暴力から逃げ、森の中で暮らす住民 足りない援助 幼い子どもや妊婦も

2019年06月10日掲載

北西州で地域住民に生活必需品を配布し、診療を行うMSFチーム © MSF北西州で地域住民に生活必需品を配布し、診療を行うMSFチーム © MSF

2014年以降、カメルーン最北の極北州はチャド湖周辺地域の紛争のあおりをうけ、大勢の人が暴力から避難し、国内だけでなく国境の向こうのナイジェリアにも移動せざるを得なくなった。その一方で、カメルーンはもう1つの人道問題に直面している。北西州と南西州で、政府軍と、英語圏の分離派武装勢力との衝突が瞬く間に激化し、大勢が住まいを追いやられ、緊急に人道援助の必要な状況にあるのだ。国境なき医師団(MSF)は現地の医療施設を支援しているが、援助ニーズは莫大で、対策は追いついていない。 

森の中や茂みへ避難

国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告によると、北西州と南西州の武力衝突で2016年以降53万人が自宅からの避難を余儀なくされている。襲撃や性暴力、脅迫、拉致、殺害、村落への放火に遭い、大勢が都市圏外に避難した。避難先は森の中や低木の茂る林の中で、その場しのぎの小屋を造り、極めて劣悪な環境で過ごしている。別の都市に移った人びとも、路上暮らしや、地域の家庭に受け入れられて共同生活を送っており、過密で不衛生な環境のなかで暮らしている。 

暴力から避難した人びとは緊急に助けを求めており、人道援助ニーズは膨大だ。治安の悪化が深刻で、移動にも制約があるため、人びとは農場や市場に行けず、飲み水や、衛生的な暮らしに必要な清潔な水を手に入れるのにも苦労している。劣悪な生活環境、生活の糧を失い、十分な食糧も水もない苦しい状況で、より大きな疾病リスクにさらされている。さらに、心に傷を負う悲惨な出来事を経験した人も多い。

MSFではこれまでに280人の暴力被害者を治療したが、暴力によって人びとは医療施設へ来られなくなっている。また、医療施設に薬や医療器具が納品されなかったり、医療スタッフが避難してしまったり、保健医療施設が閉鎖に追い込まれている。

膨大な人道援助ニーズ

MSFは北西州と南西州で19の保健医療施設を支援し、暴力と避難のため医療が受けられない人びとに、施設の紹介と救急ケアを提供している。北西州のバメンダとウィディクム、南西州のブエアとクンバの4ヵ所では、医療行為を行える救急車による搬送システムを無償で運営。これにより、民間人の移動や活動を制限する封鎖や外出禁止令の時も、患者が診療所や病院に搬送されて専門的な処置を受けられるようになった。2018年6月から2019年3月までにこの救急車で2500人以上を移送。大半は産科合併症に苦しむ女性だが、15歳未満の子どもや故意の傷害の患者もおり、銃撃された負傷者も338人いた。

さらに、妊婦と5歳未満児を中心に救急患者への対応を担うとともに、薬や物資を寄贈。マラリアなど地域でよく見られる病気は、地域の保健担当者が診療できるよう研修もしている。2019年3月までの10ヵ月間で、救急診療は2000件、外来診療は3万2800件、治療したマラリア患者は1万4500件を超える。心理・社会面の支援も1280人に行った。 

必要な人に人道援助が届かない

MSFは北西州•南西州の都市圏外で活動している数少ない団体の1つであり、特に助けの必要な避難者に医療を届けることに焦点を置いている。1人でも多くの人を援助できるよう努めているものの、暴力が続き人道的状況が悪化するなかで、現行の対策ではニーズの大きさに追いついていない。

深刻な治安の悪化と移動の制限により、北西州と南西州の一部地域には国際援助組織が全く立ち入れず、カメルーン国内の援助機関が時々入ることができる状況だ。そのため、都市圏外のこうした地域に避難した人びとは、援助を全く受けられずにいる。

MSFチームにもたどり着けない場所がある。そういった地域の状況を正確に見定めることはできないが、多くの人が相当の人道・医療援助を求めていることが予想される。暴力的な事態が続き、国際人道援助もなかなか届かず、人びとの窮状に拍車のかかる恐れがある。 

医療を狙った暴力

医療施設と保健医療従事者に対する襲撃も起きている。当初は無差別だったが、暴力が長引くにつれ、狙って行われるようになった。病院が意図的に襲撃・占拠され、救急車が妨害され、医療従事者も脅迫・拉致・暴力・殺害に遭っている。

医療が妨害され、人びとが最も必要な時に治療を受けられない状態にある責任は、この紛争の全当事者にある。過去1年の間にMSFが記録した保健医療施設への襲撃は61件、医療従事者への襲撃は39件に及ぶ。弱い立場にある人びとが必要な医療を継続的に受けられるよう、政府軍にも武装勢力にも、医療援助活動が尊重されなければならない。 

MSFは1984年からカメルーンで活動し、感染症の流行、自然災害、武力紛争にさらされた無力な人びとに医療援助を届けてきた。2015年には極北州で暴力被害者、避難者、無力な人びとを対象に緊急医療・栄養・小児科ケアを開始。

2018年、北西州と南西州で、各区の保健医療体制を支援。患者紹介と救急の体制強化、医療従事者の技能向上、暴力のせいでなかなか医療を受けられない人びとへの援助活動に乗り出した。

同じ年、ナイジェリアのクロスリバー州でも活動に着手。この州では2019年2月時点で3万2600人のカメルーン人難民が登録されていた。MSFと州保健省は現在9ヵ所で移動診療を行っており、1日約200人の患者に対応。5月上旬までの1次診療は2万565件に上る。難民だけでなく、受入地域の住民も対象とした心理・社会面での支援も提供している。 

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