バルカン諸国:国境通過に新たな規制——移民・難民が行き場を失う事態に

2016年02月25日
ギリシャ‐マケドニア国境で暖をとる一行 旅の途中で知り合ったイラク人とシリア人だという ギリシャ‐マケドニア国境で暖をとる一行
旅の途中で知り合ったイラク人とシリア人だという

中東やアフリカから欧州への移民・難民の移動が続いている問題で、2016年2月第4週に突然、バルカン半島西部ルートで、アフガニスタン国籍の人を対象とした国境通過の規制が実施された。その結果、数千人が各地で足止めされている。規制に関する説明はなく、人道援助もほぼ行われていない。行き場を失った人びとは、暴力と人権侵害の危険にさらされている。

国境なき医師団(MSF)で移民・難民の人道問題顧問を務めるオレリー・ポンテュ—は「MSFは、人道危機が次々と起きていることに対し、対策を打つべき当事者たちの対応を強く批判してきました。しかし、欧州の各国政府は独自の規準によるさまざまな規制を作り続けています。目的はただ1つ、人の流れを減らすことです。その手段は問わず、人道援助ニーズも全く無視しています。包括的かつ人道的な解決策が打ち出されないことから、現場では、混乱、恣意的な措置、差別が多発しています」と指摘する。

記事を全文読む

国境の中間地帯で立ち往生

国境通過の列に並ぶ人びと 国境通過の列に並ぶ人びと

バルカン半島で通過規制がみられるようになったのは2015年11月のことだ。その時は、国籍がシリア、イラク、アフガニスタンの人だけに通過が認められた。現在では、マケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリアの各国が独自の規制を実施し、人びとの移動を妨げている。例えば、アフガニスタン人はギリシャに到着する人びとの30%を占めているが、2月第4週に施行された新規制で、ギリシャ‐マケドニア間およびマケドニア‐セルビア間で国境通過ができなくなった。

2月23日には、セルビアに到着したアフガニスタン国籍の60人が、当局からマケドニアに戻るように指示された。彼らはマケドニアにも入国できず、両国の中間にある無人地帯で足止めされている。ここでは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の保護も受けられていない。

密入国あっせん業者が暗躍する原因に

イドメニ村の国境検問所に並ぶイラク人家族 イドメニ村の国境検問所に並ぶイラク人家族

一方、セルビアに入国できた人の中で、数百人が次の目的地であるクロアチアへの入国を制止されたり、クロアチアやスロベニアからセルビアへ戻されたりしている。セルビア国境地帯で足止めされている人は約1000人に上るとみられ、当局からの確実な情報や最低限の援助も届かない状況に置かれている。

セルビアでMSFの活動責任者を務めるステファン・モイサンは「人びとは国境地帯と行ったり来たりさせられています。自分たちの権利やこの先の見通しについても知らされていません。これまでの経験から、こうして追い詰められた人びとが密入国のあっせん業者を利用する傾向にあることがわかっています。危険な選択であり、人権侵害や暴力にさらされる恐れがあります」と指摘する。

MSFが目撃した暴力の現場

MSFは実際、暴力の現場を目撃した。2月23日、ギリシャのポリカストロンで、警察がアフガニスタン人を蹴っていたのだ。アテネに強制送還するバスへの乗車を拒否したから、というのが警察の言い分だった。蹴られていた人の中には子どもも含まれていた。

MSFの患者にも、警察や密入国のあっせん業者から暴力を受けたケースが増えている。ギリシャ‐マケドニア間の国境に位置するイドメニ村では、暴力による負傷者100人以上を治療した。その中には、マケドニア警察がけしかけた犬にかまれたと訴える人もいた。

規制が続けばギリシャがパンクする!

ギリシャからマケドニアへの入国が規制された結果、何百人ものアフガニスタン人が国境地帯のイドメニ村からアテネに強制送還されている。しかし、アテネの受け入れ施設は既に限界だ。アテネ近郊のピレウス港では、北上できず、受け入れ施設にも入れず、それ以外の選択肢も示されないまま足止めされている人が増え続けている。

ギリシャでMSFの活動責任者を務めるマリー・エリザベス・イングレスは「すでに厳しい状況ですが、数日間でさらに悪化すると思われます。ギリシャの受け入れ施設は約3700ヵ所。このうち国境通過を望む人を受け入れる施設は1000ヵ所です。ギリシャ政府はアテネとテッサロニキでそれぞれキャンプを建設中ですが、管理・運営体制は不明です。アフガニスタン人の通行規制が続けば、ギリシャの受け入れ施設は8日間でパンクします。にもかかわらず、現実的な危機対応の計画は一切示されていません。状況がさらに悪化する事態を非常に懸念しています」と話す。

2016年に入っても移民・難民の危険な航海は続いており、すでに9万4000人以上がギリシャ領の島々に到着している。一方、少なくとも320人が航海中に亡くなっている。到着後も、援助や保護が極端に不足した状態に置かれている。

関連記事

活動ニュースを選ぶ