海外派遣スタッフ体験談
スラムに囲まれた現地病院で救命救急を担当
松田 美穂
- ポジション
- 正看護師
- 派遣国
- ケニア
- 活動地域
- ナイロビ
- 派遣期間
- 2015年9月~2016年3月

- Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?
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幼いころは病気がちで、入院する機会があり、そのころから看護師になりたいと思い始めました。また、途上国で医療活動をする看護師をメディアで目にするたびに、私は幸運なことにたまたま日本に生まれ、食事も教育も満足に受けることができるのだから、少しでも途上国で疾病をかかえる人たちの役に立つよう努力しなければ、と思うようになりました。
看護師として日本で経験を積み、青年海外協力隊でベトナムでの海外業務経験を積んだ後にMSFにチャレンジしてみようと、自分の中で進む道を描いていましたが、念願かなって、今に至っています。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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MSFに参加するまでアフリカでの医療活動の経験がなく、熱帯医学の知識が乏しかったため、大学の熱帯医学コースを受講しました。
英会話学校の受講、無料体験レッスン、英語喫茶、オンライン英会話など、とにかく日々英語でコミュニケーションをする機会を確保することに努めました。青年海外協力としてベトナムに2年間滞在しましたが、その間は業務言語がベトナム語であり、英語で業務をしたことは今までありませんでした。
- Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?
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日本国内の病院では、脳神経外科病棟、集中治療室、救命救急で経験を積みました。なんといっても一番役に立ったのは、青年海外協力隊としてベトナムの救命救急で活動した2年間の経験です。価値観・文化の異なる現地の医療スタッフへ知識・技術を伝達するには、理論的なアプローチと感情的なアプローチの両者が大切であることに身を持って気づかされ、効果的な介入方法を考える基盤となりました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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主な活動場所であった現地保健省の病院
ナイロビ市内のスラムの1つであるマタレに拠点を置くプロジェクトのなかで、救命救急を担当していました。ナイロビの複数のスラムに囲まれた保健省の病院の救命救急部において、トリアージ(※1)の改善、蘇生・クリティカルケア(※2)の実践と、現地スタッフに対するそれらのトレーニングがおもな業務でした。
また、定期的に薬剤や衛生用品の管理状況をチェックし、夜間でも速やかに必須医薬品にアクセスできるように、病院薬剤部と連携をとることも大切な仕事でした。
コレラ治療ユニットに並ぶベッド
人的・物的管理については、その都度、現地病院の救命救急看護師長にフィードバックしましたが、必要であれば、病院幹部と私たちMSFスタッフが毎週参加する会議で提言・改善の要求を粘り強く続けました。
予算があれば変えられる物的側面と違って、現地スタッフの患者さんに対する対応の改善に努めることは、価値観や習慣に付随する難しさがありました。コレラがまん延する時期にはコレラ専用の治療ユニットができ、10~12月の小雨期に入ると瞬く間に満床となっていました。熱帯医学の授業で写真でしか見たことがなかった、お尻の部分に穴が開いたベッドが設置されていました。
- 重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること
- 重症患者に対する看護や医療
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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朝7時にMSFの宿舎を車で出発、マタレにあるMSFの診療所兼事務所へ到着後、ミーティングや書類・プレゼンテーション作成などを行います。9時半には車で保健省の病院へ出発し、到着後は救命救急部にて活動します。午後3時半にMSFの診療所兼事務所へ戻り、診療所に重症患者がいないようであれば、書類作成などのデスクワークを行います。
ときどき、車で40分ほど離れた場所にあるMSFの倉庫へ行き、大規模なマスカジュアリティー(集団災害)に備えたセットを組んだり、入庫・在庫の整理の手伝いをしていました。
安全上の理由から、午後5時にはマタレを離れ、宿舎へ戻ります。宿舎では、敷地内でランニングをしたり、夕食の準備をしたり、デスクワークの続きなども行っていました。
休日は、安全上許可される範囲内で山登りや国立公園散策などをして、アフリカならではの自然を満喫できました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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常時3~5人の海外派遣スタッフと共同生活で、それぞれ個室を持つことができました。水道がよく止まるアパートでしたが、不快に思うほどではありませんでした。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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MSFの診療所兼事務所で、スタッフとともに
朝、鶏が騒ぐ音がして起きると、アフリカ出身の海外派遣スタッフがキッチンでさばいていました。そこへ、ベジタリアンでヨーロッパ出身のエキスパットが駆けつけて、ひと目見るなり悲鳴を上げました。そのあと、ふたりはしばらく言い合いになり、お互いに主張しあっていました。
私は多国籍の人びとと共同生活することが初めてだったので、異文化のぶつかり合いを見たり、時には巻き込まれたことが、面白くもあり貴重な体験でした。
活動の中心地だった保健省の病院では、憤りを感じるような出来事があっても感情をあらわにすることを控えていましたが、MSFの事務所へ戻ってくると、悩みなどをスタッフ同士で共有し、エネルギーを蓄えることができました。
- Q今後の展望は?
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青年海外協力隊のときも、今回のMSFの派遣も、主な活動場所が保健省の病院であり、現地保健省と協働する形態で活動してきたので、今度は、MSFが運営する医療施設で経験を積みたいと思います。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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いろいろと考えることや躊躇(ちゅうちょ)する気持ちは多少なりともあると思いますが、やりたいと思う気持ちがあるなら、参加されてはどうでしょうか。一度きりの人生です。