海外派遣スタッフ体験談
多くを学び「若返った」気持ちに
菅村洋治
- ポジション
- 外科医
- 派遣国
- イラン
- 活動地域
- メヘラン
- 派遣期間
- 2007年12月~2007年12月
- QなぜMSFの海外派遣に参加したのですか?
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宿舎中庭でMSFスタッフと
昨年1月に65才の定年を迎え、若いときからの夢、国際医療協力実現への好機到来と考えました。昨年1月に晴れてMSFのメンバーとなりました。私はMSFの精神、「誰からも干渉や制限を受けることなく、助けを必要としている人びとのもとへ向かい、人種や政治、宗教に関わらず分けへだてなく援助をする。」に賛同し、昨年5月に初めてナイジェリアへの派遣に参加しました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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政情が不安定なために十分な医療を受けられないイラク国内の救急外傷患者を、イラン(イラン・イラク国境の町、メヘランの保健省の病院)に移送して適切な医療を受けられるようにするプログラムです。業務内容は当院の救急治療体制の確立(手術機器材、麻酔機器、医薬品の確保、手術室、ICU、外科病棟の点検と整備、現地スタッフの養成など)と患者受け入れのための諸準備に携わりました。また、出来るだけ時間を作って、病院の現地スタッフと交流を図り、良いパートナーシップを保てるように努めました。
- Q週末や休暇はどのように過ごしましたか?
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宿舎からの落日遠望
イスラム圏のため、1週間の仕事は日曜日朝から金曜日午前中までした。メヘランは国境の町のため、市内での写真撮影が厳しく制限されるなどの緊張感はありましたが、日中の外出は問題なく、インターネットカフェや雑貨屋(大きなスーパーマーケットなどはありませんでした)めぐりを楽しみました。午後2時から4時までの休憩時間には読書をするか、日本から持参したバイオリンを演奏して気分の転換を図りました。仕事も一段落し、日々の変化にも乏しく、もちろんアルコールは禁止の国なので、一日が長く感じられました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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宿舎はMSFの事務所も兼ねる素焼きレンガ造りの2階建てで、メヘラン病院へは徒歩15分の距離でした。周囲は砂地で高い建物がないので、ほとんど毎日地平線上の素晴らしい日の出と日の入りが楽しめました。外国人派遣スタッフは3名だけだったので、二人部屋を一人で使用しました。シャワーは共有でした。トイレは宿舎を出た中庭にあり、使用後はバケツで水を流すユニークな造りで、一昔前の日本の田舎を思い出しました。食事はライスとナムを主食に、野菜のスープやカレー煮込みなどの簡単なイラン料理を雇いの料理人に作ってもらいました。その他、野菜サラダや卵料理など、各自の好みに応じて自分で作りました。夜間は温度が下がるのでエアコンが必要でした。もっとも、前任者の話では夏場は60度にもなったそうです。洗濯は週に2回、洗濯機を利用して自分でしました。
- Q良かったこと・辛かったこと
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良かったこと:
初めてのイスラム圏での生活で異文化を楽しめました。特にイラン人の礼儀正しさと日本人に対する好意、親近感にしばしば触れることができ、認識を新たにしました。イスラム教の戒律が大変理にかなっていることも判り、お互いの宗教を理解し認め合うことが、これから先、世界の人びとが仲良くしていくために必要であることに気づかされました。ユーモラスでバイタリティーに富むMSFのスタッフたちとの共同生活を通じて、いろいろなことを学ぶことが出来たのが良かったのはもちろんです。派遣期間が終了して帰国した後、脳内回路が再活性化し老人性健忘症が改善していると妻にほめられました。友人たちに「若返って帰ってきた」と言われました。
辛かったこと:
肉体面、生活環境で辛いことはありませんでしたが、プログラムの先の見通しが不明な点が気がかりでした。幸か不幸か、外科処置を必要とする患者がまだいなかったので、外科医の本分を発揮する場がなかったのが寂しい限りでした。一番辛かったのは「禁アルコール」でしたが、幸い禁断症状が出ないうちに帰国できました。
- Q派遣期間を終えて帰国後は?
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メヘラン病院スタッフと
まずは禁酒期間中の遅れを取り戻すために?正月は酒を痛飲します。それから週2日の非常勤勤務にもどり、平和大国日本で少しぼけながら充電します。MSFからお呼びがかかれば、また次のミッションで放電したいなー、と思っています。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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退職または休職して新しい仕事に就こうというのは、大変勇気がいることです。MSFの派遣活動に参加し、活躍している世界中のスタッフを見て感じたのは、彼らは諸々の困苦にもめげず、実に生き生きと医療活動に携わっている、ということです、活動地では国内での仕事と一味違う、達成感のある仕事を実感できるからではないでしょうか。海外での活躍のためにはもちろん、通常からの「心・技・体」の鍛錬と共に、コミュニケーション・スキルとしての語学研修、異文化理解への努力が欠かせないと思います。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2007年5月~2007年6月
- 派遣国・プログラム地域:ナイジェリア・ポートハーコート
- ポジション:外科医