【動画】地中海から届いたボイスメッセージ 強制結婚、性暴力、虐待… 壮絶な体験を生き延びた女性たち

2022年05月27日

いま、地中海では何千人もの人びとが、命をかけて海を渡り、欧州を目指している。安全を求める旅路で、彼らが繰り返し直面するのは、身体的・精神的な虐待や暴力だ。特に弱い立場に置かれた女性や子ども、保護者のいない未成年者は多くが悲惨な体験に巻き込まれ、目に見える傷、見えない傷の両方を負い続けている。
 
国境なき医師団(MSF)の捜索救助船ジオ・バレンツ号は、地中海の活動で木造船や小型船から計111人を救助。そのうち3人は妊娠中の女性で、7人は子どもだった。MSFで性暴力の担当者として活動する助産師のマリー=アンヌ・ヘンリーが、救助された女性たちについて語った。

性暴力により妊娠した女性も

溺れる寸前で助かった妊娠8カ月の女性が、ジオ・バレンツ号に足を踏み入れた時のことを、私は決して忘れないでしょう。息も絶え絶えな彼女が私の手を取り、最初に口にしたのは感謝の言葉でした。彼女は何枚も重ね着して、コートのほかに少なくともズボン4本、上着5枚を身に着けており、全身ずぶ濡れでした。あの重さでは、到底泳げません。

幸い、彼女は産科合併症を発症することはありませんでした。性暴力による妊娠という過酷な現実にもかかわらず、本人は赤ちゃんの幸せを何よりも望んでいました。

彼女が船上で他の女性や子どもたちと合流した時の光景にも、心を動かされました。皮肉をこめて「冒険」と呼ぶサハラ砂漠の横断中にはぐれてしまった、同郷の女性に再会したのです。2人はもう二度と離れることがないかのように、何度もかたく抱き合っていました。

この時救助された人びとの多くは、コートジボワール、カメルーン、ギニア出身の女性たちです。新しい試練を前に、女性たちはすぐに結束を固めました。どの人も互いを支え合う、揺るぎない気持ちがあったのです。彼女たちはグループ内のリーダーをすぐに決め、その女性は自分自身も不安定な状況にもかかわらず、他の女性のために通訳をしたり、赤ちゃんや障がいのある子どもを持つ若いシングルマザーのサポートに全力を注いでいました。

いまこそ女性たちの声に耳を傾ける時

私は2015年からMSFの活動に参加してきました。ジオ・バレンツ号に乗船した女性たちが診療の際に語った一人一人の物語や証言は、いかなる人の理解も超えています。また、女性だけでなく、男性も壮絶な体験をしています。性暴力を受けた男性にも出会いました。

ジオ・バレンツ号は海上でさらなる捜索を続け、遭難した船から多くの人びとを救助している Ⓒ Anna Pantelia/MSF
ジオ・バレンツ号は海上でさらなる捜索を続け、遭難した船から多くの人びとを救助している Ⓒ Anna Pantelia/MSF

女性たちは、強制結婚や性器切除を含むジェンダーに基づく慣行、性奴隷の話をしてくれました。性暴力のほとんどは、サハラ砂漠の移動中か、リビアの収容センターで起きています。レイプで妊娠すると、命に関わる危険性は高くなります。

特に印象に残っているのは、生後11カ月と8歳の娘たちを連れて旅していたある女性です。24時間以内に2回もレイプされたそうです。診療の最後、初めて彼女の目に涙が浮かびました。それはこの恐ろしい話の中でも最もつらい部分で、自閉症の娘が目の前でレイプされたことを打ち明けてくれた時でした。地中海を渡り逃れてきた女性や少女の多くは、最も弱い立場に置かれ、その多くが欧州に上陸する際に保護を必要としています。

女性たちの証言の一つ一つ、彼女たちの顔は、私の記憶に刻まれ残っていくことでしょう。私を信頼してくれたことに、心から感謝します。このような状況を耐え抜いてきた彼女たちの尊厳は、私の心に深い印象を残しました。いまこそ、彼女たちの体験に耳を傾けるときなのです。

ジオ・バレンツ号の船内の様子。女性や子どもも多く滞在する Ⓒ Anna Pantelia/MSF
ジオ・バレンツ号の船内の様子。女性や子どもも多く滞在する Ⓒ Anna Pantelia/MSF

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