ウクライナとロシアの避難民──「私たちは互いに手を取り、生きようとしている」 ロシア南部ベルゴロドから

2023年11月08日
砲撃と爆撃により長男を亡くしたドネツク出身の女性。彼女の息子は医師で、地元で人道的な活動に従事していた Ⓒ MSF
砲撃と爆撃により長男を亡くしたドネツク出身の女性。彼女の息子は医師で、地元で人道的な活動に従事していた Ⓒ MSF

いま、ロシア南部のいくつかの都市では、国際的な武力紛争による攻撃と破壊から逃れてきた多くの人を受け入れている。  特にベルゴロドは、ベルゴロド州内の国内避難民とウクライナの避難民、双方の拠点だ。

避難を強いられた人びとは、どのような経験をしてベルゴロドにたどり着いたのか──。現地の声を伝える。

※プライバシー保護のため、一部は仮名を使用しています。

ロシアの国内避難民

「砲弾は庭を直撃し、すべてを破壊しました。まるで終末の世界を描いた映画の中にいるようだった──」

今年6月、ロシアとウクライナの国境地帯にある村、ノバヤ・タボルジャンカにあるゲオルクさんの実家は、大規模な砲撃と爆撃で破壊された。現在、彼は国境から42キロ離れたロシア南部の都市ベルゴロドにある友人宅に滞在している。

2022年10月以降、国境地帯で家を追われた数千人がベルゴロドにたどり着いている。多くの人がゲオルクさんと同じような状況に陥り、家の一部またはすべてが破壊されたという。今年5月から6月にかけて、ベルゴロド州の国境地帯や村々で砲撃や爆撃が激化し、この状況はピークに達した。

実家が砲撃と爆撃の被害に遭い、地元を離れたゲオルクさん。現在はベルゴロドの友人宅に身を寄せる Ⓒ MSF
実家が砲撃と爆撃の被害に遭い、地元を離れたゲオルクさん。現在はベルゴロドの友人宅に身を寄せる Ⓒ MSF

120万人以上がロシアに避難

それに伴い、ベルゴロド州では避難民の数が増加傾向にある。信頼できるデータや協調的な人道的対応が欠如しているため、避難民の全容や正確な規模を把握することは難しい。しかし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年2月に国際的な武力紛争が激化してから、戦闘によってロシアにたどり着いた避難民は、合計で120万人を超えたとされる。

ベルゴロド、ロストフ・ナ・ドヌー、ボロネジといったロシア南部の大都市は、戦闘を逃れた人びとが敵対行為が止むのを待ったり、次の行き先を決めたりする拠点となっている。彼らの多くが、紛争により精神的にも肉体的にも深い傷を負っている。

逃げる前は爆発が絶えず、通りには死体が転がっていました。

ニーナさん、ハルキウ州出身・現在はベルゴロド在住の女性

安全を求めこの町に来た多くの人びとは、激しい暴力から逃れたにもかかわらず、いまもトラウマ的な体験が頭から離れないという。

「バーンという音が聞こえると、すぐにベッドから飛び起きて、どこに逃げようか、どこに隠れようかと考えるんです。そして息を吐き、鼓動が早くなっているのを感じる──私は1カ月ばかりをこのような状況で過ごしましたが、人びとは何カ月もこういった生活を送っているのです」

ハルキウ州の出身で、現在ベルゴロドで高齢の母親と暮らしているアナトリーさんはそう語る。

砲撃が生活の一部に

砲撃や爆撃は絶え間ない恐怖とストレスの原因となり、睡眠に支障が出たり、日常生活をうまく送ることができない人もいる。その一方で、対処法を身につけ、それが日常生活の一部となってしまった人もいる。

「私たちは砲撃に慣れてしまいました。ノバヤ・タボルジャンカでの砲撃は2022年9月から続いていて、最初は外に出られませんでした。砲弾が直撃するのが怖かったから。その後、『バーン』という音にも慣れて、それが普通だと思うようになりました」

アナスタシアさんとアリーナさんの姉妹は話す。他の多くの避難民と同様、彼女たちも砲撃がどちらから来るのか区別できるようになったという。

アリーナさんは現在、姉のアナスタシアさん他4人の家族とともにベルゴロドのワンルームアパートで暮らす Ⓒ MSF
アリーナさんは現在、姉のアナスタシアさん他4人の家族とともにベルゴロドのワンルームアパートで暮らす Ⓒ MSF


恐怖の中で暮らすことだけではなく、避難民の多くにとって住む場所の確保も難しい問題だ。政府が提供する一時滞在センターに身を寄せた後、ほとんどの人は民間の宿泊施設を借りる。しかし、需要の高さから住宅の価格は劇的に上昇し、国境地帯からの新たな避難民の到着によって、宿泊費はさらに高騰している。多くの人が、家賃や光熱費、食費といった日々の生活費を捻出するのに苦労している。

このような状況の中で、最も影響を受けやすいのは、高齢者、慢性疾患や障害のある人たちだ。アナトリーさんの70代の母親は、胃にカテーテルが入っており、薬と複雑な医療ケアが必要だ。アナトリーさんは少なくとも1日1時間は母のケアに時間を割き、注意深く面倒を見ている。

支援を受けるためベルゴロドの非営利団体を訪れた、アナトリーさんと母親。2人とも多くの健康問題を抱えている Ⓒ MSF
支援を受けるためベルゴロドの非営利団体を訪れた、アナトリーさんと母親。2人とも多くの健康問題を抱えている Ⓒ MSF


しかし、アナトリーさん自身も健康状態に問題があり、他の多くの避難民が生活のためにしている肉体労働に従事することができない。彼は過去に2度の心臓発作と手術を経験しているのだ。

医療と心のケアのニーズ

ベルゴロドにおける避難民の医療と心のケアに対するニーズは非常に大きい。しかし、多くの場合、人びとはこうした必要不可欠な医療を受けることができない。多くの避難民は近い将来、地元に戻ることを希望しているが、これが彼らの法的地位を複雑にし、ベルゴロドでの支援や医療へのアクセスに影響を与える可能性がある。

国境なき医師団(MSF)はベルゴロドで、現地の非営利団体「未来への道(Path to the Future)」と緊密に連携し、医療の専門知識の提供や必需品の寄贈を通じて、避難民の負担を軽減するための支援を行っている。

MSFは無償の診察と心のケアを提供し、処方箋や医療物資の費用を負担。また、食料、下着、身の回りのケア用品、日用品などの緊急に必要とされる物資を提供し、地元ボランティアがそれを配布している。

ソーシャルワーカーが避難民に同行して薬局を訪れ、医師の処方箋に基づく医薬品の購入を助ける。MSFはこれらにかかる費用をサポートしている Ⓒ MSF
ソーシャルワーカーが避難民に同行して薬局を訪れ、医師の処方箋に基づく医薬品の購入を助ける。MSFはこれらにかかる費用をサポートしている Ⓒ MSF


2022年10月以降、MSFと「未来への道」は力を合わせ、2800人以上の避難民に医療支援を行い、9600人以上に人道支援を提供してきた。

ウクライナ難民を助けていたが…

同時にベルゴロド州では、避難民自身も既存のボランティア団体に参加したり、独自の支援センターを立ち上げたりして、互いに助け合うための活動が進んでいる。

最初はウクライナからの難民を助けていたのですが、気がついたら自分たちも同じ状況になっていたのです。

スベトラーナさん、ベルゴロドでボランティアを行う女性

スベトラーナさんは、1年以上も砲撃が続くベルゴロド州シェベキノからベルゴロドに移り住んだ。シェベキノでは、薬局を経営していた。

「2022年11月のことでした。学校と薬局が砲撃を受け、3人が亡くなりました。皆、年配の方でした。薬局で被害に遭った女性は、医師が到着する前に亡くなってしまったのです。その日、薬局のレジ担当の女性が息子を連れて出勤していたので、遺体を薬局から移動させるとき、彼女の息子に見えないよう、手で目を覆わなければなりませんでした」

スベトラーナさんは、自身の経験が自分をより正直にさせ、いまでは他の人たちを助けるエネルギーに満ちていると話す。

「いまの状況は誰にとっても辛い」

ハルキウ州出身のオクサナさんは、ある支援グループの創設者であり、ボランティアのスベトラーナさんの一番の理解者だ。オクサナさんは敵対行為が続く間、家族とともに地下室で4カ月過ごしたが、妊娠9カ月だったこともあり、ベルゴロド州に避難を余儀なくされた。

「出産は精神的にも大変でした。赤ちゃんのためのものはすべて自宅に置いてきたので、新生児用のベビーカーさえないのです。それでも、親切で公正な人はどこにでもいるものです!ボランティアの人たちもあちこちにいます」

一人では乗り越えられないことがよく分かりました。そして、私自身も支援に携わるようになったのです。

オクサナさん、ハルキウ州出身・現在はベルゴロド近郊の村在住の女性

過去2年間で2回の移動を余儀なくされたオクサナさん。妊娠時のハルキウからシェベキノへの避難、そしてシェベキノからベルゴロド近郊の村へと移動した Ⓒ MSF
過去2年間で2回の移動を余儀なくされたオクサナさん。妊娠時のハルキウからシェベキノへの避難、そしてシェベキノからベルゴロド近郊の村へと移動した Ⓒ MSF


故郷を離れたオクサナさんは、家族と生まれたばかりの赤ちゃんとともにシェベキノに定住し、そこで同じ状況に置かれた他の避難民の支援を始めた。

しかし、2023年5月から6月にかけてのシェベキノでの砲撃と爆撃の激化により、オクサナさんは家族とともに再び移動しなければならなくなった。現在、彼女はベルゴロド近郊に住み、他の避難民の支援を続けている。

「私たちはみな人間です。いまの状況は、誰にとっても辛いのです──彼らにとっても辛いし、私たちにとっても辛い。私たちはただ、互いに手を取り合い、必死に生きようとしています。誰かの助けを借りず、この状況を乗り越えることは難しいのだから」

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