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【報告】グローバルヘルス合同大会2023でワークショップ「医療へのアクセス──危険にさらされる患者と医療者」を開催

2023年12月13日

2023年11月24日~26日、東京で開催されたグローバルヘルス合同大会にて国境なき医師団(MSF)がワークショップを主催しました。

本ワークショップでは「医療へのアクセス──危険にさらされる患者と医療者」として、座長である大阪赤十字病院の中出雅治医師のもと、4名の登壇者がそれぞれ異なる視点から医療へのアクセスについての現状と課題を発表しました。会場には100名近くが参加してくださり、活気にあふれたワークショップとなりました。

ワークショップ登壇者。左からMSF日本事務局長の村田、中出医師、森岡医師、<br> ICRC駐日代表の榛澤さん、DNDi Japan事務局代表の中谷さん © MSF
ワークショップ登壇者。左からMSF日本事務局長の村田、中出医師、森岡医師、
ICRC駐日代表の榛澤さん、DNDi Japan事務局代表の中谷さん © MSF

最初の登壇者であるMSF日本事務局長の村田慎二郎は、医療・人道援助活動を行う上での大きな障壁として医療への攻撃の問題を取り上げ、紛争下で病院や医療従事者が攻撃の対象となることが増えているとして、シリア、アフガニスタン、パレスチナ自治区のガザの事例などを挙げました。米国同時多発テロ事件(9.11)以降、世界的に対テロ政策が取られるようになり、「テロとの闘い」の名のもとに国際人道法が無視され、それらが国、世論、メディアなどで正当化される状況が生まれました。ガザでは子ども約6000人を含む約1万5000人が死亡、人口の70%超が国内避難民となっていること、また、ガザに残って医療活動を続けていた現地の医師が現状を伝える音声や、亡くなる前に病院内のホワイトボードに残したメッセージについて紹介しました。さらに、MSFとして日本政府にも働きかけ、国際人道法の順守を求める声を上げていることを伝えました。
 
次に赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表の榛澤祥子さんは、アンリー・デュナンの「ソルフェリーノの思い出」を紹介し、敵味方の区別なく一人一人の命を救おうとする人びとの献身的な姿勢が国際赤十字・赤新月運動のDNAであることを説明しました。そのうえで、ガザの病院で働く看護師から同僚へ向けたメッセージを読み上げ、ガザで医療従事者が直面する厳しい状況を伝えました。そして、世界保健機関(WHO)のデータとして2023年1月~11月で993件の医療への攻撃が行われていること、それに伴い医療が人びとから奪われ、医療従事者を危険にさらし、医療システムを弱体化させていることを訴えました。また、メディアの注目を浴びない国々の紛争などにも関心をもち続け、自分に何ができるかを問い、それに向けて一歩踏み出すことが人びとの命を救うことにつながることを訴えました。
 
3人目の登壇者であるMSFの森岡慎也医師は、ミャンマーやスーダンでの実際の医療援助活動について報告しました。ミャンマー軍のクーデターにより、「政治犯」として4000人以上が殺され、2万5000人以上が投獄されたというデータ(※)があることを紹介し、武力衝突で発生した傷病者が「政治犯」として扱われ、その治療を行った医師も「政治犯」として扱われかねないため、医療提供が困難になるジレンマがあったことを説明しました。また、スーダンのハルツームでは、敵対する組織間で物流が妨げられることにより、手術や外科治療ができなくなることや、コレラ対応のための物資が届かないことを報告しました。いずれの国も人びとの医療へのアクセスが妨げられ、その中で活動する困難さ、国際社会による継続的な関心、支援や協調の必要性について伝えました。
Assistance Association for Political Prisoners
 
最後の登壇者であるDNDi Japan事務局代表の中谷香さんは、顧みられない病気のための新薬開発の面からの医療へのアクセスについて発表しました。中でも、マイセトーマという感染症と、世界で唯一のマイセトーマと皮膚の顧みられない熱帯病(NTDs)のためのWHO協力センターである、スーダンのマイセトーマ・リサーチ・センターについて紹介しました。紛争によりこの研究機関も影響を受け、研究・治療期機関としての機能の喪失、コミュニティへの活動の寸断といった短期的な影響だけでなく、知見の共有ができなくなることによる開発遅延といった長期的な影響について訴えました。

参加者からの質疑応答の様子 🄫 MSF
参加者からの質疑応答の様子 🄫 MSF
質疑応答では、「現地活動にあたり、政府や現地パートナーと協力していく必要があるが、どのようにコミュニケーションを取っていたのか」という質問に対し、森岡医師は、ミャンマーでは軍事政権と協議・協働すると民主派から敵対視されかねないが、ビザを得るためには軍政側の許可も必要であり、そのバランスを取ることの困難さ、現地の実情に即した医師への教育などを行ったことを回答しました。

その他、「日本の代表としてどのようにポリシーメイキングに反映させることができると思うか、そのために足りないものは何か」という質問に対し、村田は人道援助について人びとへの理解を広めることと、政府との対話を中長期的に行っていく必要性、榛澤さんは、国際人道法の普及と、国際人道法を国の政策や戦略に反映させるべく強く働きかける必要性と回答しました。また、森岡医師は、より多くの日本人が海外へ行って活動することに大きな意味があると訴え、中谷さんは、切れ目のない研究開発とその能力を備えること、NTDsという問題の重要性を日本政府に理解してもらうための政策提言の重要性と回答しました。

座長の中出医師からの「証言活動についてのMSFとICRCの考え方の違いはどういったものがあるか」という質問に対しては、村田は証言活動により安全が脅かされるという考え方もあるが、証言活動は世論を変え人道状況を改善するために欠かせないことを説明しました。榛澤さんはICRCの証言活動について、声を上げないということではなく、批判をすることにより、支援を必要としている人びとへのアクセスが失われる可能性があること、アクセスを守るための積極的な中立を重要視していること、また、すべての紛争当事者と守秘義務に則って直接的な対話を実施していると回答しました。
展示の様子 🄫 MSF
展示の様子 🄫 MSF
 
本セッションを通して、現在進行で起こっているガザでの医療への攻撃に加え、世界で起こる人道危機についてあらためて参加者、演者ともに学ぶ機会となるとともに、多くの人びとにこのような状況や国際人道法について知ってもらうことの重要性を理解する機会となりました。

また、同学会にはMSFのブースも出展しており、3日間を通して多くの方にお立ち寄りいただきました。ブースでは、海外派遣スタッフとしての参加を考える方に応募資格などの詳しい情報提供も行いました。

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