海外派遣スタッフ体験談

難民キャンプの病院で質の高いスタッフをマネジメント

小島 毬奈

ポジション
助産師
派遣国
イラク
活動地域
ドミーズ
派遣期間
2015年3月~2015年9月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

前回のパキスタンの派遣活動から帰国して、しばらく日本のクリニックでアルバイトをしていました。帰国して、半年くらいは日本で働きながら今後のことを考えようと思っていました。でも、やっぱり活動地に戻りたい、という気持ちでうずうずしてきたので、予定より早く再度参加しようと思いました。

いつも、活動終了時には「自分はまだまだだなぁ」という、自分なりの課題を見つけるので、次の派遣に行こうと思うのは、自分の中では自然なことです。世界は思っている以上に広く奥深いので、もっと知りたい、現地の人と働きたいという気持ちも行くたびに強くなります。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

とことん日本食を食べました。前回活動したパキスタンはイスラムの国で、豚肉は食べません。派遣中の食事では、肉は鶏肉ばかりだったので、帰国後は日本の焼肉に感動しました。

技術面では、ALSO-Japan(周生期医療支援機構)のインストラクターのアシスタントをさせていただき、しばらく日本の技術に触れていなかったため良い刺激にもなりました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

これまでのMSFの経験は、今回も日々の業務ですべてが役に立ちました。前回のパキスタンでの経験は、子癇(しかん)発作、子宮破裂などのハイリスク症例が本当に多かったので、それらに対応した経験はとても役に立ちました。

今回活動したのは開設して半年ほどの病棟で、スタッフも新しい人が多かったのですが、現地スタッフに向けてのトレーニングなどは前回の派遣でもやっていたので、その経験も大いに役に立ちました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
イラク、ドミーズ難民キャンプ イラク、ドミーズ難民キャンプ

イラクのシリア人難民キャンプにある病院にて、産科病棟のマネージャーを務めました。妊婦検診、分娩、産後検診、家族計画を現地スタッフが行い、私は現地スーパーバイザーと協力して、診療が滞らないよう、分娩が安全に運ぶように見守っていました。

現地のスーパーバイザーはとても管理能力の高い人だったので、彼女が中心となってスタッフを管理できるように、自分が前に出過ぎないように常に心がけていました。

シリア人の現地スタッフは教育水準も高く、技術面でも信頼できたので、忙しい時以外は、私が検診、診察や分娩に直接手を出すことはほとんど無かったです。助産師9人、看護師4人で、月に100件前後の分娩件数でした。ハイリスクや帝王切開の必要なケースは、救急車で30分ほどの大きな施設に搬送していました。

イラクの国内避難民の移動診療にも参加し、妊婦検診や産後検診を各村で実施しました。往復4時間かけて出かけていき、診療時間は3時間と短いですが、チームで協力して効率良く患者さんを診ることができました。

空爆でつぶれてしまった家ばかりで、紛争の前線にも近く銃声なども聞こえてくるような場所で、精神的なストレスから来る頭痛、不眠、子どもでは夜尿症など、身体的な症状に苦しむ人が多かったです。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
オフィスでミーティング オフィスでミーティング

朝8時半にオフィスへ出勤し、9時にはキャンプの病院へ車で移動します。夕方4時頃まで業務を行い、その後オフィスへ戻って6時まではオフィスで仕事という感じでした。

週に1度、早朝や夜中にキャンプを訪問する事もありました。日勤は、3人の助産師と1人の看護師で妊婦検診をやりながらの分娩介助なので、忙しいときには私が手伝うこともありました。

週末は、どこかの家に集まってみんなでご飯を食べたり、毎月、任期を終えた海外派遣スタッフのお別れ会や誕生日会をしたりしていました。近くのホテルのプールや、市場、ショッピングセンター、映画館にも行きました。イラクというと戦争のイメージが強いかもしれませんが、緑地も多く、現地スタッフとピクニックやBBQに行ったりもしました。私がいたのは夏真っ盛りで気温は50度以上でしたが、季節がいい時には山登りなどもできるそうです。

Q現地での住居環境についておしえてください。
何度も巻き寿司を作り、大好評でした 何度も巻き寿司を作り、大好評でした

ドホークというクルド地区の街にオフィスと住居があり、治安は安定していました。夜も出歩くことができるくらいでした。海外派遣スタッフ用に1軒家があり、各家に常時3~6人で共同生活をしていました。

私はオフィスから一番近い家に住んでいました。近所の子どもたちに毎日「マリナ、マリナ!!」と名前を覚えて呼ばれるくらい和やかで、ご飯のおすそ分けをもらうなど、楽しい近所付き合いもありました。

宿舎ではほとんどの部屋が個室でシャワーとトイレが付いており、エアコン(停電すると3時間は動かないのですが)もWiFiもあり、特に不便はありませんでした。

朝昼はスタッフはそれぞれの場所で仕事ですが、夕食の時間になるとリビングに集まり、誰かが作る夕食を食べるというルールが自然にできており、私も週2日は料理を作っていました。スタッフは国際色豊かで、いろいろな国の料理が食べられたのは良かったです。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
現地スタッフのトレーニングの様子 現地スタッフのトレーニングの様子

日本のニュースでも報じられたように、ヨーロッパへ向かうシリア人が急激に増え、プロジェクトも影響を受けました。私の部署からは3人の助産師が突然辞職し、ヨーロッパへ発ちました。安全にたどり着けたか、今でも心配になります。

人をマネジメントするということは一筋縄ではいかないということを痛感しました。シリア人は教育水準も高く、健康意識も高いです。その分、医療でもそのほかのサービスでも質の高いものを求めます。マネジメントの面でも高い期待を寄せられました。

移動診療では、国内避難民が住んでいる地域に行きましたが、そこは壊された建物やテントが並んでいるだけで、牛とヤギ以外、本当に何もありません。精神的身体的にタフな生活をしているにも関わらず、それでもいつも私たちを笑顔で迎えてくれました。物質的に豊かなことだけが幸せじゃないということを感じました。

Q今後の展望は?

しばらく日本の臨床現場で働いて、また活動に参加したいと思っています。今回は助産師としてのスキルを使うことが少なかったので、次はオンコールもあるようなプロジェクトで活動できたらと思っています。あとは、MSFが活動する場所はフランス語が主要言語として使われている国がたくさんあるので、フランス語の勉強をはじめました。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

活動中は大変で心が折れそうになる事もありますが、いつも終わりには「来て良かったな」と思います。本当にいろんな事が起きます。解決できない問題もたくさんありますが、その度に得るものは大きく、自分を成長させてくれます。

世界各国の人と同じ目標を共有する体験は、やはり日本を出ないとできませんし、そこから学ぶことはとても大きいです。日本では教科書でしか見られない症例をたくさん経験することができて、助産師として貴重な経験ができて本当に良かったと思っています。

異なる環境での仕事は心身ともに消耗するのは確かなので、体力や精神力に自信をつけて、ぜひ挑戦してください。日本人の高い仕事力を必要としている人びとは世界にたくさんいるので、ぜひ一緒に働きましょう!

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