ノーベル平和賞

ノーベル平和賞受賞の記念スピーチをする
ジェイムズ・オルビンスキ会長(1999年)

独立・中立・公平の原則とボランティア精神に深く基づく人道援助活動、世界中でこのような活動を行う場を作り出すこと、そして、人間の尊厳を脅かすものには拒否の態度を貫き、言葉で証言すること。

国境なき医師団(MSF)は、こうした活動を1971年の設立以来続けてきたことが認められ、1999年にノーベル平和賞を受賞致しました。(受賞理由につきましては、ノーベル賞公式サイトをご覧ください)

下記に受賞記念スピーチの全文・日本語訳を掲載致しました。長文ではありますが、MSFについてより良くご理解いただくための一助となることを願っております。

国境なき医師団日本事務局

ノーベル平和賞受賞記念スピーチ

ノーベル賞授賞式の様子(1999年)

国王・王妃両陛下、殿下、ノーベル賞委員会メンバーの皆様、ご来賓の皆様。

チェチェン、そしてグロズヌイの人びとは、今日まで3ヵ月以上もロシア軍の無差別爆撃を耐え忍んでいます。彼らにとって人道援助は事実上ありません。グロズヌイを出ることができないのは病人や高齢者、弱った人びとなのです。今日、皆様が私たちにくださる栄誉ある賞は、危機的な状況に置かれた人びとの尊厳を尊重するものです。そして皆様は人間の尊厳に対して行う私たちの個々の対応を評価してくださったのです。私は今日ここに声を大にして訴えます。ロシア大使閣下に、そして大使閣下を通じてエリツィン大統領に、無防備な市民を襲うチェチェンでの爆撃を止めるようにと。紛争や戦争が国家の問題だとしても、人道的な法を侵すこと、戦争のもたらす罪、人間性に背いた行為は、この社会に生きる私たちすべてを苦しめるものなのです。

人道援助とは、尋常ではない地域に“尋常な空間”を築くこと

ケニア・ナイロビのストリートチルドレン(2002年)

まずこう申し上げたいのです。ノーベル賞委員会から国境なき医師団に贈られたこの素晴しい栄誉は、心から感謝しつつお受けいたしますと。しかし、社会から締め出された人びとの尊厳が日々冒されているということを考えると、やるせない気持ちにもなるのです。これは危険な状況に置かれているにもかかわらず忘れられている人びとのことで、例えばストリートチルドレンがそうですが、社会的、経済的秩序の中に「含まれた」人びとが捨てたものを食べて生きねばならず、そのために毎時間身を削りながら闘っています。またヨーロッパに生活しながら滞在許可証を持てずにいる人びとも同様です。政治参加は拒否され、国外追放につながることを恐れて医療処置すらも受けられずにいるのです。

私たちは危機的な状況にある人びとを助けるため行動します。ですがこの行動に満足しているわけではありません。困っている人びとに医療援助を行うことは、人間としての彼らの存在を脅かすものから彼らを守る試みなのです。人道的な活動は単なる寄付や慈善事業以上のものです。尋常な状態ではない地域に尋常な空間を築くことを意図しています。物質的に援助する以上に、一人ひとりが人間としての権利や尊厳を取り戻せることを求めているのです。私たちは独立したボランティア組織として、医療援助を必要としている人びとに直接施療する立場をとっています。しかし私たちは真空空間で活動しているわけでもなければ、風に向かって語っているのでもありません。支援したい、変化を起こしたい、不正を暴きたいというはっきりした意志をもって行動しているのです。私たちの行動、声は憤りを示す行為であり、直接的にせよ間接的にせよ他人に対する攻撃は認めないという拒否の態度なのです。

人間としての尊厳を脅かすことには“拒否”を貫く

ノーベル平和賞の賞状

皆様が今日私たちにくださる名誉ある賞ですが、世界の様々な状況下で闘っている数多くの組織や個人のうち、どなたが受けられてもおかしくなかったでしょう。しかし皆様は国境なき医師団を選び、認めてくださったのです。国境なき医師団は1971年に正式に設立されました。自らをすぐに支援が行える存在にしようと決心したフランス人医師やジャーナリストのグループとしてスタートしました。人々の尊厳を直接脅かすことならば、場合によっては国家が行うことでも拒否するつもりでした。沈黙は長い間中立と混同してとらえられており、人道的な活動の必要条件とされてきましたが、国境なき医師団は活動当初からこの前提に異を唱えて設立されたのです。言葉が常に命を救えるわけではありませんが、沈黙は確かに人を殺し得ます。28年間、私たちはこの拒否の倫理をしっかりと守り、変えずにやってきました。国境なき医師団のアイデンティティーは完全ではないながらも活動を通じながら闘っています。また、何百万人もの方々が金銭面や精神面で国境なき医師団というプロジェクトを支援してくださっています。この受賞の栄誉は、実際には脆弱な存在である国境なき医師団に力を与えるため闘ってきた、そして現在闘っている全ての方々と分かち合いたいと思います。