チャド湖周辺:アフリカ最大級の危機、MSFができることは?

2016年04月01日
ハジャ・ヤナさん(35歳)の娘(生後10ヵ月)は避難生活で栄養失調に…… ハジャ・ヤナさん(35歳)の娘(生後10ヵ月)は
避難生活で栄養失調に……

アフリカ中央部、4ヵ国にまたがるチャド湖周辺地域はいま、アフリカ最大級の人道危機エリアとなっている。武装勢力「イスラム国西アフリカ州」(通称「ボコ・ハラム」)による攻撃と、政府軍による対ボコ・ハラムの大規模軍事行動が繰り返されているからだ。すでに270万人以上が自宅を追われた。

ナイジェリアから始まったこの紛争は、国境を越えてカメルーン、チャドニジェールに拡大した。自爆攻撃や戦闘が毎日のように、時には1日に何度も起きている。各武装勢力は戦闘員と非戦闘員を区別せず無差別に攻撃しており、もともと弱い立場に置かれていた民間人にさらなる悪影響を及ぼしている。国境なき医師団(MSF)は活動を大幅に拡充し、チャド湖周辺地域で避難生活を送る人びとの援助にあたっている。

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必要最低限の生活も難しく

ファルマタさん(45歳)は、8人の子どもと一緒にニジェール南部にある難民キャンプに滞在している。自宅があったナイジェリア北部の村がボコ・ハラムの襲撃を受け、逃げてきたのだ。

「ボコ・ハラムは手当たり次第に銃を乱射していました。私の周りだけで18人もの遺体がありました。私たち家族はなんとか逃げ出すことができました。キャンプには身一つでたどり着きました。自宅から何か持ち出す余裕などありませんでした」

ナイジェリアでMSFのオペレーション・マネジャーを務めるイザベル・ムニアマン=ナラは「この地域は紛争以前から、貧困、社会のもろさ、食糧不安、繰り返し起きる病気の流行、保健医療体制がほぼないに等しいこと、などの危機的状況にありました。人びとは食べ物、水、住まい、医療など生活に最低限必要なものさえ得られていません」と話す。

チャド湖周辺国での取り組み状況

ナイジェリア

2014年以降、約100万人が北東部のボルノ州から避難している。その大多数は充分な食べ物、清潔な水、適切な医療がない環境で生活している。

MSFは、州都マイドゥグリのマイムサリ区とボロリ区で州立診療所を支援している。栄養治療、マラリア治療、分娩介助などを提供している。2015年には約11万6260件の外来診療を行った。

2015年9月、MSFはマイドゥグリのウマル・シェフ病院内に、救急処置室を開設した。MSFからは外科医1人を配置しており、手術も手がけている。患者の多くは戦闘が原因で負傷した人びとだ。2016年1月以降、MSFはダロリ第2キャンプでも外来診療所を運営している。

ボルノ州の西隣に位置するヨベ州でも、約19万5000人の避難者が、地域社会や避難キャンプ4ヵ所に分かれて滞在している。MSFはクカリタ診療所で医療を提供しており、2016年1月~2月に4000件以上の診療を実施した。

カメルーン

難民6万1000人と国内雛民15万8000人が、極北州に集中している。国内避難民の大部分は地域社会の中で分かれて生活している。人道援助はほとんど届いていない。2015年2月以降、MSFは避難者と現地住民を対象に、極北州内各地で医療を提供している。

また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が運営しているミナワオ難民キャンプでも、医療援助や給排水・衛生活動の支援を行っている。このキャンプでは、2015年に合計2万9077件の診療を行った。また、2016年1月~2月だけですでに、約6861件の診療を行っている。

さらに、モコロとモラでは小児科診療と栄養治療を提供している。避難者約4万1000人を抱えるこの地域には、稼動している医療機関が少ない。5歳未満の子どもはクッセリにある地区病院へと移送する。MSFはこの病院で外科の支援も行っており、2015年には帝王切開を含めた約840件の手術を行った。

チャド

ナイジェリアからの難民約6300人と、チャド国内の避難者4万3800人を抱えている。 MSFは2016年2月だけで、診療6980件を行った。また、ジャマロン地域にも避難者が集まりつつあることから、移動診療を開始して対応している。

一方、ダル・エス・サラーム難民キャンプや移動診療には、心理療法士も配置し、心理ケアを提供している。2月には、合計136件のセッションを行った。

ニジェール

ナイジェリア人難民30万人以上、国内避難民、国外からの帰還者が、南部のディファに避難している。MSFはディファで中核施設である母子保健センターを支援している。2016年1月の分娩件数は146件を超えた。

また、ンギグミの地区病院や、周辺地域にある複数の診療所でも活動している。2015年実績では、この地域だけで14万2000件以上の診療を実施した。

さらに、アッサガ・キャンプではしかの集団予防接種を実施した。ボッソ地区では、コレラの予防接種を7万9000人以上に実施した。

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