汚水とゴミに立ち向かう住民パワーとテクノロジー ジンバブエの人びとの飽くなき闘い

2020年03月11日掲載

ジンバブエの首都ハラレでは、コレラと腸チフスがたびたび流行しており、喫緊の健康問題となっている。市郊外の水道インフラは不安定で、下水管や汲み取り式トイレの漏洩と、廃棄物処理の不備によって、地下水が汚染されている。国境なき医師団(MSF)は、革新的な掘削技術を導入し、地元住民が給水所を自ら管理できるよう効果的な環境保健のツールを開発した。 

ハラレ都心部の南に位置するストーンリッジの非公式居住地。女性たちが給水所で水を汲んでいる。MSFは、太陽光発電を活用して井戸を掘り、地元の共同保健クラブに向けて研修を実施した。現在は、このクラブが給水所の保全にあたっている。© Samuel Sieber/MSFハラレ都心部の南に位置するストーンリッジの非公式居住地。女性たちが給水所で水を汲んでいる。MSFは、太陽光発電を活用して井戸を掘り、地元の共同保健クラブに向けて研修を実施した。現在は、このクラブが給水所の保全にあたっている。© Samuel Sieber/MSF

汚水とゴミに悩まされる住民

狭く、ほのかに照らされたエントランス。その先には、老朽化した集合住宅の敷地が10余り。ここはハラレ都心部の南に位置するムバレ地区だ。雨風に浸食された建物の壁面は、衛星アンテナと洗濯物であふれている。子どもたちは小さな集団に分かれ、中庭の水たまりのそばで遊んでいる。建物の前に置かれたごみ箱は、家庭ごみとプラスチックごみで一杯だ。

これらの古びた建物は、もともと、ジンバブエ独立前に、ハラレ都心部で働く単身男性移民のために建てられたものだ。現在は2万人以上がこの集合住宅に入居し、4家族がワンルームで共同生活を送っているケースすらある。清潔な水が供給されにくく、下水管が詰まったり漏れたりしている上、公営のごみ収集も事実上行われていない。それゆえ、この都心近郊の人口密集エリアでは、コレラや腸チフスといった汚染された水による感染症がたびたび流行してきた。 

以前から、ムバレをはじめとするハラレ近郊の人口密集エリアは、ごみ処理にまつわる問題を指摘されてきた。家庭ごみは浅層地下水を汚染し、下痢性疾患の流行を引き起こすことが分かっている。© Samuel Sieber/MSF以前から、ムバレをはじめとするハラレ近郊の人口密集エリアは、ごみ処理にまつわる問題を指摘されてきた。家庭ごみは浅層地下水を汚染し、下痢性疾患の流行を引き起こすことが分かっている。© Samuel Sieber/MSF

「下水やごみのせいで、私たちの健康が危ないことは分かっています」。そう語るのは、3児の母であるジェーン・マサンガさん。住まいはごみ山のすぐそばだ。「表通りのそばに手押しポンプの井戸があるのですが、水を手に入れるにはそこしかなくて。家庭ごみも、きちんと処理し再利用する手立てがありません」 

新テクノロジーによる井戸づくり

12月のある曇り空の朝、1台の掘削車のごう音がムバレの集合住宅のあいだに響き渡った。正面エントランスのそばで、MSFが地元の掘削業者と協力して、新しい井戸を掘っているのだ。水道管の延びる先には、給水所の蛇口がある。

MSFは、革新的な修復・掘削技術を用いて、ジンバブエ国内70カ所余りに新しい井戸をもたらした。© Samuel Sieber/MSFMSFは、革新的な修復・掘削技術を用いて、ジンバブエ国内70カ所余りに新しい井戸をもたらした。© Samuel Sieber/MSF

ハラレの広域環境保健拠点でMSFコーディネーターを務めるダニシュ・マリクは語る。「我々は地下80メートルまで掘り込んでいます。ゴミ・下水・浅層地下水による汚染を防ぐために、数年を費やして開発した衛生用の汚水遮断シートを取り付けています」

MSFは総合的な環境保健のツールを開発してきた。この新しい掘削技術はその一部だ。条件が許せば、イチから新しく井戸を掘るのではなく、既存の井戸を特別機材で修復する。多くの場合、修復の方が費用対効果は高い。ムバレの事例のように新しい井戸を掘る際は、最適な採掘場所を選び出すために、電磁的な位置特定テクノロジーが活用されている。こうしたツールによって、2016年以降、50の給水所が修復され、12基の井戸が新しく生まれた。

ムバレの集合住宅地区では、2万人余りの飲み水がこの手押しポンプの井戸1基にかかっている。MSFはポンプと給水栓のついた新しい井戸を掘削するともに、地元の共同保健クラブに向けて、給水所管理と疫学調査についての研修を実施している。©Samuel Sieber/MSFムバレの集合住宅地区では、2万人余りの飲み水がこの手押しポンプの井戸1基にかかっている。MSFはポンプと給水栓のついた新しい井戸を掘削するともに、地元の共同保健クラブに向けて、給水所管理と疫学調査についての研修を実施している。©Samuel Sieber/MSF

地元住民による保健クラブの結成

このツールを運用していくには、地元住民の人びとの力が不可欠だ。井戸の掘削や修復が終わると、MSFのアウトリーチチームが、少人数の地元世話役に研修を行い、共同保健クラブの結成と運営に向かう。その保健クラブは、自立して給水所の維持管理と水質確保を担うとともに、地元住民に重要な保健衛生情報を伝えるのである。

ハラレ西部近郊クワザナ地区の共同保健クラブに所属するニャライ・ジンガイさんは語る。「1カ月1米ドル(約110円 )で、私たちの区画の250世帯以上に清潔な水を毎日供給し、必要な塩素消毒薬を購入してポンプをメンテナンスし、誰でも給水所を安全に使えるように手入れしています」 

クワザナ共同保健クラブが会合を開いている様子。クワザナ地区では、浅井戸と手掘り井戸を中心にして腸チフスが流行した。その対策として、MSFは複数の井戸を新設・修復してきた。© Samuel Sieber/MSFクワザナ共同保健クラブが会合を開いている様子。クワザナ地区では、浅井戸と手掘り井戸を中心にして腸チフスが流行した。その対策として、MSFは複数の井戸を新設・修復してきた。© Samuel Sieber/MSF

このクワザナ地区では、古い掘削井戸と手掘り井戸の周辺で腸チフスが流行した。その対策として、2017年にMSFが複数の井戸を新設・修復している。また、保健クラブでは、軽度の疾患に対応するための重要な健康情報を発信している。「我々は、時には看護師の役目も担います。夫や子どもが下痢になった時のために、塩水や砂糖水のつくり方をお母さんたちに説明するんです」とニャライさんは言う。

保健クラブがこれからも持続的に成果を上げていくためには、こうした密着型・参加型の仕組みが欠かせない。「MSFでは、保健クラブが自立して活動を開始できるよう、研修と支援を実施します。MSFがいなくても活動を続けられることが重要ですから」と、MSFの健康教育スタッフであるクダクワシェ・シゴボズラは説明する。現在のハラレには、70以上の保健クラブがあり、大勢の人々が給水所の整備活動にあたっている。 

ムバレの掘削井戸。汚染防止用の被覆部材をセメントで固める。© Samuel Sieber/MSFムバレの掘削井戸。汚染防止用の被覆部材をセメントで固める。© Samuel Sieber/MSF

今年、ニャライさんらクワザナ保健クラブのメンバーは、地元住民が主体となって疫学調査に取り組めるよう研修を受ける予定だ。ジンバブエでMSF医療コーディネーターを務めるレイナルド・オルトゥニョ・グティエレスが説明する。「保健クラブの機能を強化し、重度の下痢疾患を検知できるようにしていきます。合わせて、水系感染症である腸チフスへの追加的な対策として、新しいワクチンの試験も支援します」 

大学も企業も巻き込んだジンバブエの挑戦

 こうした技術、医療、住民能力開発といった取り組みを1つのツールの規格にまとめていけば、ジンバブエ以外の国々でも、環境保健の援助体制を広げていくことができる。2019年、MSFは、地元協力団体と連携しながら、広域の環境保健活動に取り組んできた。マラウィでは19カ所、モザンビークでは6カ所に、給水所と保健クラブを設置した。今後は、西アフリカと南アメリカでも同じ取り組みが実施される予定だ。

ムバレ地区マタピの給水所。MSF環境保健拠点の次の課題は、ごみ処理と排水の再利用だ。© Samuel Sieber/MSFムバレ地区マタピの給水所。MSF環境保健拠点の次の課題は、ごみ処理と排水の再利用だ。© Samuel Sieber/MSF

 ムバレの採掘現場では、夜になってから、井戸の上部を覆う20メートルのプラスチック製パイプをセメントで固定する作業がはじまった。掘削井戸が稼働したら間もなく、浅層地下水を汚染するごみの山と下水漏れへの対策として、ツール上の手法が2つほど新たに運用される見通しだ。

第1に、MSFはムバレで活動する資源リサイクル企業と協力して、固形廃棄物に関する処理方法の開発にあたっている。第2に、つい先ごろ、ハラレ郊外の非公式居住区ストーンリッジに住む10世帯を対象にして、地元企業Jojatisとともに、ミミズを利用した分散型の生活排水浄化・再利用装置を試験的に設置したところだ。

「ジンバブエ大学などの地元協力機関と連携して、こうしたゴミ処理方法の開発を検討していきます。成果が証明されたら、MSFの環境保健ツールに盛り込み、広域的に展開していく予定です」とマリクは語った。