海外派遣スタッフ体験談

海外派遣で実りある経験を

山梨 啓友

ポジション
内科医
派遣国
パプアニューギニア
活動地域
ケレマ
派遣期間
2016年11月~2017年2月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

ネパールにトレッキングに行ったことがきっかけで、以前から海外での医療活動に参加してみたいと思っていました。海外の多様な拠点で地域に根ざした活動を行っていると思いましたので、参加を決めました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?

幅広い診療が必要になると考えていましたので、総合診療のスキルアップと熱帯感染症を含む感染症診療のトレーニングを行いました。現地で初めて診断治療を行うケースもありましたが、事前にある程度の準備をしておく必要はあると感じました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?

国内での家庭医の研修を終えて専門医資格を取得しました。その後、研究課程に進み、疫学研究を行っております。幅の広い診療と、状況に応じた対応を常に考える診療スタイルは日本でも海外でも同様に重要だと思いました。

また、プロジェクト全体を見通して、評価や次の方針を考えるために客観データを扱う経験は有効です。一方、現地の医療現場でしかできないことですが、現場に合わせた診療を行うための研究が必要であるとも感じました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
リンパ節結核の検査のための穿刺を行っているところ リンパ節結核の検査のための穿刺を行っているところ

結核は世界でも主要な感染症のひとつであり、パプアニューギニアの死因の第2位を占めます(世界保健機関<WHO>)。結核の高まん延地域であるパプアニューギニアの郊外地域(移動手段もボートしかないようなジャングルのような地域)の2次病院、ケレマ総合病院の結核診療部門の医師として外来診療、入院診療などを行いました。

ケレマの位置する湾岸州は新規患者も多いのですが、結核治療薬に対する耐性がある薬剤耐性結核の患者も多くいます。

MSFは、2014年5月からこの湾岸州において、州政府と提携してケレマ総合病院を拠点とした結核対策プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトの目的は、湾岸州で既に展開されていた国の結核対策を強化し、結核罹患率および死亡率を低減させることです。

結核の入院ベッドは18床あり、感染管理のため隔離室で患者の診療を行っています。結核の治療期間は通常6ヵ月程ですが、中には2年以上治療が必要な患者もいます。このため、経済的な問題や地理的な問題で通院できない患者のために病院外診療活動も行っています。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
時間ができると海岸を散歩したり、海に飛び込んだり 時間ができると海岸を散歩したり、海に飛び込んだり

1日の流れは、午前8時から病棟回診をして検査・治療を行います。その後、外来へ移動して結核の疑いのある患者や継続治療の患者の診察を行います。医師は1人ですが、ヘルス・エクステンション・オフィサーと呼ばれる医療者がいるため、彼らと協力して診療を行います。

また、緊急で一般内科病棟から患者の相談を受けたり、内科や婦人科、分娩後の小児の患者についてコンサルテーションを受けたりすることもあります。

基本手技である医療行為も病棟スタッフに指導しながら行うため、慌ただしく時間が過ぎていきます。病棟の緊急対応が必要な場合もありますが、安全管理上、夕方以降は宿舎の外に出られないため、電話や無線で状況判断をして対応をしていました。

夜や週末は海岸まで同僚や犬と一緒に散歩に行き、そのまま海で泳いだり、釣りをしたりして過ごすこともありました。クリスマスや新年は皆でお祝いをして、楽しく過ごしました。

Q現地での住居環境について教えてください。

スタッフの宿舎は、個室と共同のキッチン、高床になっている居間などがあり、不自由なく過ごせました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
美しいケレマの夕焼け 美しいケレマの夕焼け

通訳を介した診療は、当初は勝手がわからなかったのですが、次第に慣れました。現地語を交えることで通訳とも呼吸が合うようになり、言葉が通じなくて困ることがほとんどありませんでした。

ただ、時には通訳でもわからない部族語を話す高齢患者(※)が来院し、診療ができないことがありました。この場合は言葉がわかるスタッフを探して通訳してもらうなどの対応をしました。

しかし、ある患者とその家族の診療の際に、言葉は通じているのですが、診療が思うように進まないことがありました。現地の方の病気に対する考え方の違い(病気が他人の呪いによって起こる災いであるという考え方や、結核やHIVなどの病気に対する偏見)が根底にあり、西洋医学では適切とされている診療を受け入れられないためと考えられました。こうした背景を考慮して診療を行っていく方法を磨かなければならないと感じました。

  • パプアニューギニアでは800種以上の言語が使われているとみられている。
Q今後の展望は?

これまでのバックグラウンドを活かして、疫学研究で貢献することや、今回の活動で経験が不足していると感じた診療分野を磨いて他のプロジェクトにも参加してみたいと思います。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

実りのある経験ができると思います。ぜひ参加してみてください。

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