ハイチ: 性暴力被害を防ぐために今すぐ必要なこと

2017年07月21日
「以前に付き合っていた男が自宅に侵入して……」(52歳)

ハイチでは未成年を含む女性を中心に、「性とジェンダーに基づく暴力」被害が非常に多く報告されている。首都のポルトープランスで特に著しい。深刻な社会問題にもかかわらず、見過ごされる傾向が続いている。性暴力被害者に対する偏見や屈辱、さらには報告した場合に加害者や関係者から報復される恐怖を感じている人も多いことから、実数は報告数よりも多い可能性がある。

被害者への援助活動は不十分で、特に若年層への援助が不足している。市民による社会活動や特定分野での進展はあるものの、政策および包括的な対応は依然として追いついていない。本来は、医学的・心理的ケア、および社会的・法的支援と保護からなる包括的対応を提供すべきだ。しかし、連携不足で支援パッケージに亀裂が生じ、被害者にしわ寄せがいく構図となってしまっている。

国境なき医師団(MSF)は2015年5月、他団体と共同でポルトープランスに専門診療所「プラン・メン・ム」(ハイチ語で“私の手を取って”)を開設した。以降、2017年3月までに、約1300人を受け入れた。

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MSFの患者の過半数が18歳未満

被害者を保護する取り組みは遅れている

ハイチではあらゆる年齢層から性暴力被害の報告があり、若年の女性が最もリスクが高い。2015年5月以降にMSFの治療を受けた被害者の77%は25歳未満だった。患者全体の83%は強姦(強制性交)被害の経験があり、さらにそのうちの83%が25歳未満だった。

MSFは、プラン・メン・ム診療所の患者の53%が18歳未満であることを特に問題視している。大多数は強姦やその他の性的虐待を受けていた。18歳未満の比率の高さが、未成年者への性暴力の防止策が喫緊の課題であることを裏付けている。

MSFの治療を受けた未成年者に調査したところ、80%は加害者との面識があった。大半は加害者と家族ぐるみの交流があった。一方、自分の家族から性暴力を受けた被害者の割合も11%を占めた。診療所に来院した未成年者の20%が、以前にも被害を受けていた。

性暴力は被害者のすべてを破壊する

報復を恐れて法的手段を取れない被害者も多い

性暴力は、心身の健康に対する影響、HIV/エイズなどの性感染症の媒介、望まない妊娠などさまざまなリスクを伴っている。被害後72時間以内のできる限り早い段階で医学的処置を受けられれば、こうしたリスクを軽減・回避できる。しかし、MSFの治療を受けた未成年者のうち、72時間以内に来院できた患者はわずか58%だった。

被害者が必要な治療を受けるためのハードルは高い。例えば、MSFの治療を受けた強姦被害者の38%は午後6時から深夜帯の間に来院していた。他の医療機関は業務時間外だからだ。また、医療物資が不足し、適切な対応がとれないケースも多い。全ての保健医療施設が、HIV/エイズやその他の性感染症の予防薬と、緊急避妊薬を速やかにそろえる必要がある。

被害直後はショック状態であることが多い。心理・社会的支援の第1の目的は日常生活を続ける能力を取り戻すことだ。例えば、初回のカウンセリングで気持ちを落ち着かせ、医学的処置を受ける気持ちへと向かわせる。さらに、適切なタイミングでカウンセリングやセッションを十分に行い、心理的影響が長期にわたる可能性を防ぐ。

性暴力は心身だけでなく、社会的・経済的な影響ももたらす。家族や周囲の人びとにも影響が及ぶのだ。だからこそ幅広い支援を含む包括的なケアが必要とされる。

社会インフラの整備と支援ネットワークの構築を急げ!

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援助を届ける仕組みは重点課題の1つで、どの分野でも取り組みが進んでいない。MSFはポルトープランスの社会福祉・保護団体のネットワークと連携することで課題の解決を図っている。被害者やその家族が避難できる仮住まいを手配する団体もあるが、その手続きに時間がかかるケースが多い。安全が保障され、住み続けられる住居を提供することは、MSFの患者にとって今なお最大かつ最も緊急のニーズだ。

被害者がこれ以上の暴力や性的虐待にさらされないようにフォロー・保護するために、現地の社会福祉サービスへの引き継ぐことも必要だ。MSFの患者の67%が社会的支援を必要としており、そのうち49%は安全な仮住まいや児童保護施設への入所などの保護を必要としている。また、患者の28%は、加害者を訴追するための法的支援の紹介を受けた。

ハイチにおける性暴力被害の問題は、公衆衛生に関する問題でもあるとの認識のもとで取り組みを進める必要がある。予防策の強化、被害者への医療・心理ケア、社会支援・保護の提供の拡大に取り組まなければならない。

性暴力被害に固有の医療ニーズに応えられる仕組みのもと、十分かつ早期の医療・心理ケアを受けられる環境が望ましい。助けを求める全ての被害者に包括的な支援が行き渡るよう、中央政府と地方自治体がそれぞれ環境整備を行うとともに、支援者のネットワークを構築することも必要だ。資金提供者は、安全な住居の提供に取り組んでいる団体をこれまで以上に支援することが期待される。

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