レバノン:シリア人難民を苦しめる猛暑——最高気温42度に
2015年08月21日
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感染を防ぐ手段がほとんどない環境

(2013年8月撮影)
屋根や壁は薄いビニールシートで、燃えるような日差しを和らげるにはほとんど用をなさない。砂ぼこりが吹きつけ、湿度は高く、あちこちにハエが飛び回っている。清潔な水を手に入れる手段は限られており、子どもたちは汚水が染み出しているテント周辺を駆け回っている。
難民となった人びとの滞在地には清潔な水が少なく、テントは過密状態で、疥癬(かいせん)などの皮ふ病の症例が多い。
健康教育チームが次の場所への移動準備をしているところへ、1人の男性が大急ぎでやってきた。腹部と腕に赤いブツブツが広がっている。疥癬(かいせん)の典型的な症状だ。ベッカー高原でMSFの医療活動を統括するワエル・ハーブ医師は「この生活環境が原因で、1人が病気になると周囲の人びとに感染してしまう状態になっています」と話す。
MSFでは診療に加え、感染拡大を食い止める方法を説明している。ただ、ハーブ医師は「病気の根本的な原因である劣悪な衛生状態と不安定な生活環境をかえることはできないのです」と無念さをにじませる。
猛暑が過ぎ去ったとしても……

仮設住居を守るための雪かきが欠かせない
MSFはベッカー高原で診療所4軒を運営している。患者の半数以上はこの猛暑が原因で体調を崩した。MSFのビラル・ガーセム医師は「気管感染、下痢などの胃腸疾患、皮ふ病の患者が多く来院します。これらの病気は劣悪な生活環境に直接関係があります。今夏の患者数は前年同期と比べ20%増えています」と話す。
MSFの診療件数のうち、6月と7月には上気道感染・下気道感染が42%以上に上った。また、7月単月では、水様性下痢と胃腸疾患は23%に達した。
猛暑が収まる季節になれば生活環境は改善するのだろうか?そうではないと、シリア人難民のライラさん(仮名)は言う。「夏は確かに大変ですが、冬はその何倍も大変です。子どもたちを暖かく過ごさせることができません。ビニールシートは破れやすく、1日に何度も雪下ろしをしなければならないんですよ」 ライラさんはシリア人。5人の子どものお母さんで、マジダル・アンジャル付近にある仮住まいに住んでいる。
MSFは1976年からレバノンで活動している。現在、1次医療をトリポリ市、ベッカー高原、ベイルート市、サイダ市で提供している。このほか母子保健・産科医療をアルサルとシャティーラのパレスチナ人難民キャンプで運営している。また、シリア内戦から逃れてきた人びとに、難民登録の有無にかかわらず医療・人道援助を提供している。