「私たちの役目は、一人でも多くの命を救うこと」 地中海の救助船に乗る唯一の日本人

2019年11月15日掲載

簡素なゴムボートや木造船でアフリカから地中海を渡り、海上で命を落とす人が後を絶たない。紛争や迫害、極度の貧困などから逃れ、欧州を目指す人びとだ。過去5年で、地中海における移民・難民の死者数は約1万8000人に上る(国際移住機関調べ)。

地中海で捜索救助を行うオーシャン・バイキング号 © Hannah Wallace Bowman/MSF地中海で捜索救助を行うオーシャン・バイキング号 © Hannah Wallace Bowman/MSF

国境なき医師団(MSF)は、2015年から地中海で捜索救助活動を実施。2019年7月より市民団体「SOSメディテラネ」と共同で運航している捜索救助船「オーシャン・バイキング号」に、唯一の日本人として助産師の小島毬奈が乗船し、海上での医療援助にあたった。
 

救助された女性やスタッフとともに(右から2人目が小島) © MSF救助された女性やスタッフとともに(右から2人目が小島) © MSF

体にムチの跡が残る人も

 オーシャン・バイキング号が救助した人びとの出身国は、スーダンやカメルーン、リビアなど、多岐にわたる。その中には、生後まもない新生児もいた。「重みのある何かを包んだ毛布を渡されて、中を見ると赤ちゃんがいました。母親に聞くと、4日前に生まれたばかりだと言います。まだおへそも乾いていませんでした。こんな小さな赤ちゃんまでもが危険を冒して海を渡っているのが現実でした」と小島助産師は振り返る。

生後4日で救助された赤ちゃん © Hannah Wallace Bowman/MSF生後4日で救助された赤ちゃん © Hannah Wallace Bowman/MSF

救助された人の中には、経由地であるリビアで不当な勾留をされ、拷問や性暴力を受けたり、強制労働をさせられたりしたと証言した人が多くいた。

「収容所で拷問を受け、体にムチの跡が残っている人も少なくありませんでした。10代の少年が、『今日はやっと両目を閉じて寝られる。リビアでは暴力が怖くて、毎日眠ることができなかったから……』と話していたのを忘れられません。地中海を小さなボートで渡ることが危険なのは明らかです。それでも多くの人たちが、『リビアで拷問を受けて死ぬくらいなら、海で溺れて死ぬ方がましだ』と、危険な渡航を選んでいるのです」

救助された人びと 保護者とはぐれた子どももいる © Hannah Wallace Bowman/MSF救助された人びと 保護者とはぐれた子どももいる © Hannah Wallace Bowman/MSF

傷ついた女性たちを支える

小島は助産師として、女性と子どもの健康管理に加え、性暴力に遭った女性たちへのカウンセリングも担った。性暴力被害者は、自責の念を抱えている場合が多い。勇気を出して被害を打ち明けてくれてくれたことに対し、「決してあなたが悪いのではない」と伝え、女性たちが適切な医療を受け安心して気持ちを吐き出すことができるよう支えた。「性暴力を受けたという事実は消せなくても、人生をやり直すことはできる。そう感じてもらえるようカウンセリングしました」と話す。 

船内の診察室で妊婦を診察する小島助産師 © Hannah Wallace Bowman/MSF船内の診察室で妊婦を診察する小島助産師 © Hannah Wallace Bowman/MSF

小島がいつも船に持参するものがある。色とりどりの「マスキングテープ」だ。船で人びとが過ごすシェルターは、まるで電子レンジの中のように銀色の無機質な壁に囲まれている。その壁にテープを貼り合わせて船や飛行機の絵を描き、明るい雰囲気に彩った。「救助されて来た人が、ここは安全で、自分たちは歓迎されていると感じてもらえるように」との願いからだ。 

シェルターの壁をテープの絵で彩った © MSFシェルターの壁をテープの絵で彩った © MSF

水も食料も足りない

「オーシャン・バイキング号」の本来の収容可能人数は200人。にも関わらず、8月には350人を超える人びとを海上で救助した。想定を超える人数を乗せ、救助船は行き先が決まらないまま漂流を続けた。移民・難民の受け入れに厳しい欧州各国の政策により、どの港からも上陸の許可が下りないのだ。 

デッキで食事をとる親子 © Hannah Wallace Bowman/MSFデッキで食事をとる親子 © Hannah Wallace Bowman/MSF

「いつ上陸できるか分からないまま、水も食料も底を尽き始め、シャワーの水を節約するなどして何とかしのぎました。14日間漂い続けた後、ついに受け入れ先が決まりました。それが伝えられた瞬間は、大きなどよめきが起こって、皆が抱き合い、踊り、笑顔と涙で喜び合いました。私も胴上げをされました」 

一人でも多くの命を

船から見えるまっすぐな水平線、そして真っ青な地中海が朝日や夕日に照らされる光景は、息を飲むような美しさだと小島は語る。「その同じ場所で、胸が苦しくなるような救助がまた繰り広げられると思うと言葉になりませんでした。私たちの役目は、命をかけて海を渡る人たちの立場に立って、一人でも多くの命を救うことです。そしていつか、救助船が活動しなくてもいい日が来てほしい。それが私の願いです」

MSFは、地中海で救助された人びとの上陸を認めるようEU諸国に求めるとともに、リビアで拘留されている移民・難民が解放され安全に国外へ避難できるよう、国際社会に訴え続けている。
 

受け入れ先へ向かう人たちに船上から手を振るMSFスタッフ © Hannah Wallace Bowman/MSF受け入れ先へ向かう人たちに船上から手を振るMSFスタッフ © Hannah Wallace Bowman/MSF

国境なき医師団(MSF)の地中海における活動

国境なき医師団(MSF)は、迫害や極度の貧困から逃れ、中東・アフリカ諸国から欧州を目指し地中海を渡ろうとする人びとを、海上で救助する活動を続けている。2015年以来、地中海で約8万2000人の人びとを救助・援助した。2018年の1年間で、救出数は3184件、船上での診療件数は3240件に上った。

2019年7月より市民団体「SOSメディテラネ」と共同で運航している捜索救助船「オーシャン・バイキング号」には、男女別シェルター、クリニック(診察室、トリアージ、回復室)、救助用高速船4隻などが備え付けられている。

※2019年11月7日に公開した記事に、MSFの活動に関する基礎情報を加えています。(2019年11月15日公開)

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