海外派遣スタッフ体験談

偏見の強い結核対策に現地スタッフとともに取り組む

團野 桂

ポジション
内科医
派遣国
ウズベキスタン
活動地域
カラカルパクスタン自治共和国
派遣期間
2015年6月~2016年6月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

今回はMSFで2回目の派遣でした。前回、1回目は3ヵ月という短期間でした。そこでMSFの活動内容が少しでも把握できたので、今回は12ヵ月の長期の派遣に挑戦することにしました。2015年1月に1回目のパキスタン派遣が終わり、今回の派遣を決めたのは2015年4月です。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

専門である公衆衛生学の勉強を英語でしていました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

前回、今回の活動ともに必要だと感じたことは、MSFの組織がどのように成り立っており、どのような指示系統でプロジェクトが運営されているかを知ることが重要だということです。

MSFのプロジェクトは各専門分野でチームを構成しています。今回のプロジェクトでは、医師部門、看護師部門、カウンセラー部門、薬剤師部門、感染対策部門、ロジスティックス部門などに分かれていました。基本的にどの部門でもスタッフ同士は平等で、誰もが自分の考えを表現できますが、組織を運営するためには上下関係を維持することも大事であり、マネジャーレベルなどの管理職もいます。フィールド活動を多面的に行うために横のつながりを強化するべきなのか、方針を立てる上で縦のつながりを活用するべきなのかを見極めて行動することが日々の学びでした。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
一緒に働いたMSFの現地スタッフと(筆者は後列左から4番目) 一緒に働いたMSFの現地スタッフと
(筆者は後列左から4番目)

結核のプロジェクトで、包括的結核治療と臨床試験という2つのプログラムで構成されていました。私は前者に所属していました。

結核医療はカラカルパクスタン自治共和国の保健省の医療関係者をサポートする形で行っていました。診断、治療、副作用管理、服用管理(DOT:直接監視下治療が基本です)、脱落者管理、感染症対策、合併症管理、健康教育など、結核医療に関わるすべてを網羅した活動を行っていました 。MDR-TB(多剤耐性結核)が多い地域なので、それに伴うさまざまな困難もありました。

MSFのチームは海外派遣スタッフと現地スタッフを合わせて約150人いました。そのうち海外派遣スタッフは 私の派遣期間(1年間)中、最大で25人、最小で15人でした。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
 オフィスから各県に車で移動 オフィスから各県に車で移動

カラカルパクスタン自治共和国は1つの都市(首都ヌクス)と14の県で構成されていました。私のチームはそのうちの4つの県を担当していました。チームは医師、看護師、カウンセラー、ソーシャルワーカー、通訳の計10人で構成されていました。

首都のヌクスにMSFオフィスがあります。朝はオフィスに集合し、各県にMSFの車で移動します。近い県は片道40分、遠い県は片道3時間以上かかります。各県で午前は診療活動を中心に、午後は会議を中心に行っていました。

タンドールという釜でパンを焼く経験も タンドールという釜でパンを焼く経験も

近い県ならその日のうちにヌクスに戻れますが、遠い県なら泊りがけで出かけていました。ヌクスのMSFオフィスではミーティング、データの打ち込み作業、資料作りなどを行っていました。

勤務時間外ですが、カラカルパクスタンの人はパーティが大好きなので、スタッフやそのご家族の結婚式、お誕生日会によく招待されました。パーティでは必ずダンスがあり、その時の流行歌や民族音楽に合わせて会場中の人びとが踊っていました。踊り方は、独特の民族舞踊的な振り付けでとても美しいものでした。私も最初は恥ずかしかったですが、見よう見まねですぐに踊りの輪に入れるようになりました。

Q現地での住居環境についておしえてください。
現地で一番人気の郷土料理パラオ(ピラフ)シンプルな塩の味付け 現地で一番人気の郷土料理パラオ(ピラフ)
シンプルな塩の味付け

海外派遣スタッフが25人近くいたので、5ヵ所の宿舎に分かれて住んでいました。宿舎は一軒家で、それぞれ自分のベッドルームを持つことができました。自室内ではプライバシーは完全に守られていました。トイレ、バスルーム、キッチンは共同でした。MSFが雇ったハウスキーパーさんが掃除と一部の洗濯を行ってくれていました。料理や買い物は個々で行っていました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

結核は予防方法があり、治療方法があるのにも関わらず社会的偏見が強い病気です。そのため、診断できても患者が治療を拒否したり、中断したりするケースが後を絶ちませんでした。家族や地域社会から除け者にされるということもありました。

その結果、抑うつ状態から自ら命を絶とうとする患者さんも散見され、実際に絶たれてしまった方もいました。また生後間もない我が子が結核であることを信じられずに、治療を拒否され、残念ながら亡くなってしまった患者さんもおられました。こういったことを防ぐためにもっとするべきことがあったのではないか、とスタッフ間で話し合いを重ねましたが、後悔先に立たず、とても心の痛む経験となりました。

さらに、現地の医療従事者(結核診療に関わっていないスタッフ)の間にも偏見があるようでした。問題は社会全体の根底にあり、1人の医師、1団体としてできることの限界と、無力感を感じました。

Q今後の展望は?

秋までは日本で娘(8歳)とゆっくり過ごしたいです。その間充電し、次のプロジェクトに備えたいです。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

自分の専門性を持ち、それをアピール出来るようになることが重要です。日本での職歴や学歴から必ず見つかります。

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