暴力、略奪、貧困……ブルキナファソを覆う恐怖と、コロナ禍に隠れた声なき人びと

2020年06月12日掲載

簡素なテントが点在する避難民キャンプ © MSF簡素なテントが点在する避難民キャンプ © MSF

連日新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連のニュースが世界を駆け巡るなか、メディアに注目されないところで暴力や貧困に苦しむ人びとがいる。西アフリカの内陸国ブルキナファソ東部の村々では、国家治安部隊と複数の武装勢力間の衝突に大勢の民間人が巻き込まれたが、彼らの窮状はほとんど知られていない。 

食べ物も水もなく……紛争で家を追われる人びと

「突然村にやってきた見知らぬ人たちに夫は殺され、私はレイプされました。3人の子どもたちを連れてキャンプへと逃げてきましたが、ここには家族で住むのに十分なスペースがなく、食べ物や水も足りません」とアサトゥさん(59歳)は語る。

彼女が住んでいた村では、武力紛争により数千人もの人たちが避難を余儀なくされた。着の身着のままで何日も歩き、ようやく安全な地域にたどり着いたとしても、これからの時期は雨季とハンガーギャップ(農作物の端境期に食糧危機に陥ること)が重なり、例年重度の栄養失調とマラリア患者が急増する。

またキャンプの衛生環境も問題だ。ここに身を寄せる人びとの多くは、藁かビニールシートでできた簡素なテントで暮らしており、清潔な水と食べ物もろくに手に入らない状況だという。

水を手に入れることが難しく、衛生環境に問題を抱えている © MSF水を手に入れることが難しく、衛生環境に問題を抱えている © MSF

恐怖に支配され──進む医療体制の脆弱化

国境なき医師団(MSF)は2019年5月以降、ブルキナファソ東部において医療をはじめ水や救援物資を無償提供しているが、4年間にもおよぶ紛争により現地の医療体制は脆弱化している。

世界保健機関(WHO)によると、現在同地域にある30カ所余りの医療機関は、閉鎖もしくは最低限の機能を辛うじて保っている状態だという。医薬品、医療機器などの略奪が多発し、武力衝突による安全面への懸念から医療従事者が村を後にせざるを得ないのだ。国際人道法に保護されるべき救急車への襲撃も相次ぎ、4月16日には数千人の避難民が生活するタワルブグ村で、武装兵士がMSFの医療チームに向けて発砲する事件も起こった。

住民の中には、武装勢力と治安部隊のどちらか一方に肩入れしているとみなされることを恐れて診療を受けに行かない人も多く、地域全体が恐怖に支配されている状態だ。 

MSFの医療施設を訪れた女性 © MSFMSFの医療施設を訪れた女性 © MSF

新型コロナウイルス対応に追われる現地スタッフ

今年3月に最初の感染例が確認されて以降、ブルキナファソでは800例余りの新型コロナウイルス感染症が報告された。いまのところ東部ではまだ感染者は出ていないものの、MSFの活動にも大きな影響を与えている。

例えばパマ地区では、最近起きたはしかの流行を受けて子どもを対象に予防接種を実施しているが、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、人びとに診療所に来てもらうのではなく、医療スタッフが個別訪問をして子どもたちの接種を行うという対応の変更を行った。

感染リスクを最小限に抑えるべく、MSFは国外から全てのスタッフに支給する分の防護服やフェイスシールドをそろえたが、これには2カ月以上かかった。結果的に4万人余りの子どもにはしかの予防接種を行うことができたが、実際には外国からの入国に制限が課されていたために、スタッフの移動もままならず、その影響は専門医から助産師、ロジスティシャン(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当)まで及んだ。

一番深刻な問題は、大勢の避難者や地元住民がいるにもかかわらず、治安の悪化により診療体制を縮小せざるを得なかったことだ。重症患者の受け入れ可能人数はごく少数であるため、感染症を予防することが何より大切だが、現実には「清潔な飲み水さえ足りないのに、どうやってこまめに手を洗えばよいのか?」「混雑したテントでどうソーシャルディスタンシング(人と人との距離)を確保するのか?」という問題がつきまとう。

ブルキナファソ東部の人びとにとって、新型コロナウイルス感染症は最優先の関心事ではない。数千人もの避難民や彼らを受け入れる地域の住民は、生き延びるだけで精一杯だからだ。まだ来ていないウイルスよりも、雨季になって仮設の住まいが壊れてしまわないか、今日の飢えと渇きをどう凌ぐか、といった目の前にある脅威の方がずっと深刻なのだ。

パンデミックへの対応は、もちろん優先課題として位置づけるべきである。しかしMSFは安全面に最大限の配慮をしつつ、医療・スタッフ・資金援助などの活動を通じて、最も弱い立場に立たされた人びとの生活環境の改善に尽力していく。
 

MSFスタッフから健康や衛生に関する説明を受ける女性たち © MSFMSFスタッフから健康や衛生に関する説明を受ける女性たち © MSF