「もし娘にうつしたら…」感染症カラアザール、HIV、結核…3つの病気を抱える母の苦悩

2018年10月12日掲載

インド北東部のビハール州インド北東部のビハール州

ハエに刺されることで発症する感染症「カラアザール」。

日本ではなじみのない熱帯病だが、インド北東部の、国内でも貧しい州とされるビハール州には多くの患者がいる。特にエイズを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)にも、カラアザールにも感染した二重感染の患者は、他の病気にもかかりやすく、治療が難しい。亡くなるケースも多い。社会や家族からの差別も深刻だ。

国境なき医師団(MSF)のインタビューに応じるゾヤさん(手前)国境なき医師団(MSF)のインタビューに応じるゾヤさん(手前)

夫や娘らと暮らす女性、ゾヤさん(39歳)も差別に苦しんだ二重感染の患者だ。ゾヤさんは、ビハール州の国境なき医師団(MSF)の専門病棟で治療を受けた。だが、入院中に病状を知る国の保健員が、ゾヤさんの病名を村中に広めてしまった。差別が始まるきっかけとなった。 

まさか3つの重い病気にかかるなんて…

はじめは熱が出ただけでした。何度も病院で診てもらいましたが、ぶり返してばかり。疲労感があって働けませんでした。食欲もなくなり、何を食べても美味しいと思えなくなりました。皿洗いといった、簡単な家事さえこなすのが大変でした。ある病院を訪ねた時に、カラアザールに感染していると診断されました。

そこで別の病院を紹介され、HIV検査を受けると、HIV陽性でした。夫も検査を受け、HIV陽性であることが分かりました。病名がわかるまでに、約8万円ものお金を使ってしまいました。
 

赤裸々に思いを語ってくれたゾヤさん赤裸々に思いを語ってくれたゾヤさん

私たち夫婦は、経済的な事情で故郷ビハール州に戻ってきました。夫は仕立屋でしたが、黄疸になり、働けなくなりました。夫婦で職を失いました。故郷の村に帰っても、お金の悩みは尽きませんでした。そうした時に、病気を診断されたのです。

病院で知り合ったMSFのヘルスワーカーが、MSFの運営する専門病棟を紹介してくれました。そこでは、無償の治療が受けられます。すぐに着替えをまとめ、専門病棟に向かいました。
到着後に検査を受けると、今度は結核になっていることが分かりました。カラアザール、HIV、結核…。命も脅かす大きな病気に、同時に3つもかかってしまうなんて。 

絶望の中で MSFの医師に助けられた

MSFの医師たちは、熱心に治療をしてくれました。中には私の手を握り、「ゾヤさん、ちゃんとご飯を食べてくださいね。良くなりませんよ」と励ましてくれた方もいます。私は食欲を少しずつ取り戻し、動いたり、歩いたりできるようになりました。

MSFの専門病棟での治療の様子MSFの専門病棟での治療の様子

病気で落ちていた体重も、以前のように元に戻りました。専門病棟では、3つの病気を同時に治療することができました。また、病気の特徴や症状、薬などによる管理の仕方を教わりました。

差別のはじまり 娘の将来はどうなるのか

退院してからも大変でした。入院している間に、私の病気のことが村中に知れ渡っていました。私を知る国の保健員が、「エイズなので助かる見込みはない」と村中に言いふらしていたのです。専門病棟にいる間、親戚が全く見舞いに来なかった理由がわかりました。

私たちは、2階建ての家に大家族で住んでいます。退院した直後は、家族も私のいた場所をきれいに掃除し、水で流していました。私の使うトイレは誰も使いたがりませんでした。誰もが軽蔑していました。村の結婚式にも、呼ばれませんでした。 

ずっと、怒りがおさまりませんでした。病気になったのは、私が悪いのでしょうか。なぜ周りの人たちは「関係ない」という様子なのでしょう。

夜は、なかなか眠れません。子どもたちの将来が心配になってしまうからです。娘と結婚してくれる人がいるでしょうか。夜、目が覚めると、隣で寝ている娘を見て、「病気がうつってしまったら」と、不安で押しつぶされそうになります。

体調に気をつけながら、薬の服用を続けていれば、普通の生活を送れることは分かっています。それでも、咳ひとつでも心配です。切り傷といった軽いけが、月経の時でさえも不安でたまりません。

子どもたちは、私の全てです。大変な病気から助かった今、覚悟を持って前に進んでいきたいと思っています。

カラアザール

カラアザールは、サシチョウバエに刺されることで感染する。WHO(世界保健機関)が「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」のひとつとして定義している。「顧みられない熱帯病」とも言われている。国境なき医師団(MSF)は、インド北東部のビハール州で、1万2000人のカラアザール患者を治療した。また、治療に関する政策提言でも成果を挙げた。2015年には、HIVとの二重感染した患者に向けた活動も開始し、これまでに700人余りを治療している。

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