「家の近くにエボラ感染者が——」 感染の連鎖を断ち切る エボラ流行中心地の挑戦

2019年10月22日掲載

エボラワクチンの接種を受けるジュスタンちゃん © Samuel Sieber/MSFエボラワクチンの接種を受けるジュスタンちゃん © Samuel Sieber/MSF

 医療スタッフに抱えられて注射を受けているのは、2歳半になるジュスタンちゃん(仮名)。母親に連れられ、エボラワクチンの接種を受けに来た。ここは、コンゴ民主共和国北キブ州ベニ市。エボラ出血熱が繰り返し流行している地域の一つだ。流行初期から現地入りしている国境なき医師団(MSF)は、先ごろワクチン接種の支援を開始。ワクチンはエボラに対抗する有望な手立てだが、適切な人に滞りなく届けるのは一筋縄ではいかない。

「家の近くにエボラ感染者が」

接種への同意確認からワクチンの接種、接種後の観察などを、14人で構成されるチームが担う © Samuel Sieber/MSF 接種への同意確認からワクチンの接種、接種後の観察などを、14人で構成されるチームが担う © Samuel Sieber/MSF

 母親のエステルさんが息子のジュスタンちゃんを連れて訪れたのは、ベニ市内でMSFが連日開いているワクチン接種会場の1つ。保健省および世界保健機関(WHO)の対策チームと連携し行っている、新たなエボラ抑止策の一環だ。

「私たちの家の近くでエボラ感染者が確認されて、調査チームにワクチン接種を勧められたんです。感染者と接触しているかもしれないと……」

会場では、テーブルに接種の登録書と同意書が置かれると、接種チームが防護服を身に着ける。そして、MSFの車両がワクチンの小瓶の入ったその日1つ目の冷却容器を搬入し、調査チームのメンバーが対象者の確認を始める。そして、接種チームの医師が、エボラワクチン「rVSV-ZEBOV」を接種する。実験段階にあるこのワクチンには、10日後の時点で被験者の95%が有効な防御力を得ることを示す有望な初期結果がある。

4人に1人しか届いていないワクチン

ワクチンの有効性は証明されているものの、投与の合理化策により、これまでに接種を受けた人は対象接触者全体の約25%に過ぎないともいわれる。© Samuel Sieber/MSFワクチンの有効性は証明されているものの、投与の合理化策により、これまでに接種を受けた人は対象接触者全体の約25%に過ぎないともいわれる。© Samuel Sieber/MSF

エボラには、感染を防ぐワクチンも、感染確定患者のための新たな治療法も存在する。しかし、この国で史上10例目にして最大規模の今回の集団感染では、発生から9月中旬までに3100人余りが感染し、2100人余りが亡くなっている。患者には伝染性があり、可能な限り速やかに隔離・治療することが望ましい。しかし、1人のエボラ感染が疑われてから診断が下るまでの期間は、北キブ州の平均で5日。その間、患者が移動し、複数の診療所を訪れることも多い。

そのため、エステルさんやジュスタンちゃんのような接触者の特定とワクチン接種は、集団感染を止めるために重要だ。MSFの3チームは接種活動の当初2週間だけで700人の投与を支援。国のエボラ対策チームなどにより、ベニ市ではこれまでに5万1000人余りが接種を受けた。

このワクチンの有効性は証明されているものの、試験段階のワクチンということから使用は制限され、州内の接種は当面「リング」方式に限定されている。この方式では、エボラ感染の可能性が高い人または感染の確認がされた人と、直接、またはもう1人を挟み間接的に接触した人か、医師や人道援助スタッフなど最前線で働く人しか接種対象になっていない。

そのため、これまでに接種を受けた人は、対象接触者全体の約25%に過ぎないともいわれる。残る大多数は特定できないか、把握すらできないままだ。MSFは、この方式の精査と拡充、そして、より透明性の高いワクチン供給の管理を担う、国際的な第三者組織の必要性を訴えている。
 

いまだ残る誤解

国のエボラ対策の広報スタッフがワクチンを待つ人びとの質問に答える。不安と誤解から接種に及び腰な人は多い。
© Samuel Sieber/MSF国のエボラ対策の広報スタッフがワクチンを待つ人びとの質問に答える。不安と誤解から接種に及び腰な人は多い。
© Samuel Sieber/MSF

ワクチンに対する地元住民の根強い不安と誤解も、壁の1つだ。「接種すると生殖能力を失うとか、心の病気になるとか、エボラそのものに感染すると信じている人も多いのです」国のエボラ対策の広報スタッフであるジョゼフ・ムボカニル・カンバレ氏はそう話す。

「エボラの症状を他の病気や毒と取り違える人たちもいて、ワクチン接種を受けに来るよう説得が必要なことも少なくありません」
 

より生活に近い場で

MSFはエボラへの対応だけでなく一般診療も支援している © Samuel Sieber/MSFMSFはエボラへの対応だけでなく一般診療も支援している © Samuel Sieber/MSF

MSFは当初、大規模で中核的な1次受入施設で活動していたが、間もなく、人びとの生活の場に近い方が、隔離機能の設置場所としてはるかに適切だと気付いた。「18の診療所のうち6つの診療所に小規模な隔離施設を組み込み、当時の患者と、感染の疑われる人がもっと気軽に来られるようにしました」そう話すトリスタン・ル・ロンケは州都ゴマでMSF緊急対応コーディネーターを務める。

合わせて、MSFはこのような診療所の従来のプライマリ・ヘルスケア業務も後押しする。「外来、産科、検査などを支援しています。必要性の高い業務ながら、錯綜するエボラ対策の際にはなおざりにさてしまう恐れがあるからです」とロンケ。

ベニ市のエボラ流行を終息させるのは依然として困難な仕事だ。MSFはつい先日、緊急処置用の隔離装置13基と、最大で患者40人が入れる大型隔離施設3棟を備え、スタッフ160人余りが勤める大規模なエボラ治療センターを引き受けた。

ル・ロンケはこう断言する。「感染の連鎖を断ち切るには、ワクチン接種の取り組みの拡大、診療所での隔離・治療という選択肢の提供、中核的な治療センターの確保だけでなく、エボラ以外の保健医療ニーズへの対応や、地元住民と信頼関係を築くことも求められます。エボラとの困難な戦いに勝つため、私たちはあらゆる領域に手を広げる必要があるのです」