海外派遣スタッフ体験談
現地スタッフの指導に力をいれ、持続的な好影響を
中嶋 優子
- ポジション
- 麻酔科医
- 派遣国
- イエメン
- 活動地域
- アムラン州ハメル
- 派遣期間
- 2015年8月~2015年9月

- Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
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活動参加は今回で5度目です。最近は年に1回、参加できることを目指しています。なぜかというと、誤解を恐れずに言えば「楽しい」からです。毎回、素晴らしい経験をさせてもらっています。
今回の派遣を考えたタイミングは、現在勤務している米国の病院で、新年度となり休暇の申請をいつにしようか考えた時です。8月が年度始めで一番ミーティングや会議などが少ない時期なので、8月に1ヵ月間(ありったけ)の休暇をとり、MSFの活動に参加することを決めました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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5度目なので、特にこれといった特別な準備はしませんでしたが、現地イエメンでの生活状況や仕事内容など、同じプロジェクトで活動し、既に終えられた先生とメールでやりとりさせていただいたり、ほかの派遣者が活動終わりに記入したレポートなどを読んで情報収集はしました。あとは8月休暇の分のシフトを7月中に詰めて、身を粉にして普段の2倍量働いていました。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?
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MSFの活動地で使用する薬剤や機材がおおむね共通しているので、回を重ねるごとに業務に慣れる感じは増します。MSFでは痛み止めにケタミンを頻用しますが(実は5年前にMSFに参加するまでは日本の手術室でほとんど使用することがなかったのですが)米国のER(救急)領域でケタミンが最近やけに多く使われているので、逆にMSFでの豊富なケタミンの使用経験が米国のER業務に戻った時に役立っています。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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通訳さんが患者役になり、現地医師にエコーを指導・練習
今回のプロジェクトは、アムラン州周辺地域のIDP(国内避難民) が主な患者層のプロジェクトでした。病院はイエメンの保健省と共同で運営されている病院で、MSFは外科、小児科、新生児科、産婦人科、ER部門などを担っていました。
私たち海外派遣スタッフは13人ほどでしたが、現地スタッフは100人くらいはいる大きな病院でした。ほかにも周辺地域のIDPキャンプなどに移動診療を行っている部門もありました。私は麻酔科医として派遣されましたが、到着時に前任のイタリア人麻酔科医と1週間ほど重なりましたので、その麻酔科医の先生がいる間は、救急専門医としてERで診療指導をしていました。
麻酔科医として手術室に常駐し始めてからも時間が空くとERに行っていましたが、興味深い症例を見ることができました。手術室でもERでも、スタッフと交流することが楽しく、ちょっとしたレクチャーをしたり、ワークショップを開いたり、または少人数で現地の医師たちにベッドサイド・エコーなどのトレーニングをしたりしていました。
現地の手術室スタッフとともに
ERの症例は、外傷、銃創、切創、犬や蛇、サソリなどによる咬刺(こうし)傷、熱傷、内科的疾患、小児の脱水症、低栄養など多岐にわたりました。
手術は外傷、熱傷、急性腹症(なぜか虫垂炎がやたら多い)、帝王切開が多かったですが、印象に残ったのは、1~2歳の小児に大きな膀胱結石が出来て尿閉になっていた症例で、大きなビー玉大の結石を膀胱の正面から切開して、コロッと取り出していた症例を数件見ました。日本や米国ではこのような症例を見たことがないので、衝撃でした。水のせいでは?という憶測はありましたが、原因は不明です。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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ERにて現地スタッフと
勤務スケジュールは、日中の仕事(通常の予定症例+日中の緊急症例)と、週4日の時間外オンコールでした。オンコールは現地麻酔科医と交代で受け持っていましたが、これまで経験したほかのプロジェクトでは交代がなく常にオンコールだったので、今回はゆっくり休める日が週3日もあって、かなり助かりました。オンコールの時は大体、呼ばれていました。
1日の仕事後などは、仲のいいエクスパットと宿舎の屋根の上で、街中で流れるイスラムのお祈りをバックにお疲れジュース会などをしていました。現地スタッフが「ゲストハウス」という現地スタッフ用の寮のような家で暮らしていて、そこにお呼ばれして遊びに行ったこともあります。1ヵ月で2回ほど近くの商店に行きましたが、特に買うものもないのでほとんど出歩きませんでした。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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前回の南スーダン派遣に比べるととてもキレイな住居環境で、ストレスを感じることはほとんどありませんでした。しいて言うなら、トイレが和式の「ぼっとん」(しかもどっちを向いてしゃがめばいいのか最後まで不明)しかなかったことぐらいです。小綺麗な部屋を一人ひとつずつあててもらい、快適でした。食事も美味しかったです。
住居での電気は供給される時間帯が限定されていたので、夜中の呼び出しは暗闇で携帯の懐中電灯アプリをつけて手探りで、時々何かにぶつかりながら急いで着替えて出ていました。目標は5分以内出動ですが、なかなか難しかったです。大体7分以内に出動していました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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心肺蘇生クラスも始めた
現地医師の医学知識は意外と米国式だな、と思いました。2次救命措置(ACLS※)のアルゴリズムとか、暗記項目のゴロとか、米国で使っているものを使っていたことには驚きました。なので、現地医師には指導がしやすかったです。医療スタッフ間のやり取り、関係なども米国や日本とほぼ共通しており、英語と医学は世界共通だと改めて感じました。
- Advanced Cardiovascular Life Supportの略。気管挿管、薬剤投与といった高度な心肺蘇生法を示すが、心停止時のみならず重症不整脈、急性冠症候群、急性虚血性脳卒中の初期治療までを網羅したもの
- Q今後の展望は?
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また出来れば来年、どこかで派遣活動に参加したいと思っています。次回の目標は、短い時間でもっとたくさんの現地スタッフをもっと頻繁にトレーニングする機会を設けたいな、と思っています。
最近は特に、「サステナビリティ:sustainability」という点で、いかに短い期間で持続的な良い影響を残せるか、に燃えています!その為には、単に自分が臨床をするのではなく、現地スタッフに継続できるような教育をする方がいいのです。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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これをここまで読んでいる時点で、けっこうMSFの活動に興味があると思われるので、思い切ってやってしまいましょう!毎回書いていますが、活動で得られる経験はほかでは得られない価値があります。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2014年7月
- 派遣国:南スーダン
- 活動地域:アウェイル
- ポジション:麻酔科医
- 派遣期間:2013年7月~2013年8月
- 派遣国:シリア
- 活動地域:-
- ポジション:麻酔科医
- 派遣期間:2012年11月~2012年12月
- 派遣国:パキスタン
- 活動地域:ペシャワール
- ポジション:麻酔科医
- 派遣期間:2010年4月~2010年5月
- 派遣国:ナイジェリア
- 活動地域:ポートハーコート
- ポジション:麻酔科医