「もっと早く救助が来ていれば……」地中海でボートが転覆 子ども20人以上を含む100人死亡

2018年09月13日

地中海のマルタ島沿岸で移民・難民を乗せたボートが沈没し、100人以上が死亡した。9月2日、リビア沿岸警備隊が首都トリポリから東120kmの港湾都市フムスに260人を移送。そのうち55人が、沈没を生き延びた人たちだった。生存者が、リビアで活動している国境なき医師団(MSF)に事故の様子を語った。 

1歳の双子も溺死

地中海で移民を乗せたボート
(2017年2月22日撮影、資料写真)地中海で移民を乗せたボート
(2017年2月22日撮影、資料写真)

生存者の証言によれば、2隻のゴムボートは9月1日早朝に北アフリカのリビアを出航。スーダン、マリ、ナイジェリア、カメルーン、ガーナ、アルジェリア、エジプトなどアフリカ諸国からの移民・難民が160人以上乗っていた。

「1隻のボートはエンジン故障で止まりました。大人165人と子ども20人を乗せた私たちのボートも、午後1時ごろに空気が抜けてしぼみ始めました。乗客が海に転落し始めていたためイタリア沿岸警備隊に救助を求めたところ、『誰かを派遣する』と言われましたが、ボートは沈み始めました。

私たちは泳ぐことができず、救命胴衣を持っている人は数人だけでした。ボートの浮かんでいる部分にしがみついていた人だけが助かりました。後から欧州の救助隊が来て、空から救命ボートを投げてくれたころには既に全員が水中にいて、ボートは沈んでいました。

助かったのは55人だけです。もっと早く救助が来てくれていれば……。20人以上の子どもが亡くなりました。中には生後17ヵ月の双子もいて、両親とともに海に消えました。その後リビアの沿岸警備隊が到着し、こちら(リビア)に連れてこられたんです」。引き上げられた遺体はわずか2体だった。 

生き延びた赤ちゃんや重症患者を勾留

ガソリン漏れで化学やけどを負った男性ガソリン漏れで化学やけどを負った男性

MSFはボートのガソリン漏れで化学やけどを負った生存者の応急処置にあたった。「医療チームは数時間がかりで重傷患者に対応しました」。そう話すのは、リビア北東部ミスラタ市で活動するMSFの看護師ジャイ・フランシシスだ。

「急患18件のうち9人は、やけどが体の広範囲に及んでおり、最大で体表面の75%を負傷していました。病院へ搬送しなければ生死にかかわる危険な容体の患者もいました」。生存者はリビア当局に拘束され、収容センターに移された。勾留された人たちの中には、妊婦や赤ちゃん、子ども、重症患者も含まれる。

収容センターに勾留された子どもたち収容センターに勾留された子どもたち

地中海では近年、簡素なボートで渡航を試みた移民が拿捕(だほ)され、リビアで不当に勾留されるケースが後を絶たない。2018年1~8月には、欧州連合(EU)の支援を受けたリビア沿岸警備隊が1万3185人の移民・難民をリビアに送還した。 背景には、欧州各国政府が、難民らが欧州に入り込むのを阻もうという思惑がある。

MSFはフムスの収容センターで生存者の経過観察を続けている。
「患者のことが心配です。不衛生な独房に閉じ込められ、寝るときは毛布かマットレスを床に敷いただけ。重度のやけどを負った人には激痛が走ります。こんな状態で、どうやって回復できるでしょう?」と、フランシシスは憤る。「水中に長時間いたせいで、肺炎などの重い感染症を患う人も出ています」。

栄養補給のため、MSFは収容施設で果物を配布している栄養補給のため、MSFは収容施設で果物を配布している

収容施設では清潔な飲み水や食べ物が足りておらず、病状が回復するどころか逆に悪化する可能性がある。

MSFは、リビア国外に避難しようとしている移民・難民らを非合理に勾留することを止めるよう訴えている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や諸外国は、難民や庇護希望者をただちにリビア国外へ避難させ、第三国への定住を促すべきである。また、欧州やリビア当局は、地中海の国際水域で救助された人びとをリビアへ連れ戻すべきではない。安全な地を求め、決死の航海に出る移民・難民——彼ら彼女らの上陸を妨害してはならない。 

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