海外派遣スタッフ体験談
外傷治療とともにニーズの高い内科疾患も対応
安藤 恒平
- ポジション
- 外科医
- 派遣国
- 南スーダン
- 活動地域
- アゴク
- 派遣期間
- 2014年9月~2014年10月
- QMSFの海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
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前回の海外派遣が終わってからも、MSFの会員向けに送られる世界各地での活動報告などを通して、常時 MSF 海外派遣スタッフとしての意識を持ち続けていました。
今回は、国内の病院で受けていた内科のトレーニングにめどがついたため、出発の約1ヵ月前より、派遣可能であることをMSF日本事務局に伝えておりました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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2014年10月より、日本において内科のトレーニングを行っておりました。MSFの派遣地での活動では、外傷疾患の中にも内科疾患が隠れている場合もあるからです。
多数の患者に対応し、慌ただしく、明日がどうなるかわからない状況の中で、外科医である自分も、肺炎や貧血、抗菌薬の適正使用についての理解を深める必要があると感じておりました。人口1万人の高齢化地域の基幹病院で、総合内科医として修練していました。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?
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過去の派遣にて、前線で行われたダメージコントロール手術(※)の具体的内容がわからない中で、MSF の病院へ搬送された患者さんの治療を再開していることや、検査機器がない中で、自分の五感で患者の状態、外傷の内容や程度を把握することなど、多く経験してきており、それらは、今回の派遣でも十分に発揮されていたと思います。
今回の派遣地にはレントゲンもありませんでしたが、それも苦になりませんでした。診断治療において、機材がないことでの不満はなく、むしろ今回は顕微鏡と検査技師がいたので、各種感染症において有効な治療法の選択に満足しました。
- 重症外傷の患者に致死的な3つの特徴が現れた場合に取られる治療戦略。蘇生を目的とした初回手術を行い、続いて集中治療室などで安定化を図り、その後再建手術などを行う。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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2011年の独立後も、国内での対立、戦闘が続き、医療が行き届いていない南スーダンで、外傷患者や感染症、栄養失調に対する治療を提供しているプログラムでした。海外派遣スタッフとしては10人、ケニアからの地域スタッフとして十数名、その他、看護師や検査技師を含め、多数の現地スタッフとともに医療を提供していました。
平日昼間の一般外来は、近隣で活動する他NGO団体に依頼し、外科系および救急疾患ならびに休日と時間外診療をMSFで担っておりました。内科、外科、産科、栄養失調への対応など幅広く行っており、病院にはベッドが120床ありますが、総入院数は常時140人を超えていました。
雨期の終わりとあって、連日50人を超えるマラリア患者や、乳児の髄膜炎、感染性心内膜炎、結核、ヘビにかまれた傷、寄生虫による下痢、急性糸球体腎炎、細菌性腸炎、性感染症など、幅広くの患者さんがいました。
今回は、日本で内科の知識と経験を得ていたこと、また現地でのスタッフ数が十分でなかったこともあり、外科医として派遣された自分も、これらの内科系疾患にも対応していました。また、患者が外科入院中に内科系の診断治療を行うこともありました。
外科疾患としては深部膿瘍(のうよう)の治療が多く、その他、熱傷、おのによる外傷、銃創、以前の腹部銃創で人工肛門となっていた方の再吻合(ふんごう)人工肛門閉鎖、鼠径(そけい)ヘルニアの嵌頓(かんとん)からの腸管壊死(えし)、前置胎盤に対する帝王切開など、さまざまでした。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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朝6時に起床し、シャワーを浴び、6時半より食事をとって、7時過ぎから回診をしていました。8時10分から医療ミーティングがあり、そこで1日の流れを外科チームで共有しました。
昼過ぎまで手術室での治療を行い、午後は緊急に備えつつ、病棟回診や手術を行いました。麻酔科医は救急外来や内科病棟勤務も兼務していたため、手術はなるべく麻酔科医の必要のない局所麻酔薬や鎮痛剤を併用して行い、麻酔科医の自由時間を十分に作ることも考えていました。
午後5時からは日替わりで救急外来とオンコールを担当しました。本来はオンコールだけだったのですが、スタッフが足りず、医療チームリーダーからの依頼で救急外来も担当することになりました。
救急外来では連日夜11時まで数十人のマラリア患者に対応し、めまぐるしいほど忙しく、さすがに疲弊していまい、熱中症や不眠にも陥ったため、担当は外してもらいました。
土日も、病棟回診と小手術を行い、平日と大差のないスケジュールでした。勤務外では、シャワーを浴び、オレンジやリンゴを食べ、皆と談笑して過ごしました。すぐに救急外来へ呼ばれてしまうことも多々ありましたが…。
週末にはパーティーを開いて、バーベキューをして、音楽をかけて踊り、ストレスを発散していました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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トゥクルというわらぶき屋根の家に住んでいました。壁はレンガです。網戸の外にビニールシートが垂らしてあり、これと扇風機とを駆使することで、住居内に空気の流れを作って暑さをしのぎました。
昼間のトゥクルは涼しく、時々昼寝をしていました。カエルやサソリが入ってくるので、これらを追い出したり退治したりするのに、手を焼くことがありました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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厳しい環境と、多数の患者さんの中、現状でできることを、皆で助け合いながら行うことができたと思います。途中、熱中症にもかかりましたが、自身の不調に気付いた時には早くチームにそのこと知らせ、結果、チームには大きな負担とならずに済みました。気遣ってくれた皆に感謝しています。
派遣活動ではよく経験しますが、今回も、患者さんの家族にガーゼ交換を手伝ってもらったり、患者さんから、付き添いの人の具合が悪いことを知らせてもらったり、現地の人との深い交流がありました。
患者さんや家族に、手洗いや、石けんを使って創部の清潔を保つことなどを教えました。そうすることで衛生への意識が高まり、スタッフが適切な業務へ注力できます。現地の言葉で石けんの使い方を説明しましたが、言葉を教えてくれたのも患者さんとその家族です。
- Q今後の展望は?
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今後は国内で整形外科のトレーニングに専念します。外科では首から骨盤内臓までを診ることができていましたが、MSFの経験から、四肢の筋肉、骨、神経血管に対する知識を深め、四肢の外傷に対する治療をさらに突き詰めていきたいと考えるようになりました。
MSFの現場では、患者さんは治療後も現地の厳しい環境の中で生きていかねばなりません。そのために、その患者さんにとって何がベストの治療法であるかを考え、治療の選択肢を幅広く習得しておくためには整形外科の知識が必要ではないかと考えたからです。
そのため、15ヵ月間はMSFの派遣参加をお休みする予定です。次回の派遣では、さらに治療の有効性を高めていきたいと思います。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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やってみなければ、何も始まりません。やってみてはじめて、たくさんのフィードバックがあります。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2013年11月
- 派遣国:シリア
- プログラム地域:—
- ポジション:外科医
- 派遣期間:2013年5月
- 派遣国:シリア
- プログラム地域:—
- ポジション:外科医
- 派遣期間:2012年8月~2012年10月
- 派遣国:イエメン
- プログラム地域:ハミール
- ポジション:外科医
- 派遣期間:2012年3月
- 派遣国:パキスタン
- プログラム地域:ハングー
- ポジション:外科医
- 派遣期間:2011年10月
- 派遣国:イエメン
- プログラム地域:—
- ポジション:外科医
- 派遣期間:2011年3月~2011年5月
- 派遣国:ナイジェリア
- プログラム地域:ポートハーコート
- ポジション:外科医