海外派遣スタッフ体験談
プロとして仕事を遂行し、協力し合う
園田 亜矢
- ポジション
- ヘルスプロモーター
- 派遣国
- イラク
- 活動地域
- ナジャフおよび周辺南部州
- 派遣期間
- 2014年2月~2014年11月

- Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?
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これまで国連機関、二国間援助機関、アメリカと日本のNGOの仕事に9年従事しました。さまざまな援助機関を経験した後、MSFが堅持する真の「非政府組織(NGO)」の存在の価値を感じました。寄付を市民社会から募って、政治的圧力に左右されることなく、自分たちが必要だと考える援助を貫く姿勢に憧れました。
また過去の海外駐在時に出会ったMSFのスタッフが誇りを持って仕事に従事している姿が印象的でした。自分もこのようなNGOの一員として働きたいと考え、応募しました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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海外駐在や英語での同様分野の仕事経験はあったので、特別な準備はしませんでした。
- Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?
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アメリカでの開発・緊急支援の修士課程を経て、同分野の仕事をインド、イエメン、バングラデシュ、スリランカでしてきました。大学院で学んだ知識に加え、国連児童基金(UNICEF)で習得した母子保健や保健衛生の実践的知識は役立ちました。
また、それまでの海外駐在を通して学んだ、現地の人びとと仕事をしていく姿勢(自分の基準を押し付けるのではなく、互いの知恵を出し合って、一緒に道筋を決めていく)は今回の派遣でも活かせたと感じています。
他団体でスリランカに駐在した時は現地責任者を務めたので、その際のプロジェクトマネジメント、チームマネジメントの経験は、活動を効率よく進め、スタッフと効果的に仕事をしていく際に役立ちました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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正しい手洗い方法について説明する公衆衛生課スタッフ
2つのプログラムを担当しました。1つ目はイラク保健省管轄下の公共病院にて、乳幼児死亡率低下を目指す「キャパシティ強化プログラム」、2つ目は6月に始まったイラクでの紛争に端を発する「国内避難民援助プログラム」でした。
前者では、MSFの小児科と産科チームの活動の側面支援をすべく、感染予防のためのトレーニングや啓発キャンペーンを、病院の公衆衛生課スタッフが自ら実施していけるようにキャパシティ強化を行いました。
例えば効果的なポスターの作り方、トレーニングの実施方法、プレゼンテーションの仕方等を共に考え、実践しました。また患者さんへ向けて、母乳育児促進のためのキャンペーンも病棟で行いました。
7ヵ月程の活動の結果、公衆衛生課のスタッフが大小さまざまなトレーニングの意義を理解し、病院内のトレーニングを以前よりもずっと積極的に計画・実施してくれるようになりました。
避難民援助プログラムでは、MSFは移動診療、心理ケアの活動を行っているのですが、それらを促進するために、保健衛生知識を広める活動を行いました。
雇用した避難民にトレーニングを行う様子
ナジャフ周辺に生活している国内避難民の中から7人を雇用し、トレーニングを行い、彼らが避難民の家を一軒一軒回って、病気予防のための知識(手洗い励行、下痢予防のための知識等)を説明していきました。3週間で約1万3000人の避難民にこのメッセージを広めました。
家を回るスタッフ自身が避難民で、ほかの避難民と同じ言語を話すため、避難民世帯は訪問を快く受け入れてくれ、メッセージも的確に理解してもらうことができました。
手洗いは最も重要な病気予防策の1つですが、正しい手洗い方法を丁寧にデモンストレーションで説明した結果、特に子どもたちはよく覚えてくれ、訪れる度に自慢げにその手洗いの仕方を披露してくれたりしました。
併せて、石けんや歯ブラシといった「衛生キット」や、気温がぐっと下がる冬に先駆け、毛布を配布しました。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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イスラム文化なので、金曜と土曜が週末で、平日は8時から17時までが勤務時間でした。キャパシティ強化プログラムでは、午前中は病院で働き、午後はMSFの事務所で仕事をするのが典型的な1日でした。
避難民援助プログラムでは、アセスメント、ニーズ把握、配布活動、健康教育活動の監督のため、少なくとも週3日は現場に出ていました。週末は、仕事がない限り、一緒に住むMSFの仲間とご飯を作ったり、映画を見たりするなどして、リラックスするよう心掛けました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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2階建ての一軒家に、常時10人程度のMSFスタッフが共同生活をしていました。それぞれ個人部屋を持つことができました。夏は50度近くまで気温が上がりますが、エアコンもジェネレーターもあり、毎日シャワーを浴びられるほどの水量もあり、インターネットも家で接続できたので、恵まれた住環境でした。
治安上、仕事と食料買い出し以外はほとんど外出できず、外に出ても移動は車のみでしたので、仲間と一緒に家の中でエクササイズなどをしてストレスを発散していました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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国内避難民に毛布を配布
2014年6月にイラクでの内紛が始まり、人びとが国内避難民となり始めて間もなく、MSFがアセスメントを始めました。活動の方向性を決めていくプロセスに自分も参加し、改めてMSFの機動力を感じました。
私は健康教育活動を担当しましたが、移動診療チーム、心理ケアチームも並行して活動を行いました。ロジスティシャンはそれぞれのチームが遅滞なく活動を行なえるようサポートを行い(車両手配、薬や配布キットの購入等)、活動責任者はマネジメントと安全確保に奔走するなど、それぞれがプロフェッショナルとして担当分野の仕事を遂行し、かつ、協力し合うという仕事のやり方は、自分がこれまで経験した中で最も効率的なもので、MSFで働くことに喜びを感じました。
- Q今後の展望は?
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1~2ヵ月は日本で疲れを癒し、その後、別の活動に参加して、MSFでの経験を積みたいです。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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MSFのチームの一員として働くとき、自分の考えを述べることができることは大変重要です。意見を求められたり、他人の意見に疑問を投げかけたりすることの少ない日本社会ですが、MSFでは自分の意見を言えてこそ一人前、という文化がある気がします。
そのために、自分の専門分野を極める努力をする、世界情勢を海外のさまざまなメディアから学ぶ、という姿勢を忘れないことが大切だと思います。