海外派遣スタッフ体験談

マネジメントや指導経験を活かしよりよいケアを

菊地 紘子

ポジション
正看護師
派遣国
中央アフリカ共和国
活動地域
カボ
派遣期間
2014年5月~2014年12月

Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?

私は小さい頃からアフリカで看護師として働くのが夢で、高校生の頃に国境なき医師団の存在を知り、いつか看護師として参加できたら、と憧れていました。青年海外協力隊の経験を経て、アフリカで看護師として働くことに生きがいを感じ、さらに医療を必要とする国や地域で働きたいと感じていました。

国境なき医師団は政治・宗教に関わらず、また紛争国にも果敢に介入し、本当に医療を必要とする人びとへ、中立の立場で無償の医療ケアを追行します。私にとって国境なき医師団はとても敷居が高かったのですが、説明会に参加する度に胸を熱くし、組織の一員として努めたいと強く思い、思い切って応募、参加に至りました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

日本のクリニックで常勤として働いていました。応募書類を提出してから3ヵ月で派遣が決まり、派遣前研修は休暇を取って参加しましたが、派遣が決まったことを機に、退職しました。

Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

大学を卒業してから国立国際医療研究センター小児科病棟で約4年間働きました。その後フランス語学留学や、未熟児室、産科病棟勤務を経て、青年海外協力隊に参加、今にいたります。

病棟でのプリセプター(新人看護師の教育・指導担当者)の経験やリーダー業務、青年海外協力隊での指導経験は今回の立場で役に立ちました。指導者的な立場や決断を迫られる場面が多く、そのときにこれらの指導経験が活かせました。それから、青年海外協力隊での現地の人びとと信頼関係を築くプロセスが随分活かせたと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
地域診療所にて、スタッフとともに 地域診療所にて、スタッフとともに

中央アフリカ共和国のカボ地域で、MSFが運営するプログラムの中央薬剤部門管理者と病院部門看護部の管理者というポジションを務めました。

このプログラムでは、1つの保健センター(病院)と3つの診療所を管轄しており、それらの施設に過不足なく薬剤配給できるよう管理・管轄し、ときにシステムが問題なく稼働しているかスーパーバイズすることが薬剤部門の責務です。

病院部門では総師長としてマネジメント業務を中心に担い、現場で起こりうるあらゆる問題や苦情の解決、人材管理、勤務表の調整、ベッドコントロール、病院部とプログラム本部のパイプ役など、多岐にわたる業務を担っていました。
プログラムのスタッフは、薬剤部門は本部に1人、病院部に4人、地域診療部に3人おり、病院部門は総看護師長が1人、各部門師長(有資格看護師)が4人、有資格看護師約8人、助産師3人、助手看護師約35人、産科助手約13人で、総勢60人以上がいました。
私は主に薬剤部門の5人を直接管轄し、病院部門は総看護師長と各部門師長の5人を直接管轄していました。総師長や各部門師長の抱える問題点はともに解決するよう努めていました。

新生児蘇生法のトレーニング 新生児蘇生法のトレーニング

また、私は病院と薬局部門の看護師を担いましたが、地域巡回部門の看護師が不在時には、地域の診療所に訪問しました。カボから車で2時間のチャド国境近くにある診療所には、チャドへ向かう国内避難民など、いつもたくさんの患者がいます。この道は武装勢力による襲撃も少なくありませんが、医療を必要とする住民のためにも、MSFが巡回診療を続けています。

中央アフリカでMSFの3つのプログラムを総合的に担当しているベナン人の助産師(写真左)が主催して、現地スタッフ(写真右と中央)に新生児蘇生法の講習会を開いた時は、円滑に実施できるよう私が調整役にまわりました。日本で新生児蘇生法の資格を持っていたので、実践指導(とくにこの分野は実施が大切です)もサポートしました。

はしかの予防接種キャンペーン はしかの予防接種キャンペーン

また、麻しん(はしか)撲滅のため、1歳から15歳までの子どもたちに予防接種キャンペーンも行いました。任務は私たち通常のチームとは別に予防接種特別チームが担っていましたが、実施日が日曜日のため通常業務がお休みでスタッフが足りず、人手不足解消のために私たちもキャンペーンに参加しました。

1日に1000人以上の子どもたちに予防接種しなければならないため、かなりのスピードと確かな技術が求められます。スタッフは交代しながら、パフォーマンスを落とさず取り組みました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?

勤務時間は月曜日から金曜日までの朝7時30分~夕方5時30分頃、土曜日は朝7時30分~12時30分頃、日曜・祝日はお休みです。

朝7時30分から会議または勉強会、8時から回診、9時以降は総師長とともに病院内でのあらゆる問題解決に努め調整します。その他、不足物品や薬品の調達、搬送患者の調整、勤務表不具合の調節、上司との連絡相談などを行います。

病院業務が一段落したら薬剤部門の本部に戻り、薬剤の配給準備、必要時には首都やほかのプログラムと連絡を取り合い、薬剤の確保に努めます。また各種書類の更新、薬剤管理システムの更新を行います。

午後1時前後に昼休みをとり、午後はまた病棟ラウンド実施、トラブルがなければ薬剤部門で事務作業を進めます。毎月初めには薬局管理レポートを首都とヨーロッパの本部に提出する義務があり、各薬局に配給薬剤の準備もあります。夕方7時以降まで働いていることも多々あり、日曜・祝日も薬剤やワクチンの配送があれば勤務となっていました。

土曜の夜はプロジェクターを利用した映画鑑賞、日曜日はサイクリングやジョギング、バドミントン、ピンポン、ヨガなど、体を動かして気分転換に努めました。町の市場や散歩、現地の子どもたちと遊ぶのも、心の充電になります。チーム仲間と仕事以外のおしゃべりも、とても気分転換になりました。

休暇は隣国カメルーンにて、海辺でのんびりしました。余暇を充実させることは仕事のパフォーマンスに直結しますので、気分転換できる本や映画を持参するとよいと思います。

Q現地での住居環境についておしえてください。

MSFの敷地内に住居エリアがあり、基本的に個室が与えられました。常勤スタッフは8人程度。シャワー、トイレ、洗面所、キッチン、サロンは共有です。基地内ではインターネットアクセスが可能ですが、状況次第で変わります。電話網も弱く通信手段は難を極めました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
帝王切開で無事に生まれた赤ちゃん 帝王切開で無事に生まれた赤ちゃん

国際色豊かな仲間と協力して働けたことです。彼らは、それぞれ自分の意見や価値観を持っています。経験はさまざまでしたが、仕事面では誰もが厳しく、会議や業務の中で意見の衝突もありました。そういう時は、ともに話し合い、必ず解決策を見出してきました。フランス語での会議や報告書の提出で、私の語学力もとても鍛えられました。

地域の診療所から搬送された妊婦さんが、緊急帝王切開にて無事に出産し、自宅に戻った例が多数ありました。助産師不足のため私がベビーキャッチに入ることもありました。

帝王切開で生まれた赤ちゃんは、必要な場合は蘇生まで手術室で行い、別棟の産科に抱っこで搬送します。身体計測などルーチンケアは産科で行います。無事に生まれると、本当に良かった、と感じます。今まで母子保健分野で働いてきた経験がたくさん活かせました。

MSFの医療ケアは、搬送も帝王切開も入院も食事も、すべて無料です。そのおかげで、今日もたくさんの人びとの命が助けられています。そんな現場で働けることは、本当にやりがいがあり、看護師として誇りに思います。
一方で、自分の努力に反して理不尽な結果となったときはつらかったです。予想外の消費による薬剤の配給不足や、地方から搬送され治療をうけた患者さんが自宅に帰る際、治安や交通網の不安定な状況から逆搬送が突如として不可能になることもあります。

帝王切開準備中の海外派遣スタッフと現地看護助手 帝王切開準備中の海外派遣スタッフと現地看護助手

「明日の朝、ご自宅へお送りしますよ」とお話した患者さんと家族に、翌朝、「すみませんが今日は治安上の問題で搬送できません」ということが多々あり、落胆する患者さんたちを見て私も心が沈みました。

そうした理不尽な状況下で、いかに人びとの苦情や不満、自分のストレスや葛藤と向き合い、責任者として冷静に対処法・解決策を考え対応していくかが非常に大きなチャレンジでした。

このように大きな施設で、またプログラムの管理者・責任者を務めるのは私にとって初めての機会でしたし、自分の力量不足ではないかと悩むこともありました。しかし、抱え込みすぎず、チーム仲間と相談することがいつでも突破口となり、助けられていました。

Q今後の展望は?

次の活動参加を希望しています。MSFの看護師として働くことにとても生きがいを感じています。初回参加の反省点を改善し、よりよい医療ケアやシステム作りに努めて参りたいと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

看護師として国境なき医師団で働くためには、マネジメント経験や、いろいろな領域の経験が活かせるので、たくさんの経験を積むに越したことはありません。しかし、モチベーションも大事です。

国境なき医師団に参加したい!と思ったタイミングで、一度トライすることをお薦めします。必ず、自分の長所を生かせる仕事があります。MSFの活動地があなたを待っています。

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