もしも、水も食料もない荒野に置き去りにされたら…

2019年08月02日掲載

MSFが活動しているアガデス県ディルクー © Innocent Kunywana/MSFMSFが活動しているアガデス県ディルクー © Innocent Kunywana/MSF

何世紀も前からアフリカ大陸で、移民の通り道となってきたニジェールアガデス県。近年は、北を目指す人と、アルジェリア政府から退去を迫られたり、リビアから引き返したりして南下する大勢の人が行きかっている。人の流れはとどまるところを知らず、欧州その他の各国政府は近年、こうした移動や移住は違法だとの立場をとっている。そのため、移民、難民、季節労働者ら、移動している人びとの窮状は深刻になっている。迂回を余儀なくされ、サハラ砂漠のテネレ地域とアイル山地を抜ける危険な道のりを行き、暴力などの脅威にもさらされている。

国境なき医師団(MSF)は2018年8月、アガデス県で医療・人道援助を開始した。プロジェクト・コーディネーターのエヴァ・ノエルサンが、人びとの抱える人道援助ニーズ、MSFの活動などについて話す。 

窮状に置かれている人びとを助けたい

MSFがアガデス県でのプロジェクト立ち上げを決めたのは、窮状に置かれている移動する人びとや、不利な立場に置かれている地元民らを手助けするためです。自発的な移動か、やむを得ない理由による移動かに関わらず、人びとは物取りや暴力などの危険にさらされています。一方で、現地の保健医療施設は手が回らず、追加的な支援を必要としています。私たちは2018年8月からこの県で活動を続け、ニジェール保健省とともに基礎的な救援物資の配布や保健医療利用の後押しをするなどして、地元民と移民への援助に全力を注いできました。特に、移民の密度の高い地域に重点を置いてきました。

人びとは着の身着のままだった…

アルジェリア政府から退去を求められた人びと © Boulama Elhadji Gori/MSFアルジェリア政府から退去を求められた人びと © Boulama Elhadji Gori/MSF

 アルジェリア政府から退去を求められた人びとは、アルジェリア政府の公的な護送団でニジェールに連れて行かれるか、国境のニジェール側の村アサマカの近くで降ろされます。後者の場合、村の中心部まで15kmほど歩かなければなりません。多くの人はたいてい消耗しきっていて、着の身着のままです。MSFは栄養価の高いビスケットや水のほか、衛生キット・毛布などの必須物資を配布し、早急に医学的な手当てが必要な人や、保健医療施設に引き継ぐべき急患はいないかを急いで確認します。また、心のケア支援を提供。周辺地域には、シャワーとトイレも設置しました。

アガデス県下のその他の主な移民経由地では、人びとが無償の良質な医療を受けられるように手助けしています。この医療も対象を限定しておらず、地元民も利用可能です。援助内容としては、アルリト、タベロト、セゲディーン、アネイという4村の既存施設と、ディルクー、ファソ、アムジガン、ギダン・ダカ、コリ・カンタナ、ラ・デューンという6カ所の移民通過地点への移動診療で基礎保健医療、母子保健ケア、心理・社会的支援を提供しています。ディルクーでは、ケットやメゾン・クローズと呼ばれる性産業施設も活動先です。また、事故や暴力による外傷で専門医療の必要な人の命を救うために病院への引き継ぎも行っています。

アガデス県では、洪水や、はしかなどの病気の集団発生が繰り返し起きるので、疫学的な状況を見守り、いざというときに感染症被害者への集団予防接種や天災被害者への必須救援物資の配布といった活動にも着手できるよう備えています。2018年8月には洪水で被災したイフェルァン、アサマカ、ダバガの3カ所で基礎救援物資を提供し、昨年4月にはアルリトではしかの集団予防接種を行いました。

さらに砂漠の移民ルートで捜索・救助活動を展開する可能性も探っています。対象は、乗り物が故障したり、密入国あっせん業者に置き去りにされたりして、進退窮まり、命の危ぶまれる人びとです。地元住民やその他の関係者とともに立案を進めています。
同じく検討対象のタガラバ(別名チバラカテン)はアルジェリアとニジェールの中間にある鉱山でアルリトから約500km。移民のほか、そこで働く未成年などの社会的弱者の医療ニーズを測ろうとしています。

妊婦も直面する死のリスク

MSFが運営する施設  © Boulama Elhadji Gori/MSFMSFが運営する施設 © Boulama Elhadji Gori/MSF

移動する人びとは、それぞれに異なった境遇と目的があります。国籍でみると、ニジェールをはじめ、マリ、コートジボワール、ギニアなどアフリカ諸国の出身の人が大半を占めますが、アルジェルアを追放されたり、リビアを離れたりしたシリア、イエメン、イラク、バングラデシュ、その他の国籍者もおり、MSFはその全員を支援しています。彼らが、移動にいたった動機もさまざまです。ふるさとで起きた戦争、治安の乱れ、迫害を逃れてきた人もいれば、貧困や季節就労などの経済的理由で移動中の人もいます。これらの複数の要因によって移動していることも珍しくありません。

全員に共通しているのは、移動中の虐待や搾取、暴力、砂漠での死のリスクです。ニジェール入りするまでに、一言では言い表せないほどの苦難を味わったという人はたくさんいて、状況は深刻です。

他の国に向かう経由地として、アガデス県に入った人もいます。リビアから自国への帰還者はその一例です。鉱山での仕事を探している人もいます。またさらに、アルジェリアから追放されたりして、強制的にニジェールに追いやられた人もおり、たいていは極度の疲弊と痛み、感染症に苦しんでいます。MSFの心理ケア・チームは、理不尽な拘束と、拷問やレイプなどの非人間的な扱いによって生じる不安や抑うつ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える人たちにも対応してきました。

移動する人びとの最終目的地も、アルジェリアからモロッコ、果ては欧州までと、人によって異なります。さまざまな経緯でニジェールに入る人の多くは男性ですが、女性や子どももいます。

女性は特に不利な立場にあります。妊婦であればなおさらです。4月に、大量出血でMSFの支援先診療所にやって来た妊娠中のニジェール人女性がいました。命の危険があり、MSFは速やかに病院への救急搬送を手配したのですが、砂漠を越えている途中で、MSF車両の中で出産が始まってしまいました。医療スタッフの介助により、母子ともに一命を取り留め、必要な追加ケアも受けられました。 

水も食料もない荒野に置き去りにされたら…

砂漠にはまったMSF車両を押すスタッフ © Innocent Kunywana/MSF砂漠にはまったMSF車両を押すスタッフ © Innocent Kunywana/MSF

想像してみてください。水も食料もない荒野の真っただ中に置き去りにされたら…と。地元の言葉はわからず、ニジェールに来たこともなければ、そもそも砂漠に来たのも初めてだったとしたら。もし、わけがわからないまま拘留施設に入れられた挙句、国境線で解放されたら。もし、ご家族やご友人が、旅の途中で亡くなる姿を目のあたりにしたら…。実際に、乗っていたトラックが故障したのに、助けが来ず、そこにいた30人のうち、25人が亡くなった、という人もいます。こうした体験は、簡単に忘れられるものではありません。

加えて、移動する人びとは、食べることも、トイレもシャワーも、治療もままならずに何日間も過ごすことがあります。資金繰りも難しいことも問題ですが、そもそも生活の糧を得る方法が限られています。人びとは保護と情報を求めていますが、支援の手は大きく不足しています。シェルターも、食料も足りません。 

MSFは、アガデス県で特に不利な立場に置かれている人びとを対象に、今後も保健省と連携して医療・人道援助を提供していきます。救えるはずの命を救うため、もっと多くの組織に援助に加わってもらうことが求められています。移住は犯罪ではありません。彼らを放置したり、彼らの窮状に拍車をかける施策で罰したりしてはならないのです。