海外派遣スタッフ体験談

思い切って参加した初回派遣が大きな体験に

大田 修平

ポジション
外科医
派遣国
パキスタン
活動地域
ハングー
派遣期間
2014年10月~2014年11月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

高校生の時、MSFがノーベル平和賞を受賞したニュースを見て、MSFの存在を知り、医学部に行くことを決めました。その頃からいつかMSFの活動に参加したいと思うようになりました。

日本で医師をしていれば、自分の代わりになる医師はたくさんいます。診察室1番に入ろうが2番に入ろうが、その患者さんの運命はほとんど変わりません。MSFで活動する場所では自分しかおらず、自分にしかできないことができ、やりがいもあると考えたからです。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

英語に関しては、海外生活や留学経験がまったくなかったため、週1回英会話に通い、あとはオンラインの英会話で勉強しました。英語の面接は1度不合格になり、勉強し直して、2度目で通りました。

一般外科医として勤務しており、普段は消化器外科中心に、救急、内視鏡検査などをしています。帝王切開の経験がほとんどなかったため、派遣前には勤務先の隣にある産科クリニックにお願いして、経験を積ませていただきました。

近年の外科手術は、高価な機械や、腹腔鏡を使った手術が増えてきています。腸管吻合(ふんごう)なども自動吻合器という機械を使って行うのですが、派遣地にはそんなものはないので、普段からできるだけ、針と糸で吻合する技術を磨き、高価な機械を使わないでできるような状況に慣れるようにしていました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

救急疾患の対応が多い病院で2年間初期研修をし、外科医になることを決めました。虫垂炎などのよくある疾患も、へき地に赴いた時に手術治療ができないのでは話にならないと思ったからです。胸部、腹部、血管外科、外傷を含む一般外科での後期研修を4年間行いました。

その後、長崎大学熱帯医学研修所で3ヵ月の熱帯医学研修を受けました。その後は、一般外科医として市中病院でスタッフとして勤務しています。

学生時代から途上国での医療に興味があったため、大学生のときに、NGOのプロジェクトにボランティアとして参加したりもしました。学生時代の長期休暇には東南アジア、アメリカ、ヨーロッパなどにバックパッカーとしてよく旅行していました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
手術の様子(左が筆者) 手術の様子(左が筆者)

首都イスラマバードから車で5時間の、アフガニスタン国境に近いハングーで、救急、外科症例と、現地保健省の産科クリニックからの緊急症例に対応するためのプログラムでした。

海外派遣スタッフはプログラム責任者1人、医療チームリーダー1人、救急医1人、麻酔科医1人、助産師2人、ロジスティシャン1人、アドミニストレーター1人でした。国籍もパキスタン、カナダ、ドイツ、オーストリア、日本とさまざまでした。

症例としては、私が派遣されていた期間は帝王切開、経管、膣裂傷など産婦人科的症例が多かったです。双胎、前置胎盤、胎盤早期剥離など、日本では一般外科医が見ることの少ない症例もありました。後は、銃創、刺創、交通事故による負傷者、虫垂炎、腹膜炎、骨折、広範囲熱傷など、さまざまな症例がありました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

土日以外は毎朝8時半からミーティングがありました。その後、麻酔科医とともに病棟回診を行い、予定手術に入りました。適宜救急からのコンサルトがあったり、緊急手術が入ったりしました。

日曜日が基本的に休みだったので、予定手術は入れませんでしたが、コンサルトや緊急手術がありましたので、完全な休日はなかったです。

治安上、病院の敷地外にはまったく出られないため、空いた時間は映画を見たり、本を読んだり、ほかの海外派遣スタッフとテレビを見たり、おしゃべりしたりして過ごしました。

Q現地での住居環境についておしえてください。
手術室チームで一緒に昼食 手術室チームで一緒に昼食

個室にバス、トイレ付きの非常に恵まれた環境でした。温水シャワーも出ました。掃除、洗濯は現地の家政婦さんが毎日やってくれました。食事も作ってくれました。だいたいカレー風味だったので、最後の方は少し飽きましたが、予想以上においしかったです。週末はアドミニストレーター、ロジスティシャンの方がパスタ、スープなどを作ってくれたりもしました。

派遣中に誕生日を迎えたので、カナダ人の救急医がケーキとメッセージ・カードを作ってくれ、お祝いしてもらいました。良い思い出になりました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

現地に着いて数日後に、双胎で分娩停止なので緊急帝王切開をして欲しいと頼まれました。若干緊張しながらも赤ちゃんを子宮から出し、隣の新生児室から産声が聞こえた時は本当にうれしかったです。来てよかったと思いました。

任期中にイスラム教のお祭りがあり、1年の中でも治安状況に注意が必要な時期と言われました。治安の悪化によって多数の傷病者が出ることに備え、集団災害対策(MCP:マスカジュアリティー・プラン)について何度もミーティングが開かれました。

この状況に、初回派遣の私と、同じく初回派遣のドイツからの麻酔科医2人はかなり緊張していましたが、何事もなく終わり、安堵しました。おおげさですが、こういった状況に身を置かれると、本当に自分がしたいこと、自分にとって大事な物が見えてくるということがよく分かりました。

Q今後の展望は?

英語はもともと自信がなかったのですが、仕事上ではそこまで困ることはありませんでした。ただ、宿舎で同僚との日常的な会話が分からないことがあったので、もっと英語力をつけなければいけないと思いました。

日本では主に腹部外科をしているので、整形外科的なことが困りました。骨折などはすぐに死に直結する訳ではないですが、間違った治療をした場合、機能的に障害が残る可能性もあり、安易な判断はできません。派遣地では整形外科的なニーズも多いので、これからも勉強を続けたいと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

初回派遣は、行くのには勇気が必要でしたが、普通に日本で医師をしていてはあり得ない状況も経験できました。もともと口数が少ないので楽しんでいるようには見えなかったかもしれませんが、すごく楽しかったです。不安や心配はありますが、やはり思い切って決断したことで、よい経験ができたと思います。

日本は島国で、私もあまり異文化に触れることのない状況で生まれ育ってきました。でも、生まれた国や文化、価値観の違う人たちと共に仕事をし、生活しながら、同じ目的を達成し、喜びを分かち合うということの楽しさ、喜びを知ることができました。

私たちはお金、地位、名誉などさまざまな欲求があり、社会生活、職場での責任などさまざまなしがらみに囲まれていますが、そういったことのほかに、もっと大事な体験ができるのではないでしょうか。

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