ウガンダ:エボラウイルス病の「スーダン型」が流行 いま、知っておきたい4つのこと
2022年10月14日国境なき医師団(MSF)はウガンダ保健省と連携して、流行のさらなる拡大を食い止めるため、初期緊急対応を立ち上げている。
エボラとは? MSFの対応と「スーダン型」
いま、知っておくべき4つのことをまとめた。
①現在、流行しているスーダン型に有効なワクチンはありますか?
ウガンダで流行しているスーダン型のウイルスに効くワクチンはありません。世界保健機関(WHO)では、新たな臨床試験において認可される可能性がある候補ワクチンについて検討する協議が行われています。
エボラウイルスのザイール型には、メルク社製ワクチン「rVSV-ZEBOV」の薬事承認が下りています。そのためザイール型の流行では、「リング・ワクチン戦略」の一環として、病気の人と接触した人、その人と接触した人、患者のケアをする人にワクチンを接種し、感染の拡大を抑えるために使用することができます。
また、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のワクチンは、流行時にウイルスにさらされるリスクのある人びとを守るために使用でき、対応の最前線にいる人や、まだ流行の影響を受けていない地域に住む人びとへの予防措置として使うことも可能です。
現在のウガンダにおけるエボラの流行では、有効なワクチンが見つかるまで全ての医療団体や医療機関はワクチンなしで対処していかなければならないでしょう。MSFは、2019年にコンゴでザイール型を対象に実施されたジョンソン・エンド・ジョンソン社製ワクチンの臨床試験と同様に、要請があり次第、いつでもこの研究を支援する準備があります。
②エボラのスーダン型の治療法や治療薬はありますか?
2018年から19年にかけてコンゴで実施された臨床試験では、ある型のエボラウイルスに効くモノクローナル抗体を使用した治療薬が確認されました。この治療薬は、ザイール型に使うのであれば、患者の生存率を大幅に引き上げられます。
しかし、これらの抗体はスーダン型には効きません。抗体が使えない場合の治療は、病状管理と集中治療(水分補給、酸素供給、血液や心臓のパラメータのモニタリングなど)を行い、患者の生存率を高めるという治療になります。
治療法や治療薬がない現在は、全てのエボラの流行と同様に、診療所内の防護策と感染制御が最も重要です。
MSFは最前線で働く医療従事者の保護を重視しています。
医療体制を確実に機能させるためには、感染予防・制御の教育を行い、保護具を提供して、医療従事者を守る必要があるのです
MSFの緊急対応副責任者 ガイガイ・マナンガマ医師
流行が宣言されて以来、ウガンダ当局は2人の医療従事者の死を確認しています。
③ウガンダにはどのようなエボラ治療施設があるのですか?
エボラ流行期間中は、流行地域の近くで医療対応を行うことが重要です。
患者が早期に治療を受けるほど、助かる可能性が高まると分かっています。エボラの初期症状はマラリアや発熱性ウイルスと似ていて区別がつきません。いかに早く情報を入手し、診断、治療につなげるかが大きな課題です。
エボラが流行すると、非常に多くの人びとが、病気が進行してから診療所に来るか、自宅で亡くなります。様子を見ている間にウイルスを他の人にうつしてしまうのです。それは避けなければいけませんガイガイ・マナンガマ医師
過去の流行時には、患者は自宅から離れた大規模なエボラ治療センターにすぐに搬送されてしまうことが多くありました。そのため、地域で噂が流れ、医療従事者に対する敵意や対応の拒絶も起きました。
現在、MSFは患者が自宅からできるだけ近い場所で応急処置を受けられるよう、小規模な治療センターや隔離ユニットを各地に設置することを推奨しています。一方で、大規模な専門治療センターでは、病気の進行期にある患者に、より幅広いケアを行うことが可能です。
MSFは、マドゥドゥ(ムベンデ県の県都から20キロメートルに位置する、流行の中心地)など、感染者のみられた小地区に小規模な治療センターを設置する予定です。また、ムベンデ市には集中治療設備を備えた、ベッド数36床の大規模な隔離施設を設置し、ウガンダでの対応を支援していきます。
④感染のまん延状況については、どこまで明らかになっていますか?
エボラの流行を抑えるためには、感染者の早期発見と、流行の中心地から遠く離れた場所に移動した可能性もある感染者を発見することが重要です。今回の流行では、ウガンダにある5つの地区で患者が確認されているため、比較的広い地域で患者とその接触者を発見し、経過を追う必要があります。
エボラの流行が公式に宣言されたのは9月20日ですが、感染地域では8月の時点で、この病気との関連が疑われる死亡が多数記録されています。流行初期によく見られるように、症例の発見と接触者の追跡は流行の広がりに比べると出遅れた形になりました。しかし、流行の初期段階をできるだけ正確に再現することは、スクリーニングや適切な場所での医療態勢の構築に欠かせません。
もう一つの鍵を握っているのが感染地域の人びとです。彼らが病気に関する正しい知識と理解を持ち、協力してくれることが不可欠です。潜在的な感染者を迅速に発見するためには、地域に拠点を置いて行う疾病サーベイランス活動や接触先調査が必要です。また、感染が判明した際は、本人や家族は適切な治療を受けるか、21日間の隔離が必要になります。
診療所までの交通費や、仕事に行けなくなることによって生じる不利益といった、社会的・経済的な障壁を取り除くことも求められます。自宅で孤立している人への食料やキットの配布、患者やその家族への心のケアなども重要になるでしょう。
また、ITツールは流行のリアルタイム監視に役立ちます。2018年から2020年にかけてコンゴでエボラが流行した際、MSFの疫学部門であるエピセンターは、疫学活動の調整の効率化を図るため、新しいツールを開発しました。これは、組織的なモニタリングや患者データの収集、自動レポート、症例管理や流行の進展に関するデータを可視化する、ウェブベースのプラットフォームなどが含まれています。全ての患者に対して同じサーベイランスツールが使用され、エボラの医療施設に関する統合的かつ包括的なデータを、効率よく作成できるようになりました。MSFはいつでも、これらのツールをウガンダの保健当局に提供することができます。
【訂正】記事中の「株」を「型」に訂正しました。(2022年12月6日)
ウガンダ、エボラ終息を宣言(2023年1月16日追記)
2023年1月11日、ウガンダ保健省は2022年9月20日に同国で発生したエボラウイルス病の終息宣言を行った。この間、142人のエボラ感染が確認され、87人が回復した一方で、55人が死亡した。MSFは主に以下の活動を通して、患者の治療や予防啓発に取り組んだ。
治療
これらにより、今回の流行におけるエボラ確定患者142人の内、118人(83%)がMSFの支援する施設で治療を受けた。