特別な運転手 乗せるのは、性暴力を受けた人たち

2019年10月03日掲載

 性暴力に遭い、国境なき医師団(MSF)のホットラインに助けを求めた人が最初に会うのは、医師でも看護師でもない。運転手だ。現場に駆けつけ、ケアセンターに送り届ける。苦しみの中にいる人にどう話しかけるのか。自分が男性であることで不安を感じさせないか——。南アフリカで、運転手が担う役割は広い。

性暴力からの生還者を送迎する運転手 ⓒ Audrey Hulet/MSF性暴力からの生還者を送迎する運転手 ⓒ Audrey Hulet/MSF

性暴力からの生還者を送り届ける

レボハング・セケテマ——通称レボは、南アフリカ共和国のプラチナ採掘地帯の中心地に位置するルステンブルグで、国境なき医師団(MSF)の、性別およびジェンダーに基づいた暴力(SGBV)関連プロジェクトの運転手として勤務している。

社会的暴力、経済的な不安定さ、性差別が絡み合い、ここでは多くの女性が男性に頼らないと生きていけない。さらに、これらが多くの女性を性被害に遭いやすくさせている。2015年にMSFが行った調査によると、この地域では4人に1人の女性がレイプの被害に遭っている。

毎日、レボと7人の運転手らは交代で、性暴力からの生還者(クライアントとも呼ばれる)を送迎する。州保健局と共同運営するケアセンターで、救急医療・心理ケアと社会支援を受けさせるためだ。ケアセンターでは、けがの処置、HIV/エイズなどの性感染症や望まない妊娠の予防、心理カウンセリング、必須の社会支援といった一連のケアをクライアントに提供する。

レボは3年間MSFの運転手を務めている ⓒ Tadeu Andre/MSFレボは3年間MSFの運転手を務めている ⓒ Tadeu Andre/MSF

被害を受けた後、最初に会うのは運転手

 MSFの運転手はしばしば、性暴力からの生還者が被害後に会う最初の人物となる。

「私は男性です。そして、生還者の女性を虐待したのも男性です。生還者の女性に乗車していただかなくてはなりませんが、私と2人きりになることもあります。車内は安全で、私といても危険はないとわかってもらわなくてはいけないんです」とレボは話す。

南アフリカ全体の性的虐待の圧倒的多数が男性の犯行だ。また、残念ながら、調査対象の女性の95%がレイプ被害を一度も保健医療者に伝えていなかった。理由の大半は怯えと恥、 そして速やかな手当ての大切さが十分に知られていないことにある。

そこで、MSFの運転手は、さらなる心的外傷を回避しつつ思いやりをもって生還者と接するために、心理的応急処置の研修を受けている。生還者がケアを受ける行程において、運転手の役割はMSFの進める取り組みに欠かせない構成要素なのだ。

運転手からかけられた言葉

 性暴力からの生還者であるポピー・マクゴバトロウさんは、運転手の対応に支えられた一人だ。夫からの長年の暴力の末、ポピーさんはついに勇気を振り絞り、MSFの助けを求めた。性暴力専用の24時間ホットラインへの受信記録からポピーさんの事例が報告されると、MSFの運転手が迎えに来た。

「私が泣いていると(運転手さんが)言いました。『あなたの心の痛みは私には計り知れませんし、これからは大丈夫とも言えません。でも、これだけは言えます。どうか気持ちをしっかり持ってください』」

運転手のレボには、決して忘れられない経験がある。妹が9歳の頃、隣人から性暴力を受けたのだ。当時はケアを受けられる場がなかなかなく、家族はその件を忘れようとするほかなかった。しかし今は、運転手の仕事を通してできることがある。レボは、他の男性たちが性暴力への意識を変えるよう働きかける役割も担っている。

ルステンブルグの中を移動するMSFの車両 ⓒ Tadeu Andre/MSFルステンブルグの中を移動するMSFの車両 ⓒ Tadeu Andre/MSF

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