疑われる措置をとってきたリビア沿岸警備隊(※)にヨーロッパとの国境の警備を任せ、アフリカから来た人びとの救助を拒否しました。これは『難民の命など、どうでもよい』という強烈なメッセージを発しているにほかなりません」  ※過去に人権侵害を疑われる行為や、内戦下のリビアへ強制送還を行ったとされる
 
この5カ月間、イタリアとマルタは海難者の救助を幾度となく拒否し、さらに救助者を乗せたNGOの船に対して港を封鎖してきた。こうして意図的かつ組織的に救助の連携が断ち切られた結果、多くの人びとが援助を受けられないまま、何時間も、何日も、ときには数週間も海上に放置された。
 
国連をはじめとする国際機関は、移民や難民にとってリビアは安全な国ではないと断定しているにもかかわらず、 2020年だけですでに5650人が拘留され、リビアへと強制送還された。これはEUが資金援助し促進する二国間協定の一環として行われたものだ。さらに、民間の捜索・救助船として活動した「シーウォッチ3号」や「オーシャン・バイキング号」は、細かな規則上の不備を理由に、イタリアへの入港を禁じられた。  

MSFとSOSメディテラネが運航した「オーシャン・バイキング号」に救助された人びと=2019年 © Johan Persson
MSFとSOSメディテラネが運航した「オーシャン・バイキング号」に救助された人びと=2019年 © Johan Persson

幅広い支持を集める民間の救助活動

政府による違法視とは対照的に、民間の海上救助活動は世間の幅広い支持を得ている。「ユナイテッドフォーレスキュー(United4Rescue)」はそうした支持者団体の1つ。同団体によりシーウォッチ4号が購入され、救助活動目的で就航する運びとなった。 2019年12月に独プロテスタント教会が主導し設立されたUnited4Rescueは、現在では教会の枠をはるかに超え、 500人以上の会員を擁している。

「シーウォッチ4号の活動を後援する幅広い協力は、移民の人びととの連帯を象徴するものであり、 EUの人種差別的な政策に対する市民の反対表明です。ヨーロッパ沿岸に人びとを到着させるより、溺れさせた方が良いなどと誰が賛同できるでしょうか」とシーウォッチ4号の活動責任者フィリップ・ハーンは言う。
 
「当局がどれほど妨害しようと、私たちは救助を止めるつもりはありません。人びとが溺れ死ぬか、リビアに連れ戻されるかという極限の時に、 EUの国境警備機はただ上空から監視するにとどまり、悲劇に加担しています。 EU諸国が人びとを溺死させている限り、私たちは行動を続け、支持を得ていくでしょう」

新型コロナウイルスによって状況はさらに深刻に

リビアに強制送還された数百人の多くは消息不明となっている。他の人びとは衛生状態が悪く、水や食べ物も満足に得られない環境で収監されている。新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも、過密な空間で互いに距離を取ることもできない。 2020年初めにリビアで紛争が激化したが、新型コロナウイルスの発生により、崩壊寸前だったリビアの医療体制と人道危機はさらに深刻な状況に陥っている。

6月だけで地中海中央部での死者・行方不明者は、少なくとも101人にのぼると報告された。 7月末には、リビアに強制送還された3人が射殺され、 2人が負傷した。一方で、この危険な海域を壊れやすいボートで渡ろうとした人の数は、昨年同期比の4倍に達した。安全で合法的な他の選択肢がない限り、人びとは最後の手段としてこの危険な地中海横断を試みる。捜索・救助活動がなくとも、人びとはリスクを冒して海を渡るだろう。留まれば、危険が増すばかりだからだ。

United4Rescueが海難捜索・救助船に改造した「シーウォッチ4号」=スペイン・ブリアナ港で8月5日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF
United4Rescueが海難捜索・救助船に改造した「シーウォッチ4号」=スペイン・ブリアナ港で8月5日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF

シーウォッチとMSFの合同活動について

今年2月、 United4Rescueは、海洋調査船を購入しシーウォッチ4号と改名、地中海中央部での捜索・救助活動のために改造した。シーウォッチは船の運行と、ボランティアを含む21人のチームで救助活動を行う。 United4Rescueの支援者でもあるMSFは、同船上で救急医療とともに、船内医務室の運営も担当する。医師と助産師を含む4人の医療チームと、広報とアドボカシーを担当する2人のスタッフが乗船する。シーウォッチとMSFは共同で食料と必需品の配布や、緊急搬送が必要な人の特定などを行う。

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