海外派遣スタッフ体験談
過酷な環境に生きる遊牧民に緊急援助
萩原 健
- ポジション
- プログラム責任者
- 派遣国
- エチオピア
- 活動地域
- アファール州テル地区
- 派遣期間
- 2013年4月~2013年8月

- QMSFの海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
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今までの自分の経験や能力を、少しでも役に立てる環境があれば何処へでも、という思いで活動を続けています。2013年3月中旬から関係者との協議を始め、下旬に決定しました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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先の派遣活動が2月に終わったので、1ヵ月ほどを骨休みに使いました。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?
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MSFの医療援助活動は、派遣回数を積み重ねても、その都度新たなことを学びます。今回は、4ヵ月間、緊急介入の開始から終了までを通して、責任者として従事しました。限られた時間と多くの制約の中で目的を達成するには、チームのまとまりが重要な要素となります。
MSFが認知されていない地域では、MSFの活動に対する現地の地域社会の理解が不可欠です。遊牧民が多数を占める地域では、非定住型の人びとの動きに合わせた柔軟性が必要で、日々変化する現地の状況を理解するには地域社会との強く深く広いネットワークが非常に重要です。また通信インフラが無い状況で、地域社会に正しい情報をどのように正しく伝えるか、というのは大きな課題です。
過去の異なる活動で得た経験を"大胆に細心に"存分なく生かせたと思います。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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インフラや医療から孤立したテル地区
現場は、エリトリアとジブチと国境を接するアファール州の、「ゾーン4」と呼ばれるテル地区。雨季の遅れなど複合的な要因により重度の急性栄養失調状態が拡大しているとの判断に基づき、緊急介入しました。住民の大半が半遊牧生活を営み、氏族制、慣習法が依然人びとの生活に大きく影響力を持つ地域。電気、水道、通信、ガス、道路など近代的インフラ施設は皆無に等しく、医療アクセスという観点からも、現地住民が完全に孤立した状況でした。それに加え、日中気温は摂氏50度を超え、砂嵐、サソリ、毒グモなど過酷な自然環境の中での活動を強いられました。
テル地区の中心にMSFチームの拠点と栄養治療センターを設置し、テル地区の12地域行政区全てをカバーするべく移動巡回診療を実施、中度栄養失調の患者に対する栄養補給を含めた包括的栄養失調改善プログラムを実施しました。
チームは、私を含め5名の海外派遣スタッフ、首都から派遣された約30名のスタッフ、現地で採用された50名のスタッフ、12各区の中から選ばれた協力者(Health Extension Workers)50名といった構成でした。
地域住民に栄養治療を提供
栄養治療センターに運ばれた患者の多くは肺炎や結核などの合併症を伴う急性栄養失調患者でした。栄養失調の原因を一言で断定的に述べることはできません。水不足、家畜のえさとなる牧草の枯渇、家畜から得られる乳産物の欠如、抵抗力低下に伴う感染症の広がり、基礎医療制度の欠如、栄養失調そのものに対する認識の低さ、等々に加え、氏族を共同体の基礎とする社会の中での政治的な要素、連邦政府や州政府との政治的関係などが複雑に絡み合っています。
正味3ヵ月の医療活動の中で、726人の栄養失調児をプログラムに受け入れるとともに、栄養治療センターで134人の重度急性栄養失調患者に治療を提供し、中度栄養失調の妊婦及び授乳期にある母親を含む約1000人に援助を提供しました。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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緊急ミッションだったので、日々変化する状況に対応する必要があり、基本的に休みはありませんでした。朝から晩まで働きづめであったと思います。少しでも休みの機会をとれるように努力しましたが、既述の通り、あまりの暑さに日中に休憩をとることは不可能でした。夜間は気温が若干下がるので、睡眠だけは十分とるようにしていました(砂嵐がない時に限りますが…)。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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現地保健省の管理下にある建物を事務所として使い、同じ敷地内に仮設のテント、台所、トイレ、浴室を設置し、住居としていました。スタッフの水と食料の確保には苦労しました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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激しい砂嵐に見舞われることも
あらゆる面で、非常に良い経験になりました。今回の介入は、何十万、何百万という避難民や被災者を対象にした大規模な緊急介入ではなく、メディアやほかの人道援助団体の注目や関心が注がれていた場所でもありません。しかしそこには、さまざまな理由で"顧みられていない人びと"がいて、生きようと奮闘している。そのような現場に足を踏み入れ、医療を直接提供するということは、MSFの基本的な理念とその重要性を思い起こさせてくれました。
テル地区は、社会的環境、政治的・地理的環境、自然環境といったいろいろな意味で孤立した環境であったといえます。遊牧を主体にした生活故か、疫学的な統計はないに等しく、実態が知られていませんでした。「遊牧する人びとに継続的な医療を提供しようとしても、目覚しい成果は期待できない」という話を耳にしたことがあります。公的私的問わず、どんな国際医療・人道援助団体も現場に足を踏み入れて活動をするのを躊躇するような地区でした。そんな状況の中で、MSFが介入し、結果を出し、援助活動を完遂することが出来たのは、過酷で困難な環境でも、士気を失わず活動を続けたスタッフの強い献身的な姿勢によるものだったと思います。
- Q今後の展望は?(次回の派遣を考えている方は、それまでにしたいこと、新たな挑戦など)
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次の活動の機会を待ちます。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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国際医療援助、人道援助といってもいろいろなアプローチがあります。どのようなアプローチを求めるのかは自分次第ですが、MSFの活動は多様性を持っていますから、その中で求めるものが見つけられるかもしれません。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2012年7月~2013年2月
- 派遣国:イラク
- プログラム地域:ナジャフ
- ポジション:プログラム責任者
- 派遣期間:2012年4月~2012年7月
- 派遣国:シリア
- プログラム地域:—
- ポジション:プログラム責任者
- 派遣期間:2011年8月~2012年2月
- 派遣国:イエメン
- プログラム地域:アデン
- ポジション:プログラム責任者
- 派遣期間:2010年12月~2011年6月
- 派遣国:南スーダン
- プログラム地域:ラジャ
- ポジション:プログラム責任者
- 派遣期間:2009年11月~2010年9月
- 派遣国:インド
- プログラム地域:ジャールカンド州
- ポジション:ロジスティシャン
- 派遣期間:2009年10月~2009年10月
- 派遣国:インドネシア
- プログラム地域:ジャカルタ
- ポジション:ロジスティシャン
- 派遣期間:2009年1月~2009年9月
- 派遣国:イエメン
- プログラム地域:サダア州タル・アール
- ポジション:ロジスティシャン/アドミニストレーター
- 派遣期間:2008年6月~2008年12月
- 派遣国:ケニア
- プログラム地域:ナイロビ
- ポジション:ロジスティシャン