まるで監獄——島に閉じ込められた難民 ここを出られる日は来るのか?

2018年12月18日

ナウルの診療所で難民や地域住民の心のケアにあたるMSFスタッフ © MSFナウルの診療所で難民や地域住民の心のケアにあたるMSFスタッフ © MSF

「ナウルに来た最初の年はテント住まいで、本当につらかった。2014年、地域に出て暮らすため、難民になりました。何もかも普通になって全てうまくいくと思ったけれど、テント暮らしと何の違いもないと分かりました。小さな監獄から、周りを海に囲まれた大きな監獄に移っただけでした」

国境なき医師団(MSF)の患者、カゼムさん(仮名)はそう語る。彼はイランからきた難民だ。太平洋南西部の島、ナウル共和国で勾留されてから5年3ヵ月になる。
 

ナウルの公立診療所 MSFは活動を強制的に止められた © MSFナウルの公立診療所 MSFは活動を強制的に止められた © MSF

ナウルでは、オーストラリア政府の政策により、難民や保護を求める人びとが無期限で拘束されている。MSFの調査では、難民の多くが精神的な苦痛を抱え、自殺未遂や自殺願望を抱いた経験も少なくない。MSFは2017年11月からナウルで精神診療をしていたが、2018年10月に突如、活動停止命令が下り、ナウルから撤退せざるを得なくなった。 

「私の人生は穴の開いた船」—ガゼムさんの苦悩

「どれだけ待てば…」難民のガゼムさん © MSF「どれだけ待てば…」難民のガゼムさん © MSF

イランを出たのは、宗教のためです。イスラム教徒からキリスト教徒に改宗したのですが、私の国でこれをやるとまず拷問を受け、それから監獄に放り込まれます。最悪の場合、死刑を宣告されることもあります。

私たちがひどく思い悩んでいるのは、未来のことです。2014年に難民認定が下りたのに、この先どうなるか未だに分かりません。米国での定住を申請しましたが、最近却下の通知を受け取りました。アメリカの国土安全保障省は、私と妻を受け入れてくれませんでした。この決定は大きな痛手となりました。一体どれだけ待てばここから出られるのか分からず、本当につらくて…。

いま、妻は重いうつ病です。MSFで治療を受けていたときは、本当によくしてもらえたのですが、MSFが去ってしまったら、妻の容体は日を追うごとに悪くなるばかりです。なんとかIHMS(オーストラリア政府が委託する医療サービス)に予約を入れようとしていますが、すごく時間がかかります。妻はもう24日間も、食べたり飲んだりすることができず、眠れず、ずっと横になってベッドから動こうともしません。

ナウル島で難民が暮らしている住居 © Sean Brokenshire/MSFナウル島で難民が暮らしている住居 © Sean Brokenshire/MSF

私は気を強く持ち、健康を保って家族と妻を養い、生活しようとがんばってきました。でも今は、本当に、本当に疲れています。私の人生は船底に大きな穴の開いたボートのようなものです。傾いて、大海原に沈んでいくような感じです。

オーストラリア政府の担当者は「クリスマス前に子どもは全員ナウルから退避させる」と言う人もいれば、別の人は「そんなこと言っていない」と言います。期限も決まりも何もなく、そんな話が出回るだけ。ナウルの人びとは、子どもたちが避難できれば嬉しいですが、同時に、自分がどうなるのか不安に思っています。「私たちはこれからどうなる?子どもはいないし、ずっとここにいなきゃならないのか?オーストラリア政府は私たちをもてあそぶつもりなのか?」って。

オーストラリアの人や、そのほかの国の人もニュースでナウルについて聞くと思います。でもそれは自分の人生には何の関わりもないことでしょう。でも私たちは、ナウルのニュースを聞いてこれからのことを期待し、心配します。今日は希望を持てるニュースが聞けるかもしれないけど、明日は昨日より打ちのめされるかもしれない。

普通の生活に戻りたい。ここから出て、新しい国で、新しい国籍を得て暮らしたい。自分の人生を始めるために……。 

MSFは2017年11月からナウル共和国で活動を開始。難民と保護を求める人びと、また地元の住民も対象に、心理ケアと精神科診療を無償で行ってきた。調査によると、終わりのない勾留が人びとに深刻な精神障害を起こしていることが分かっている。MSFが治療した患者の約60%は自殺願望があり、30%は実際に自殺未遂をしたことがあった。MSFはオーストラリア政府に対し、無期限の国外勾留をやめ、難民と、保護を求めるすべての人をナウルからすぐに退避させるよう訴えている。 

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