海外派遣スタッフ体験談

国内避難民への健康教育をマネジメント

宮家 佐知子

ポジション
ヘルスプロモーター
派遣国
南スーダン
活動地域
上ナイル州ワウ・シルク
派遣期間
2016年1月~2016年6月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

日本の大学卒業後、イギリスの大学院で開発学や社会政策の学位取得、政府系国際協力機関のボランティア事業・調査研究・技術協力プロジェクト実施など、これまで10年以上、さまざまな身分で政府開発援助に関わってきました。

特に、過去7年ほどは保健関連の事業実施に関わり、自分の専門知識を磨く必要性を感じたため、2014年から1年間イギリスで公衆衛生を学びました。学位取得後に次の進路を考える際、大学院で学んだ公衆衛生の知識を生かせ、これまでと異なる組織形態による事業への参加を考えるようになりました。

MSF経験者の同級生から話を聞いたり、社会科学系バックグラウンドの人材も医療チームメンバーとしてのポジションがMSFにあることを知ったりしたことから、MSFへの参加に興味を持つようになりました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

プロジェクトマネジメントに関しては過去の職務経験があり、公衆衛生の知識に関してはイギリスで学んできたばかりですので、派遣に向けての特別な準備というものは行っていません。ただし、担当業務に関連するような情報は、事前にできるだけインターネットで調べたり、MSF日本事務局経由で紹介いただいたMSFの南スーダン事務所やプロジェクトの関係者に実際に問い合わせたりして集めるようにしました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

前述のように、これまで政府開発援助の事業に関わってきました。これまでの経験すべてが、今回の派遣で生かせたと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
ワウ・シルク病院の入院病棟 ワウ・シルク病院の入院病棟

私が参加したプロジェクトは、2013年に南スーダンで始まった内戦のため国内避難民となった人びとが住む、上ナイル州のワウ・シルク(国際移住機関のデータによると2015年12月~2016年1月の人口は2万433人)へ基礎医療および2次医療サービスを提供するというものでした。

プロジェクトは結核およびカラアザール(内臓リーシュマニア症)患者の早期発見と治療を柱に形成され、その後、一般外来および入院病棟、救急救命(ER)、入院栄養治療(ITFC)、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)など、提供する医療サービスの幅は地域のニーズに応える形で広がっています。

同地域にはMSF以外に、公的な基礎医療機関やほかの国際NGOによる基礎医療機関や栄養補給プログラム、民間の診療所や薬局などもありますが、いずれもサービスの質は課題のようです。

地域住民を対象とした衛生教育セッション 地域住民を対象とした衛生教育セッション

私が派遣された期間は、プロジェクトの立ち上げ期から安定期への移行期でした。当初の診療所は狭い土地にテントづくりの簡素なものでしたが、後半2ヵ月は、新たに確保した広い土地に病院(15床)の建設が始まり、病院設備は各段に改善されました。外来患者数は週に300人~400人程度でした。

症例は季節や時期により異なると思いますが、主なものは次の通りです。外来患者の主な症例は、急性下痢症、上気道感染症、下気道感染症、尿路感染症およびマラリアです。入院患者の主な症例は、急性下痢症、下気道感染症および重度の栄養失調などです。

私が派遣された時期の海外派遣スタッフは7人でした。プロジェクト・コーディネーター1人、医療チームリーダー1人、医師1人、看護師2人、IEC(自分)、ロジスティシャン1人、アドミニストレーター1人です。現地スタッフの数は病院の拡大に伴いどんどん増えていき、日雇いのスタッフを含めると100人以上のスタッフがいました。

私が担当したIECチームは30人のチームでした。内訳は現地IECスーパーバイザー1人、地域保健担当者をまとめるリーダー6人および、23人の地域保健担当者です。

いずれも、2013年に国内避難民としてワウ・シルクに避難してきた人びとです。そのためバックグランドは非常に異なり、日本でいう高校生ぐらいの若いスタッフもいれば、すでに政府機関で働いていた人や、教師として学校で働いていた人など、本当にさまざまでした。

地域の保健担当者によるグループディスカッション 地域の保健担当者によるグループディスカッション

私は本プロジェクトに初めて派遣されたIECチームの責任者として、コミュニティーの現状把握、IEC活動の計画立案、主な疾患(結核、カラアザール、マラリア、下痢と衛生)に関するヘルス・プロモーションの主要なメッセージや資料の作成、IECチーム構成の再編、スタッフの能力強化および評価といった、IEC活動を積極的に行うための基盤づくりを行いました。

私自身が直接コミュニティーに入っていき、ヘルス・プロモーションを行うということではなく、マネジャーとしてチームをまとめていくこと、活動の方向性を示していくこと、スタッフの能力強化が求められました。

いずれも私1人で行うのではなく、医療職のスタッフへ意見を求めたり、上司に相談したり、そして自分のスタッフたちと協議したりと、独りよがりの活動にならないようにできるだけ配慮して業務を行いました。

また、帰国前の2週間はコレラ予防経口ワクチンのキャンペーン準備と実施に関わり、大変ながらも非常に貴重な経験を積むことができました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
地域保健担当者が仕事をする現場を訪問する筆者(写真左) 地域保健担当者が仕事をする現場を
訪問する筆者(写真左)

私がいた期間は猛暑でしたが、できるだけ現場に出かけるように心がけました。そのため、週の半分以上は現場ですごし、残りは事務所でレポート作成、活動案・資料の作成や研修の準備などを行っていました。

勤務時間は月曜日から金曜日の朝8時から夕方5時までなのですが、これらの時間内ですべての業務を終えることは難しく、ほかのスタッフも含めて、夜の8時ごろまで仕事をすることが普通でした。緊急プロジェクトではないので土・日曜日はできるだけ休息するように上司からの指示がありましたが、半分ぐらいのスタッフが週末も仕事をしていました。

時間があるときには、白ナイル川のほとりを散歩したり、地域のマーケットでお茶を飲んだりと適度な気分転換をするように心がけました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

赴任当初2ヵ月は、テントでの共同生活でした。大きなテントが2つあり、1つはプロジェクト事務所兼ダイニング、もう1つは10個程度のベッドが並んだものです。シャワーは公共の水場からバケツに水をくみ、トイレは裏にある学校のトイレを借りるという状況でした。私は特に気になりませんでしたが、このような住居環境にストレスを感じているスタッフもいました。

後半2ヵ月は住居環境も改善し、各海外派遣スタッフの個室として簡易に組み立てられるシェルターが与えられました。シャワーは相変わらずバケツに水をくまないといけなかったですが、敷地内に水場とトイレができました。

キッチン・ダイニングはまだ建設中のため、私がいたときは簡易なつくりでしたが、現地の担当スタッフが料理を作ってくれるので、私は特に不満はなく、快適に過ごすことができました。ただ、食材が限られていたり、雨期前で野菜の入手が困難になってくるとどうしても単調な食事になったり、食事内容に不満を持っているスタッフもいました。

通信事情は悪く、携帯電話はほとんど使えませんでした。赴任後3ヵ月間ほどして、ようやくインターネットが使える環境が整いましたが、特に不便さは感じませんでした。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

ワウ・シルクに滞在中、安全面で不安になることは特にありませんでした。ただ、2016年2月に上ナイル州マラカルで起きた事件の際に、ワウ・シルクの海外派遣スタッフの内、私を入れて数人が首都・ジュバへ避難することになりました。私にとって赴任2週間後の出来事でしたが、現地スタッフと突然の別れに戸惑うとともに、今後どうなるのだろうかという不安を抱きつつの退避となりました。

結果として、ワウ・シルクでは特に政情不安は起きず、無事任地に戻ることができましたが、迅速に行動するためには、いつどこで何が起きてもおかしくないという適度な緊張感を頭の片隅に持っておく必要性があると実感しました。

これまで普通に生活していたのに、ある日突然、住む場所を追われるという状況は想像を絶するものだと思います。また、避難先での生活の不便さは大きなストレスになっていると思います。このような状況にもかかわらず、現地スタッフやコミュニティーの人からたくさんの笑顔をいただいたことは、とても印象深いです。

初めてのMSFの活動でしたが、その機動力と意思決定の速さに驚きました。これまで関わってきた仕事のやり方とは非常に大きく異なる点で、新たな学びとなりました。

Q今後の展望は?

6月中旬に帰国し、7月上旬から6ヵ月間、アフリカの別の国で2回目の活動に参加する予定です。今回の疲れを癒し、次の活動の準備などしながら派遣に備えます。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

多様な国籍、年齢やバックグランドのメンバーが集まって仕事をする環境は大変なこともありますが、それ以上に新たなことを発見し、刺激を受ける機会です。業務を進めるにあたっては、自分で行動していくことが求められますが、チームワークを大切にして、困ったときは周りにどんどん相談していける気風があると思います。興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてください。

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