2歳で体重がわずか5キロの子も… イエメンで急増する、子どもの栄養失調 日本の小児科医が見た現実とは

2022年12月26日
アル・サラム病院で栄養失調の患者を診察する看護師=アムラン県、ハミール Ⓒ Athmar Mohammed/MSF
アル・サラム病院で栄養失調の患者を診察する看護師=アムラン県、ハミール Ⓒ Athmar Mohammed/MSF

イエメンで子どもたちの栄養失調が急増している。毎年、食糧難の季節的なピークが訪れるイエメンだが、長引く紛争の影響により人びとの食料事情は悪化。もともと弱い立場に置かれた人びとが、さらに深刻な状況に追い込まれている。
 
国境なき医師団(MSF)は、イエメンの各県で活動を展開し、栄養失調の子どもたちの治療にあたっている。日本の小児科医、村井恵子もその対応に携わった。イエメンでいま、起きていることとは──

体重が想定の半分以下の子も

小児科医の村井恵子 Ⓒ MSF
小児科医の村井恵子 Ⓒ MSF
「私が勤務していたのはピークの時で、入院患者さんの数は定員のほぼ2倍。病床は常にあふれていました」
 
イエメン北部、ハミールのアル・サラム病院で7月から活動した小児科医の村井恵子は、現地の状況をそう語った。病院内にある入院栄養治療センター(ITFC)では、栄養失調に加えて、肺炎や気管支炎、下痢や菌血症などの症状をもつ患者に対応した。
 
「体重が身長から想定される半分くらいしかない、というケースもありました。栄養失調というと、がりがりに痩せた姿を想像すると思いますが、むくんでしまう場合もあります。見た目だけでは判断は難しいので、身長や体重、二の腕の太さを測り、見落としがないようにしています。

また、栄養失調の子どもに突然、栄養価の高いものを通常量与えると、むくんだりミネラルのバランスを崩したりして急激に状態が悪くなることがあるため、食事の量は少しずつしか増やせません。そのため回復にはとても時間がかかります」
 
回復しても退院後に栄養状態を改善することができないと、再び病院に戻ってきてしまう可能性もある。「栄養失調の背景には貧困があり、2015年から続く紛争も人びとの健康に大きな影を落としていると感じました」と村井は話した。
アル・サラム病院の栄養失調病棟。看護師が子どもの健康に関する正しい知識を母親に伝える=アムラン県、ハミール Ⓒ Athmar Mohammed/MSF
アル・サラム病院の栄養失調病棟。看護師が子どもの健康に関する正しい知識を母親に伝える=アムラン県、ハミール Ⓒ Athmar Mohammed/MSF

また、栄養失調の患者は感染症のリスクも高く、保護者の意識を変えていくことも重要だ。
 
「保護者が持ち込む哺乳瓶の洗浄が十分でないため、子どもが感染症にかかってしまうこともあります。そこで、哺乳瓶の持ち込みをやめ、毎回こちらで洗浄・消毒したものを渡して栄養治療用のミルクを飲んでもらう取り組みを始めました。また、入院時には看護師から手洗いの必要性なども伝えています」

日本では助かる病気も…

ピーク時はひっ迫する病棟で大勢の患者を前に、医療資源が豊富な日本とは違い、誰もが医療を受けることができない過酷な現実を感じたという。それでも、現地スタッフとともに最善の医療を提供することに集中し、子どもたちの治療に取り組んだ。
 
「下痢と栄養失調で入院した2歳の女の子がいました。入院時、彼女の体重はわずか5キロ。ほぼ寝たきりの状態から少しずつ体重が増え、最終的にはまた歩けるように。病院に来ることで回復し、退院していく子どもたちもたくさんいます」
 
日本では栄養失調の患者を診察した経験はなかった、という村井。活動を振り返り、こう続けた。「イエメンでは、日本では助かるような症状の子どもたちが、さまざまな理由から医療を受けることができずに苦しんでいます。世界のどこかにそのような場所があり、いま、そこで生きている人たちがいる。その事実を多くの人に知ってほしいと思います」

▼村井が活動したアル・サラム病院の対応をはじめ、イエメンの現状を伝える動画はこちら

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