プレスリリース

ナイジェリア:北西部ザムファラ州で暴力拡大 深刻な人道危機に

2021年06月04日

ナイジェリア北西部のザムファラ州で武装集団による拉致や略奪などの暴力が拡大し、深刻な人道危機が発生している。現地の人びとには、食料、飲み水、仮設住居、保護や医療を含む公共サービスが圧倒的に不足している事態を受け、国境なき医師団(MSF)はナイジェリア当局や国際的な援助団体に対し、地域住民への緊急の援助開始を呼びかけている。 

拡大する暴力と急増する子どもの疾患

同地では、もともと農耕民と牧畜民との間で先細る農地と水資源を巡る衝突が散発的に起きていたが、次第に武装集団が台頭し、効率的な搾取の手段として拉致と略奪を繰り返す無差別な暴力へと発展した。

MSFの医療施設までたどり着いた人びとは、拡大する暴力によって、住まい、農地、牧草地を離れざるを得なかったと話す。一部の人はアンカなど州内の比較的大きな町に避難し、公式・非公式の避難民キャンプに滞在しているが、どのキャンプも定期的な食料配給や適切な仮設住居がなく、水やトイレなども不足しており、環境は過酷だ。また、治安の悪い道路の通行をためらい村落にとどまった人びとは、医療や生活のための移動もできないでいる。

アンカ町でMSFが支援する病院で活動するゴドウィン・エムダノフォ医師は、「ザムファラ州で私たちは、食料、飲み水、住居、ワクチンの不足に起因する予防可能な疾患の深刻な増加を目の当たりにしています」と話す。「非常に状態の悪い子どもの来院が後を絶ちません。今年1月から4月までに、アンカ、ズルミ、シンカフィの3つの町で、1万300人の子どもを治療しました。重度急性栄養失調、はしか、マラリア、水様性下痢、呼吸器感染症が多く、昨年の同時期と比較すると54%も増加しています」
 

「子どもにあげる食べ物がない」

MSFの病院ではしかの治療を受けるハリマさんの子ども 🄫 MSF/Ghada Saafan
MSFの病院ではしかの治療を受けるハリマさんの子ども 🄫 MSF/Ghada Saafan

「子どもにあげる食べ物がほとんどありません」そう話すハリマさんの2人の子どもは、アンカ町の病院で重度栄養失調治療を受けている。「武装集団に農園を荒らされるので、もう穀物を育てることもできません。子どもたちは2人ともはしかにかかって、やせ細ってしまいました。道路はとても危険ですが、他にどうしようもなく命がけで病院に連れて来たのです。以前、年長の娘がはしかにかかった時は、危険を考慮し来院が遅れたために、合併症で視力を失ってしまいました」

国際移住機関(IOM)によると、ザムファラ州内の避難民は2020年8月以降、1万2000人以上増加し、2021年2月時点で12万4000人超となった。MSFもアンカ町だけで、過去4カ月の新規避難民、約1599人を含む1万4000人を確認している。

アンカ町の外れの避難民キャンプに身を寄せるナナさんは話す。「牛を飼って生計を立てていましたが、牧草地を離れざるを得なかったので、家畜もほとんど盗まれてしまいました。今は食べるものがほとんどありません。地元の人に牛乳を売って、やりくりしています」

アンカにあるMSF病院のエムダノフォ医師らMSFスタッフは、さらに状況が悪くなることを懸念している。「小児科病棟にある150のベッドはもう満床です。人びとは次の収穫期に向けた農作ができないと言っています。これは新たな飢餓の到来を意味します。これから雨期に入れば、マラリアなどの季節性疾患も増えます。この地域の人びとには食料と安全な水とワクチンが今すぐに必要です」
 

拉致と性暴力が倍増

武装した強盗から銃で撃たれた傷の手当を受ける若い男性 🄫 MSF/Ghada Saafan
武装した強盗から銃で撃たれた傷の手当を受ける若い男性 🄫 MSF/Ghada Saafan

暴力が渦巻くなか、拉致、殺人、武装強盗、性暴力の報告も倍増している。シンカフィ町でMSFが運営する性暴力生還者のための診療所で、医療活動マネジャーを務めるノーブル・ンマ医師は、「ザムファラ州では1~4月の期間に100人以上の性暴力生還者を受け入れました。女性や時には男性も武装集団に連れ去られ、何週間にもわたる暴行を受けた後で、元の場所に戻されます。女性はさらに、自身の生活圏でも暴力の危険にさらされています」と語る。

危険な道路を通る恐怖から、レイプ生還者が支援を求めるのが遅れたり、諦めたりする場合も多い。ンマ医師は、「私たちの診療所に来る頃には、性感染症の予防には手遅れとなっており、心に深い傷を負って、早急なケアが不可欠な状態ということもよくあります。」と話す。「また、診療所に来た患者さんによると、道路を通る恐怖から、診療所に来ることもできないレイプ生還者も大勢いるそうです。私たちが目にしているのは性暴力被害の氷山の一角ではないかと心配です」

MSFはザムファラ州で活動中の数少ない援助団体の1つとして、この地域の人道援助と人道的保護の緊急拡大の必要性を繰り返し訴えてきた。MSFの現地活動責任者、フラウキェ・ペルスマは、「ザムファラ州の状況は私たちの目の前で急激に悪化していきました。ナイジェリア北西部の人びとの命は今、空腹、暴力、予防可能な疾患に脅かされています。いまここで起きているのは迅速かつ適切な対応を必要とする人道危機であり、当局や国際的な援助団体は早急に行動を起こすべきです」と訴える。
 

MSFはザムファラ州で2010年から活動してきた。アンカ町の病院では小児病棟(150床)を担当し、町内最大の避難民キャンプで基礎医療を提供するほか、周辺地域を含む複数の栄養失調の外来診療所を運営。シンカフィ町では、39床の栄養失調治療病棟、他の疾患用の隔離テント1張、性暴力生還者用の診療所1施設を運営。またマラリア治療の対応能力拡大に協力した。ズルミ町では30床の小児栄養失調治療センターと、性暴力生還者用の診療所1施設を支援している。また、すべての活動地で、心理ケアも行っている。MSFは ナイジェリアで1996年から継続的に活動。現在はザムファラ州に加え、ボルノ、ジガワ、ソコト、ベヌエ、エボニー、カノ、バウチ、カツィナ、ケッビ、リバーズの11州にチームを展開している。 

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