地図なしに、どうやって子どもたちに予防接種を? テックと国際援助

2019年09月24日掲載

アフリカ大陸中央にある国チャド。2019年1月、はしかの流行宣言が出されて、8カ月が経とうとしていた。流行は衰える気配もない。当局や国際援助機関の努力もむなしく、そして集団予防接種のかいもなく、はしか症例数はピークを記録した。 

はしかに感染してしまったザラ・ラマダンさん(6)=2019年4月、アルモレ村 ©Juan Haroはしかに感染してしまったザラ・ラマダンさん(6)=2019年4月、アルモレ村 ©Juan Haro

はしかは幼い子たちの死因の首位である。感染力は強い。感染者と同じ部屋にいた場合、免疫がない人は90%が感染してしまう。感染者の咳やくしゃみ、そして単なる呼吸だけで、鼻や口や喉からの飛沫でうつる。感染しても、大半の人は2~3週間で回復するが、5~20%は下痢、脱水、脳炎や呼吸器感染といった合併症を起こし、命に危険が迫る。

国境なき医師団(MSF)のチャド緊急対応チームは1月、はしかの感染者が特に多い南東部サラマト州の州都アム・ティマンに入った。アム・ティマン病院と診療所3カ所で、患者を無償で治療している。 

はしかに感染したファン・ナザル君(7)とザラちゃん(2)のきょうだいを診るオリビエ・アララセム医師。「来院が遅れて合併症を起こしてしまいました。受診をためらう家庭を心配しています。運命であり、神の意思だと思ってしまうんです」=2019年4月、アム・ティマン病院はしかに感染したファン・ナザル君(7)とザラちゃん(2)のきょうだいを診るオリビエ・アララセム医師。「来院が遅れて合併症を起こしてしまいました。受診をためらう家庭を心配しています。運命であり、神の意思だと思ってしまうんです」=2019年4月、アム・ティマン病院

予防接種キャンペーン

さらに流行に歯止めをかけ、将来の流行を防ぐには、集団予防接種が必要だ。当局によると、5歳未満の子どものうち推定37%しか予防接種を受けられていない。

そこで、MSFは生後6カ月から9歳の子ども全員に、予防接種をする計画を立てた。まずは、2月25日から約2週間かけてアム・ティマン市街地で接種キャンペーンを展開。次に、郊外へ広げる計画だった。

だが、大きな問題があった。手元にある紙の地図には、アム・ティマン周辺に散らばる数十の集落が載っていなかった。

MSFのスタッフ、イブラヒム・ハロンが予防接種を伝える=2019年4月、アム・ティマン郊外MSFのスタッフ、イブラヒム・ハロンが予防接種を伝える=2019年4月、アム・ティマン郊外

正確な地図がない中、医療チームは3月22日に郊外での接種キャンペーンを開始。「距離が近そうだった数カ所を1日で回る日程を組んでみたもの、実際に行ってみると、車で何時間もかかるということがよくありました。村がどこにあるか分からず、探し回って、ようやく見つかることも。子どもたちに予防接種できていたはずの時間が無駄になってしまいました」とプロジェクト・コーディネーターを務めるテリーサ・ベルトールド。 「大抵の道は舗装されておらず、状態も悪いので、8時間で200キロしか進めないこともありました」

©MSF©MSF

それでも約3週間で全ての接種キャンペーンを終了。予防接種をした子どもの数は計10万7000人に上った。 

「昨日、動物に水をやっているときに予防接種のことを聞いたんです。村のほかの親たちとも話して、彼らの子どもも連れて、2時間歩いてきました。チャンスを逃してはけないと」。モハマド・アブさん(30)は9人の子どもを接種会場に連れてきた=2019年4月、アム・ティマン郊外「昨日、動物に水をやっているときに予防接種のことを聞いたんです。村のほかの親たちとも話して、彼らの子どもも連れて、2時間歩いてきました。チャンスを逃してはけないと」。モハマド・アブさん(30)は9人の子どもを接種会場に連れてきた=2019年4月、アム・ティマン郊外

「予防接種というものを初めて見ました。生後18ヵ月の息子アルハジは初めて受けました」とザマ・ブラヒムさん(21)。予防接種キャンペーンでMSFはブラヒムさんが住む遊牧民の居住地を訪れた=2019年4月、ジュナ郊外「予防接種というものを初めて見ました。生後18ヵ月の息子アルハジは初めて受けました」とザマ・ブラヒムさん(21)。予防接種キャンペーンでMSFはブラヒムさんが住む遊牧民の居住地を訪れた=2019年4月、ジュナ郊外

接種率を確認する

 次に、この予防接種キャンペーンが成功したか確かめなければならない。世界保健機関(WHO)は、流行を防ぐため、対象人口の90~95%に予防接種することを推奨する。MSFの基準は95%だ。

接種率の調査では、調査員が無作為に選んだ世帯を戸別訪問して、何人接種を受けているかを調べる。4月下旬の調査では、MSFは強力な地図を手にしていた。インターネット上で編集できる地図「オープンストリートマップ」だ。

ネットにつながる世界中のボランティアが参加でき、人道援助団体の要請に応じて地図を作成する。MSFはチャドの紙の地図では空白となっていた集落の位置をボランティアに埋めてもらうことにした。

アム・ティマンの南西にある町ミナの地図。ボランティアが作ってくれた。手書きの地図との違いは一目瞭然だ。アム・ティマンの南西にある町ミナの地図。ボランティアが作ってくれた。手書きの地図との違いは一目瞭然だ。

221人のボランティアが3月13日から4週間かけて、アム・ティマン市と周辺一帯の3万4120軒を記入し、詳細な地図を作りあげてくれた。手描きの地図とオープンストリートマップを比べると、違いは一目瞭然だ。手描きだと、近く見える二つの村が、実は相当離れている。道路網もはっきり見える。

「きちんとした地図ができたことで、時間もリソースも効率的に使えるようになりました」とベルトールド。「正確な村の位置をもとに計画を立て、日程を組めました。地図はタブレット端末に表示され、調査員も滞りなく村にたどり着き、選んでおいた世帯を訪問できます。仕事がはかどります」。サンプル調査の結果、対象人口の81.9%が予防接種を受けていることが分かった。

人道援助とテック

 援助する国に、きちんとした地図がないことは人道援助団体にとって大きな問題になっている。MSFは2014年、英国赤十字社、アメリカ赤十字社、人道援助オープンストリートマップ・チームと一緒に、「ミッシング・マップ・イニシアチブ」を立ち上げた。人道援助の現場で活躍するポテンシャルはとても大きい。チャドのはしか対策は、その先駆けの一つとなった。

「予防接種を待つ列で友達になったんです。今日はわたしたち家族にとって大事な日です。戻ったら、他の母親たちにも受けさせるように伝えます」。白い服のマリアム・アリさん(18)と紫の服のファン・ウスマンさん(19)=2019年4月、アム・ティマン郊外「予防接種を待つ列で友達になったんです。今日はわたしたち家族にとって大事な日です。戻ったら、他の母親たちにも受けさせるように伝えます」。白い服のマリアム・アリさん(18)と紫の服のファン・ウスマンさん(19)=2019年4月、アム・ティマン郊外

MSFがチャドで医療活動を始めて37年になる。チャド緊急対応チームは病気の流行へ緊急的に無償で対処している。緊急集団予防接種もする。モイサラとマンドゥル州でも医療活動をしている。 

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