漁師なのに、海の見えない土地に 「家に帰りたい」
2019年09月18日
東西に長いイエメン。その西部の内陸にあるアムラン県のハメルに、国内避難民キャンプが広がる。名前はダーダ国内避難民キャンプ。いま、3500人近くが先の見えない状況で暮らす。
このキャンプに暮らす人たちのうち3分の2は、2015年に逃げてきた。サウジアラビアとアラブ首長国連邦率いる連合軍が同年、イエメン西北部にある反政府勢力「アンサール・アッラー」(通称フーシ派)の本拠地サアダ県に激しい空爆を加えた。
国境なき医師団(MSF)は数年にわたって、ダーダ国内避難民キャンプで救援キットを配布してきた。移動診療もしてきたが、2016年に立ち入りが禁止されてしまい、活動を中止せざるをえなかった。
MSFは西隣のハッジャ県にあるアブス病院も支援している。2016年8月15日、連合軍による空爆でこの病院は一部が損壊し、19人が亡くなった。
MSFはアブスに、コレラ治療センターも新設したが、直後の2018年6月に、連合軍の空爆によって破壊された。
連合軍は同月、イエメン西部のホデイダ市も攻撃。多くの住民がアムラン県に避難した。ファティマさんもその一人だ。同年7月、紅海で漁師をしていた夫とともに、逃げ出し、12時間かけて、300キロメートル離れたハメルに移動した。戦闘の音が自宅に近づいてくる恐怖を今も覚えている。
夫婦はいま、ダーダ国内避難民キャンプ外れにあるテントで暮らす。そこは、海から遠く離れている。「ホデイダの家に帰りたい」 とファティマさん。
2019年初頭、ハッジャ県で、連合軍が支援するハディ大統領側と、アンサール・アッラーとの戦闘が激化し、数万人が避難した。その一部はダーダ国内避難民キャンプに逃げ込んだ。
アーマドさんはハッジャ県ミディ出身。サウジアラビア国境から50キロメートルほど離れた山岳地帯のハジュール村で暮らし、同国に日用品を売って生活してきた。だが、戦闘と爆撃で全てを失い、2019年4月、妻と3人の子どもを連れて、逃げた。
いまは、ハメルモスク近くにある民家の廃墟で暮らす。近くで野菜を育てているが、援助なしには生活ができない。
2019年3月にはアブス北部とアムラン県で戦闘が起き、2万人余りが住まいを追われた。国連の推計によると、イエメンの国内避難者は365万人に上る。
いつ止むともわからない戦闘。ダーダ避難民キャンプには、ウード奏者モハマド・ハムードさんの弾く音が響いている—ー。