海外派遣スタッフ体験談

小児と新生児ケアをマネジメントしながら課題を克服

菊地 紘子

ポジション
小児科看護師
派遣国
ハイチ
活動地域
ポルトープランス
派遣期間
2015年12月~2016年9月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

前回の中央アフリカへの派遣後すぐに、帰国後1ヵ月頃を目安に希望いたしました。活動に参加することに生きがいとやりがいを感じていたので、また早く参加したいと思っていました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

1ヵ月弱の期間だったため、前回派遣活動のまとめや、免許の更新・講習受講(新生児蘇生法:NCPR)、健康診断など、自己メンテナンスに勤めました。フランス語が低下しないように毎日フランス語を聞く・話すということを心がけていました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

今回は小児科看護師という特殊なポジションであったため、日本での小児科・新生児集中治療室(NICU)勤務経験がとても役に立ちました。小児科・新生児科に特化したケアの質の向上、感染予防対策、新生児救命蘇生法の伝授など、今までの経験とスキル、得意分野がフルに生かせました。

それに加え、部署全体の総括・マネジメント業務も必須であり、過去2回の派遣経験で得たマネジメント・スキルを活かすことができました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

今回のプロジェクトはカリブ海に浮かぶエスパニョーラ島の東側、ハイチ共和国の首都ポルトープランスにあるCRUO(周産期救急搬送センター)にて、私は小児科部門(新生児科)の看護マネジャーを勤めました。CRUOは総病床数140床であり、産前病棟・産後病棟・手術室・小児科病棟(NICU16床・回復期治療室<GCU>20床・カンガルーマザー病棟 病棟20床・感染隔離病棟10床)、外来部門、コレラ部門とあり、周産期ケアにおいてはポルトープランス内でもかなりハイレベルな医療を提供できる施設です。

海外派遣スタッフは常時12人程度(チーフ、看護部長、小児科医師、助産師、看護師2人、人事・財務、ロジスティシャン、水・衛生管理専門家、疫学専門家、麻酔科医、薬剤師など)であり、現地スタッフは総勢350人程度でした。私は海外派遣スタッフの小児科医(ベルギー人)とともに、現地スタッフ小児科医師十数人と小児科看護師六十数人の合計七十数人の小児科部門を統括する任務を務めました。

主な症例としては未熟児(超未熟児含む)・TTN(新生児一過性過呼吸)・胎便吸引症候群・感染症疑い・敗血症・髄膜炎・新生児黄疸(おうだん)・先天性異常(奇形)・心疾患などです。未熟児は28週くらいから、体重は700~800gの赤ちゃんも救命することが可能でした。
私は2人のスーパーバイザー(現地スタッフの看護師長)とともに、新生児ケア・看護の質の向上、院内感染予防対策、スタッフのマネジメントに当たっていました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
赤ちゃんが泣くときは原因があるから駆けつけること現地スタッフにはいつもそう伝えていた 赤ちゃんが泣くときは原因があるから駆けつけること
現地スタッフにはいつもそう伝えていた

朝7時半に出勤し、NICU・GCU・カンガルーマザー病棟、隔離病棟、母の村(小児科の)、それぞれの病床数を確認し、スタッフの配置状況を確認します。1日の流れ(会議や物品請求・薬剤請求など)をチェックし、2人のスーパーバイザーとともにその日の優先事項や連絡事項、重点事項を話し合います。

総回診は月・水・金は11時からNICUと隔離病棟、火・木は15時からGCUとプログラムを組んでいました。小児科病棟はとても回転が速いため(NICUからGCUへ、GCUからカンガルーマザー病棟へ、など移動が多く、朝と昼では病室の雰囲気ががらりと違うことも多い)、朝の早い時間は業務優先として小児科医師は診察、看護師はケアを優先的に行います。

午前中会議がなければ、看護師たちが業務をしている間に、患児の様子や点滴刺入部やラインの確認、病床配置の確認・整備、過不足物品の補充・補填(ほてん)を行います。

お昼休みは12時半から13時半まで、夕方落ち着いた時間に病棟内で勉強会を開催しました。勉強会のテーマは日々のケアで強化が必要なポイント(例えば新生児蘇生法の反復練習、感染予防対策で強化しなければならないポイントを振り返る、未熟児のポジショニングについて実践を交えながら、看護記録記入についてともに実践、など)を10分~20分ほどの短時間で、ほぼ毎日行っていました。

何度も同じテーマを実践することもありましたが、これら日々の繰り返しが非常に重要で、看護師たちのスキル向上には欠かせません。また、ヨーロッパからアドバイザーの小児科医師を招き、1週間の集中研修や、感染予防対策に関する研修、フォローアップ外来に関する研修など、場所を改めての研修会の運営実施も行いました。

会議はさまざまなレベルの会議がありますが、海外派遣スタッフがそろう会議は特に重要で、日々の重要事項の決定や各部署での情報を共有します。また年に2回、年間計画の立案と見直し(予算の見直しと修正)の大きな会議をすることもあり、その際は現場で普段使う医療機器や薬品、事務物品など、どのようなニーズがあり必要であるかを報告、次年度予算に組み込んでいくなど、プロジェクトの運営に関わる事項を決定することもありました。

夕方に仕事を終えると、宿舎に戻りスポーツやヨガ、ダンスで汗を流し、仲間たちと夕食をとり語らうことが多かったです。部屋にこもって残務を……したくなるのが日本人ですが、仲間たちにも諭され、オフはオフで休むことが翌日の仕事のパフォーマンスにつながるので、宿舎にはなるべく仕事を持ち込まず切り替えていました。

とくにカリブ海の国々はダンスの文化が華々しく、私も仕事後または休日にダンスにいそしむことが多く、熱中して大変リフレッシュしていました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

3階建ての一軒家に住み、1人1部屋の個室が与えられ、快適でした。トイレ・シャワーは共同でお湯は出ませんが、ほとんど暑いので問題ありません。あまりに暑くて眠れない時期は屋上で寝ることもありましたが、防蚊対策を考えるとやはり室内で蚊帳の中で寝ることが多かったです。

カリブ海のカラッとした気候は大変過ごしやすかったです。食事は宿舎スタッフが平日のお昼と夜ご飯を作ってくれて、ヨーロピアンな食事がとても美味しかったです。ハイチはフルーツや野菜が豊富で、ベジタリアン・メニューでもとてもバラエティ豊かでした。

職場には徒歩10分程度で行くことができ、限られた範囲と治安状況によりますが徒歩移動できる地区もありました。必要なものは大抵、スーパーで購入が可能でしたし、日常生活で困ることはほとんどありませんでした。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
感染予防研修を理論・実践で実施した 感染予防研修を理論・実践で実施した

新生児の感染症でたびたび問題となる、敗血症の感染制圧と予防に向けた取り組みです。2016年は清潔で設備の整った新棟に引越ししたのですが、敗血症が流行し入院患児の死亡率が上昇する事態が起こりました。

そこで、感染予防対策としてのさまざまな工夫(視覚的にわかりやすくエリア分け、手指衛生の徹底化、感染予防研修の開催(現地スタッフ全員参加が義務)、月一大掃除の徹底、母親や面会者への啓発活動、現地スタッフとのデータの共有)をこらしました。

大変厳しい感染管理対策を行った結果、1ヵ月後には半分の12%、2ヵ月後には10%まで死亡率を減らすことができました。この死亡率には、超未熟児や疾患に関するものや先天性異常など治療に関する不可抗力での死亡も含みますから、感染が原因または感染疑いが原因での死亡はだいぶ減らすことができたと評価しています。

フィールド・マネジメント研修を受けた仲間たち フィールド・マネジメント研修を受けた仲間たち

この業績は、現場で日々、新生児のために働く現地スタッフのおかげです。そして彼女たちを管理管轄してきた2人の看護師長の日々の努力の成果だと私は感じています。データ上だけでなく、新生児の死亡率が高いことでわれわれスタッフは胸を痛めますし仕事へのモチベーションが下がります。そのため、大変な努力と労力を要しましたが、このような業績をあげることで、多くの新生児を救うことができ、またスタッフのモチベーションを上げることにも成功しました。ハイチ人は、苦しい状況下での団結力がとても素晴らしいものがあります。彼らの底なる力を引き出すことができた経験だったなと思います。

それから、今回はMSFで3度目の活動参加でしたが、フィールド・マネジメント研修(上級者編)に応募し受講することができました。これは本来、初級者編を受講した人がステップアップで受講する研修ですが、マネジメント業務3度目の活動ということで初級者編を受講していなくても受講できました。

現地スタッフとともに、管理者としてあるべき姿、どのような考え方で日々の業務に取り組むべきか、改善点はどこか、リクルートの手順やフィードバック・評価の仕方など、実習を交えての講義は大変勉強になりました。私の部署からは看護師長2人も参加したため、彼女たちとともに現場管理の在り方、ハイチ人としての特徴や特色など話し合う機会に恵まれ、日々の活動では得られないものを得ることができてとてもよかったです。

Q今後の展望は?

現在、日本で政策提言や研究推進など、現場とは違った観点から国際医療協力に関わる仕事を学んでいます。私はMSFの看護師として現場で働くことに生きがいとやりがいを感じているので、たくさんの学びを得て、今後の活動に生かしていきたいと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

人生は一度きりなので、ぜひ挑戦してみてください!MSFは年齢制限はなく職種もさまざまです。

私はMSFの看護師として働くことを誇りに思っていますし、情熱が絶え間なくあふれ出ています。迷っているなら、ぜひ挑戦してみてください!私もまだまだ時期尚早かな……と思っていましたが、思い切ってチャレンジして、今ここにいます。

不採用の場合でも、どこを強化すればいいのか明確に伝えてくれるのがMSFです。必要なのはあなたのチャレンジする情熱です。ぜひ一緒にMSFで働きましょう。あなたの長所を生かせる場所が世界にあります。

菊地看護師のハイチでの活動は、いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ハイチ編)で紹介されています。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2015年3月~2015年11月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • 活動地域:ンデレ
  • ポジション:看護師
  • 派遣期間:2014年5月~2014年12月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • 活動地域:カボ
  • ポジション:看護師

活動ニュースを選ぶ