海外派遣スタッフ体験談

政情安定国のフィリピンで重要課題に取り組む

的場 紅実

ポジション
薬剤師
派遣国
フィリピン
活動地域
マニラ
派遣期間
2016年4月~2016年9月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

前回のウガンダ派遣終了後しばらく日本で家族と時を過ごす必要があり、地元の大学病院に勤務しました。1年を日本で過ごすことで、これまでのMSFの派遣経験をしっかり咀嚼(そしゃく)し消化できたように思います。

そのうえで、再びMSFで働きたいと強く思い、日本事務局に派遣プロジェクトを確保(笑)してもらい、1年ぶりの派遣に至りました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

家族となるべく一緒の時間を過ごすことを第一に考え、地元の大学病院で嘱託薬剤師として勤務しました。総合病院でしたので、医学薬学の勉強をするには恵まれた環境でした。

ラジオの語学講座を開始したり、和裁を習ったり、ヨガで心身を楽にしたり、小説を乱読したり、講演などでMSFの経験を話す機会も数回ありました。家族や友人と時間を過ごしたいい1年でした。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

「1つとして同じ活動はない」と初回のマラウイ派遣で言われたことを、今回あらためて実感しました。過去の派遣経験すべてが何らかの形で役に立ったと思います。

不思議なことに、MSFでは、1つ1つの派遣経験が本当に大きな自信になります。というのも、泣いても笑っても知らないことでも未経験のことでも、自分がやるしかなく(自分が一番の適任者)、それらの経験が血となり肉となるからです。無我夢中でやっているうちに、少々のことでは動揺しなくなる……わけではありませんが、腹がすわってきます。それが実感できました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
スラムにあるマニラ市民の住居 スラムにあるマニラ市民の住居

MSFは1987年からからフィリピンでさまざまなプロジェクトを行ってきました。直近では2013年末の台風30号(ハイエン)の被災救援です。

今回は、20年以上マニラのスラム地域を中心にリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康とその権利)に従事する地元NGOとパートナーシップを結び、このNGOの活動を支援するとともに、その医療活動の拡充・改良していくという新プロジェクトの立ち上げに携わりました。地元NGOとのパートナーシップ、長期の展望をもつオフィス設置など、MSFとしては珍しい活動形態です。

「なぜ、MSFが、フィリピンで、リプロダクティブ・ヘルスなのか」というのは、出発前、私自身の疑問でもありました。フィリピンは中所得国とみなされていますが、フィリピン統計局によると、1臆を超える総人口のうち25%が貧困層、そのうち半数の1300万人は1日2ドル以下で生活していると考えられます。(例えば南スーダンの総人口が1200万人であることを考えると、非常に大きな数字です)

マニラ市内の薬局ではどんな薬も手に入る マニラ市内の薬局ではどんな薬も手に入る

人口の80%がキリスト教のカトリックを信仰しており、中絶や離婚は違法で、(医薬品による)避妊は禁止を唱える政治家もいます。MSFの調査では、私たちが活動するマニラのスラム地域の出生率は、フィリピン全体の3.0に対し5.4と高く、貧困が連鎖する大きな要因の1つです。路傍で生活する家族は多く、赤ん坊を抱きかかえたまま眠る人びとを見かけるのも日常で、ファミリー・プランニングは重要な課題です。

薬剤師としての私の仕事は、医薬品供給源の選定・確保と薬局の立ち上げでした。通常、MSFで使用するすべての医薬品は、専任の薬剤師が世界中の製薬会社や仕入れ元を厳密に調査・訪問した上で選定されています。MSFはヨーロッパに複数の大きな倉庫を運営しており、これらの医薬品を購入・備蓄しています。全世界のプロジェクトは、この倉庫へ医薬品を発注・輸入し、質が保証された医薬品のみプロジェクト内で使用します。

しかしフィリピンでは、医薬品の輸入条件が非常に厳しく、MSFとしては例外的に医薬品の現地購入を検討することになりました。そのための医薬品の市場調査、医薬品の品質評価(Quality Assessment)を含む仕入れ先選定の下調べが、薬剤師としての私の仕事でした。

海外派遣スタッフは7~8人、地元NGOのクリニックがあるスラム地域から車で30分の場所にオフィスがあり、さらに徒歩20分の所に住居がありました。小さなオフィスで、MSFの知名度も低く、MSFとは何かと説明するところからネットワークを広げていく必要がありました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

MSFのフィールドにいるというよりも、普通に職場に通勤しているような感覚でした。自分のスケジュールはマネジメントできるので、気持ちが行き詰まらないように内勤と外勤の業務を組み合わせていました。

勤務外の時間は、プールで泳いだり、仲間と飲みに行ったりしました。仲間と日帰りで遠出したり、手料理を用意して招待しあったりもしました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

私は派遣期間5ヵ月で比較的短かったので、3つのベッドルームがある家に住んでいました。必要なものはすべて備わっており、仕事とプライベートを完全に分けて生活することが可能でした。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
フィリピンの公立病院の産科病棟 フィリピンの公立病院の産科病棟

MSFが、医薬品の質に徹底したこだわりをもち妥協しないことが改めてわかりました。医薬品の品質評価(Quality assessment)は、薬剤師ならではの仕事でとても興味深かったです。任期最後の1ヵ月は、最終決定権をもつMSFの専任薬剤師と一緒に働き、彼の高い能力とプロフェッショナルな仕事ぶりに刺激をうけました。

プロジェクトの立ち上げの大変さ!今回は、政情的にも経済的にも安定している(とみなされている)国でのMSFオフィスの正式な立ち上げではありましたが、チーム全体がいろいろな省庁との交渉や行政上の承認・手続きなどに大変な時間と労力を要しました。

フィリピンという国のビジネス文化では、重要なコミュニケーションが携帯メールで行われる(!)その一方で、メールよりも電話・面会を重要視する風潮もあるなど、なかなか物事がうまく進みませんでした。

また医療活動に関する基準、医薬品輸入、寄付などに関し、法律資料などを読み解く必要もありました。

チームで共同生活をしなかったので、チーム内のつながりは比較的薄かったのですが、いいチームでした!

派遣されるまであまり知りませんでしたが、フィリピンは興味深い国でした。アフリカと比べると地理的にも歴史的にも日本とつながりが強く、良くも悪しくも日本の影響が観察され、日本人であることを意識しなおしました。心理的・時空的に、とても近いフィールドでした。

Q今後の展望は?

数ヵ月休んだあとに、次回の派遣を希望しています。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

自分の目でみて、自分でやってみるまで納得しない(笑)、というつもりで意思を持ち続けることだと思います。機会が整ったら、ぜひ参加してみてください。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2014年9月~2015年3月
  • 派遣国:ウガンダ
  • 活動地域:アジュマニ
  • ポジション:薬剤師

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