海外派遣スタッフ体験談

長期プログラムのロジスティックを再構築

萩原健

ポジション
ロジスティシャン
派遣国
ケニア
活動地域
ナイロビ(マタレ地区)
派遣期間
2008年6月~2008年12月

QなぜMSFの海外派遣に参加したのですか?

学生時代から海外における人道援助に強い関心があり、MSFの活動も知っていました。15年ほど社会人としての経験を積み、国際政治・経済事情の現実を知れば知るほど、その不可解さ、冷徹さと理不尽さに限界を感じざるを得ませんでした。「理想を具現化しようとする」試みを「青臭い」と一蹴してしまう風潮が蔓延る中で、当事者として関わっていきたいと思い、MSFの活動に参加しました。

Q今までどのような仕事をしていたのですか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

12年間、石油開発業の事務方ビジネスマンとして、中東産油国との契約交渉・折衝、現場操業のコーディネーション、プロジェクト予算・管理等、1年間半、食品会社海外操業マネージャーとして、海外現地契約工場操業管理とサプライチェーンのフォローアップをしました。過去の経験を活かせるか否かは、自分の心構え、捉え方次第だと考えます。私の場合、主として中東・アラブ地域を主として活動してきました。ビジネスの世界と人道援助の世界は、目的を異にするものですが、コーディネーション能力、管理能力はいずれの世界においても必要とされるもので、特に、多国籍の人々で構成される組織で働いた経験、またアラブ地域を主とする多様な企業と取引をした経験がミッションに活かせたと思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

当該プロジェクトは、ナイロビ市内最大のスラム「マタレ」における、HIV/TB/MDR(エイズ/結核/多剤耐性結核)プログラム及びそれに関連する、家族計画/母子感染予防(PMTCT)などです。また2007年末大統領選後の混乱と時を同じくして、性別およびジェンダーに基づいた暴力(SGBV)に対する活動も始まりました。MSFでは長期プロジェクトの部類に入り、10年近く続くプロジェクトです。

具体的には、一般HIV/TB患者を対象にした「ブルー・ハウス」及びMDR患者を対象にした「ブルー・ハウス2」と呼ばれる2箇所の診療所を中心として運営されています。毎日訪れる100人程の患者のケアとスラム内から重症患者の診療所または提携病院への搬送、SGBVに関してはスラム内のコミュニティーとソーシャルワーカーとのネットワークを下に、心理療法士が問題となる家庭へ訪問、必要に応じ患者保護のために、現地病院、関係当局との交渉・折衝を行っています。

ロジスティシャンとしての業務は、一言でいえば医療関係者の活動のサポート全てです。都市という性格上、独自の専門的スタッフを持ち業務を遂行するというよりも、多くの業者と接触、ナイロビ・コーディネーション・チームとの連携の下、業務を遂行するケースが多いと言えます。自ら専門性のあるスタッフを有し、完結できるのであれば、信頼性・納期といった観点から比較的管理し易いのですが、業者の信用調査や管理、コーディネーション・チームとの調整は、逆に難しさを生んでいたというのも事実です。

緊急援助を得意とするMSFですが、一方で中・長期的なプロジェクトとなると「弱い」部分があるのも事実で、特に、業者、賃貸物件などの契約、法律的な観点からの自己防衛策が脆弱でした。このため、プロジェクト責任者への進言をするとともに、具体的対応策を案出、実行しました。

長年続いてきたプロジェクトでありながら、ロジスティックスの基本的なベースは昔のままで、現在のプロジェクトの規模に即しておらず、先ずは一からロジスッティックスのベース再構築から着手しました。具体的には、物資調達・供給、車輌手配、衛生管理に関わる手順の構築と実施です。陳情、苦情、スタッフ間の諍いの処理は毎日の日課のようなもので、冷静に、微笑みながらも、厳しさを持って対処していました。時として、医療関係者との間で議論となることもありますが、それは、お互いが、それぞれの責務を、強いプロフェッショナリズムを持って遂行しようとする意識があるからこそ起こりうることで、自然なことだと思って、粘り強く理解を求めました。

Q週末や休暇はどのように過ごしましたか?

平日は診療所での活動が行われていることから、大掛かりな補修・修繕は週末にせざるを得ないことが多々あり、また、平日は陳情・苦情処理に時間をとられ、手順の策定など、休日にじっくり時間をとって行っていました。休暇は6ヶ月の間では消化することが出来ず、ミッション最終段階で、後任者への引継ぎを終わらせた上でとり、現地活動責任者の了解の下、エジプトで骨を休めました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

安全上の理由から、マタレ・スラムから車で15分ほど離れたところにコンパウンド(宿舎)があり、私を入れて4人が共同生活をしていました。共同温水シャワーもあり、個室も与えられ、森に囲まれた地区であったので、毎朝猿やリスが出没するなど、非常にリラックスのできる環境でした。

Q良かったこと・辛かったこと

それぞれ、考え方、関心が違い、お互いの意見がぶつかったとしても、根底にある気持ちとしては、共有できた、ということは良かったと思います。辛かったことは特にありませんでした。

Q派遣期間を終えて帰国後は?

次のミッションを待ちます。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

人それぞれ目的・理由は違って良いのですが、何か一貫性のあるものとそれを裏付けるものがないと、現地に出向いて混成チームの中で活動、コミュニケーションをとる時に苦労するかもしれません。特にロジスティシャンの場合、何らかの技術的専門性がある方が良いのですが、私のように、いわゆる事務畑出身で、技術的専門性がない場合、それを補完できる何かが必要とされるかもしれません。

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