停戦が崩壊したガザで、水が新たな戦争の道具に──ガザで起きている水危機

2025年04月04日
ガザ北部ベイト・ラヒヤでポリタンクに水をくむ子ども=2025年3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
ガザ北部ベイト・ラヒヤでポリタンクに水をくむ子ども=2025年3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

パレスチナ・ガザ地区で、攻撃の再開で停戦が崩壊し、死者が増えている。そんな中、イスラエル当局がガザへの電気や燃料の供給を遮断することで実質的に水へのアクセスを絶つという新たな戦術が展開されていると、ガザで医療・人道援助活動を続ける国境なき医師団(MSF)は、警告する。

イスラエル軍が雨のように爆弾をガザに降り注ぎ続けている中、MSFはさらなる犠牲者を出さないために即時の停戦と、イスラエル当局が電気の供給を再開し、燃料、水、衛生用品などの支援物資の搬入を許可するよう求める。 

「水の供給を絶っているのはイスラエル軍」

「わずか数日で何百人もの人びとを殺りくした新たな猛攻撃とともに、イスラエル軍はガザの人びとから電気を遮断し、燃料の搬入を妨げることで、水の供給を絶ち続けています。電気や燃料は、水ポンプの稼働を含む水インフラに必要な資源です」

ガザでMSFの水と衛生コーディネーターを務めるポーラ・ナバーロは、こう語る。 

「容赦ない爆撃に耐えてきた人びとの苦しみを、水不足はさらに悪化させています。多くの人が安全ではない水を飲まざるを得ず、十分な水を得られない人もいます」

暴力が続く中で燃料が底をつけば、残っている水の供給システムも完全に機能しなくなり、人びとの水へのアクセスは完全に遮断され、ガザの人びとに非人道的な結果をもたらすことになる。

ガザ北部ベイト・ラヒヤで、配水システムへのダメージを調べるMSFスタッフら=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
ガザ北部ベイト・ラヒヤで、配水システムへのダメージを調べるMSFスタッフら=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

戦闘や爆撃による死傷に加え、安全な水へのアクセスが人びとの生活環境や健康状態に影響を及ぼしている。南部マワシ地区とハンユニスのMSFの基礎診療所で最も多い症状である黄疸、下痢、疥癬(かいせん)は、安全な水の供給不足が直接的な原因となっている。 

南部ハンユニスで、水不足でシャワーを浴びられず、子どもが皮膚の感染症にかかったと語る母親=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
南部ハンユニスで、水不足でシャワーを浴びられず、子どもが皮膚の感染症にかかったと語る母親=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

「皮膚疾患を患う子どもの数が非常に多いのは、ガザ地区の破壊と封鎖が直接的な原因です」と、ガザのMSF医療コーディネーター、キアラ・ロディは言う。


「攻撃により重い傷を負った大人や子どもの治療だけでなく、疥癬のような完全に予防可能な皮膚疾患を患う子どもの治療も増えています。疥癬は不快感をもたらすだけでなく、重症化すると、子どもは皮膚を血が出るまでかきむしり、感染症を引き起こす可能性があります。子どもが入浴できないことで疥癬やその他の感染症がまん延し、体にその傷跡が残る結果となっているのです」 

「軍事転用」チェックに長い時間

ガザへの攻撃再開以前から、イスラエルは全ての支援物資の搬入を止めている。

さらに、ガザの水道システムの復旧に向けた人道援助活動は、搬入する物資が「軍事目的にも転用可能」かどうかをイスラエル当局が調べ、事前承認を受けることを必要とする「デュアルユース・プリクリアランス」という仕組みにより、深刻な妨害と遅延に見舞われている。

塩素、海水淡水化装置に必須の予備パーツ、発電機、ボーリングポンプ、貯水タンクなど、水と衛生設備の供給に必要なほとんどの物資が事前承認を必要としている。  

損傷した水のくみ上げ施設。こうした施設の修理に必要な部品の多くが、イスラエルの承認がないとガザに搬入できない=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
損傷した水のくみ上げ施設。こうした施設の修理に必要な部品の多くが、イスラエルの承認がないとガザに搬入できない=3月10日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

即時の封鎖解除を

「イスラエル当局による制限で、水道システムの復旧は、ほぼ不可能になっています」とナバーロは言う。

「水の生成にはエネルギーが必要ですが、30キロワットを超える新しい発電機は持ち込みが許可されていません。発電機を修理するために部品を再利用してつぎはぎするような、いわば『フランケンシュタイン』のようなことをせざるを得ないのです」

MSFは、イスラエル当局に対して、ガザに対する非人道的な包囲を解除し、国際人道法と占領国としての責任を順守し、ガザへの援助物資の即時かつ無条件の搬入を確保するよう、引き続き呼びかける。  

ガザ地区の水危機の今

・ガザでは今回の攻撃以前からイスラエルによる電力や水の供給削減やインフラの破壊で水危機が深刻だった。さらに3月2日にイスラエル当局がガザ地区への援助物資の搬入を遮断し、9日に電気の供給を停止したことにより、状況は悪化した。 ハンユニスの主要な海水淡水化プラントでは、1日あたりの生産量が1700万リットルから250万リットルに減少した。

・2025年1月から2月にかけて、MSFは8万2000件以上の基礎診療を行った。その5分の1ほどは、水不足や衛生状態の悪化に関連した症状のもので、頭皮の感染症や疥癬などの皮膚疾患が含まれていた。

・2025年1月から3月中旬にかけて、MSFは200万リットル以上の清潔な水を生成し、計3600万リットル以上を配布した。停戦後、MSFは数カ月間援助が遮断されていたジャバリア難民キャンプを含むガザ北部で給水活動を開始した。

・2024年1月から2025年3月初旬にかけて、MSFが「デュアルユース・プリクリアランス」に基づきガザへの搬入を要請した1700点の水と衛生関連用品のうち、イスラエル当局が承認したのはわずか28%だった。多くの物品は、当局からの回答が平均60日(最長は200日超)かかり、手続きが停滞している。

・承認された物資でさえ、検問所で差し止められる可能性がある。2024年11月、イスラエル当局は85日間の待機期間を経て、MSFの海水淡水化装置を承認した。しかし、2月5日以降、装置を積んだトラックが国境で差し止められ続けているため、装置は今もガザに入っていない。

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