「予防は治療に勝る」雨期にも負けず、ワクチン接種に向かうマリ北部
2020年11月24日「いまは午前11時から正午の間といったところでしょう。日影で時間を見る人なら誰でも分かりますよ」。ある女性がにこやかに言う。今日はわが子に、はしかの予防接種を受けさせようと村の学校にやって来た。「雨が降らなくてよかった!」
西アフリカの内陸国マリ。北部の地域では2月以降、はしかの流行が報告されるようになった。このため国境なき医師団(MSF)は9月、保健省と共同で集団予防接種を実施。これまでに、6カ月から14歳までの計5万人を上回る子どもが接種を受けた。
紛争で低下した予防接種率
2015年に和平合意が結ばれ、表向きにはマリ北部での紛争が終結したかのように見える。だが戦闘の場の一つとなったトンブクトゥ州では、いまだ緊迫した状況が続く。治安の悪さによって医療機関での受診は困難を極め、特に子どものワクチン接種率が低下したことが問題となっている。
子どもたちへのはしかの予防接種は、同州に19ある地区のうち12地区で行われ、診療所や学校などの施設も会場となった。地区によっては交通の便がよい都市部もあるが、ニジェール川に沿った農村地帯もある。こうした地域では水の流れや溜まり水、湖が自然の障壁となって、アクセスがままならない。
「カヌーに1時間以上乗って現地に向かいます。住民は家畜の放牧や農作業で広範囲に点在しているので、そうした人びとを追いかけて予防接種を行う必要があるのです」。MSF医療アドバイザーのトゥオ・ソンゴフォロは言う。
我が子を病気から守るために
集団予防接種の開始は、ちょうど雨期の始まりと重なった。水位が上がるため、川は唯一の移動手段となる。悪条件にもかかわらず、子どもの皮ふにできた発疹や熱に気づいた母親たちは、ためらうことなくカヌーを借りて会場を訪れる。
「いまはあちこち冠水しているので、予防接種を受けに来るのはすごく難しい。けれども皆、子どもに受けさせたくて遠路でも足を運んでいますね」。生後16カ月になるアマドゥ君の母、マリアム・ハマドゥン・マイガさんは話す。
はしかは感染力の強いウイルス性の病気だ。感染してからおよそ10日後に高熱、発疹、鼻水、せき、結膜炎などの症状が現れる。栄養失調やマラリアを併発すると、症状はより重くなる。はしかにかかった子どもは栄養不良になりやすく、他の深刻な合併症を発症して、目や脳に影響が及ぶこともあるのだ。
だが、はしかには世界保健機関が子どもの定期予防接種に採用するような、安全で安価かつ有効なワクチンがある。むしろ課題となるのは、予防接種をこれまで受けてこなかった子どもたちにどう実施するかということ。そしてワクチンの温度を輸送中も適切に保つことだ。
母のひざの上に乗り、アマドゥ君は看護師が注射するのを泣かずにじっと見つめる。「『予防は治療に勝る』と言いますよね。子どもを病気から守るには、予防接種が欠かせません」とマリアムさんは笑顔で語った。