もう妊娠したくない スラム街で暮らす6人の子の母を救うために

2018年06月29日掲載

ミシェルさんと下2人の子供たち=フィリピン/トンド区のスラム街にあるバラックでミシェルさんと下2人の子供たち=フィリピン/トンド区のスラム街にあるバラックで

フィリピンの首都マニラのビジネス街から車で30分、トンド区のスラム街が広がる。一帯には住人が持ち込んだあらゆるゴミが山積みになっている。リサイクルできるモノを選別して売り、生活の糧にしているのだ。辺りは生ゴミが腐ったような強烈な臭いが立ち込める。人口過密度は1平方kmあたり7万人。下水道が整備されていない住環境の衛生状態は劣悪だ。ここで、国境なき医師団(MSF)は2016年から、地元NPO「リカーン」と協力して、女性の健康と家族計画(Family Planning)の啓発に取り組んでいる。

雨が降ると悪臭はさらにひどくなる=「ハッピーランド」と名づけられたスラム街雨が降ると悪臭はさらにひどくなる=「ハッピーランド」と名づけられたスラム街

貧困の連鎖を絶つために

「子どもたちにはこんな貧しい生活を繰り返して欲しくないんです。教育を受けて、自分の希望する職業について、まともな暮らしを送ってもらいたいんです」。ミシェル・F・シレッザさん(31歳)は静かな口調で語る。14歳から1歳児まで6人の子を育てる母親だ。

「私も夫もここトンド区で生まれました。私が学校に通えたのは小学4年生まで。私は長女で、5人の弟妹の面倒もみなきゃならいなし、家族は食べるだけで精一杯でした。視力の弱い私が学校を続けられる状況ではなかったんです」

女性の上腕内側に埋め込んでいたマッチ棒サイズの皮下インプラントを取り出す=トンド区にあるMSFクリニック女性の上腕内側に埋め込んでいたマッチ棒サイズの皮下インプラントを取り出す=トンド区にあるMSFクリニック

貧困のサイクルから抜け出すには、妊娠回数をコントロールする家族計画が重要だ。ミシェルさんは昨年4月、避妊のための皮下インプラントの施術*を受けた。リカーンのソーシャルワーカーから家族計画の話しを聞いたのがきっかけだった。最長3年間は上腕に埋め込んだまま生活ができ、その間は避妊効果が見込める。一家の収入は、近隣のショッピングモールで運搬業に携わる夫の日銭だけ。ミシェルさんは、家族がこれ以上増えればさらに生活が苦しくなることを分かっている。
(*日本では未承認)

MSFの巡回検診ワゴン車の前で子宮頸がんと検診について説明するソーシャルワーカー。ソーシャルワーカーの多くもまたスラム街出身だ。MSFの巡回検診ワゴン車の前で子宮頸がんと検診について説明するソーシャルワーカー。ソーシャルワーカーの多くもまたスラム街出身だ。

子宮頸がんの検診も

ミシェルさんはこれまで、幼い子どもたちの世話に追われ、自分の健康管理について学ぶ機会もなかった。初めて、MSFで子宮頸がん検診を受けることにした。

「怖いと思っていたんですが、ソーシャルワーカーが検査方法を丁寧に説明してくれたので、思い切って受けてみることにしました」

MSF診療所で検診にあたるメリー・ルース・ロクサス産婦人科医(医療活動マネージャー)MSF診療所で検診にあたるメリー・ルース・ロクサス産婦人科医(医療活動マネージャー)

MSFはトンド区でクリニックを運営。さらに歩いて来院できない人たちのために、週2回無償で巡回検診をしている。

「検診で、がんに進行する前のがん細胞が見つかった場合、速やかに凍結療法をします。進行したがんが疑われる場合には診断のため病院を紹介します。怖がらず、多くの女性に検診を受けてもらいたいんです」とMSFのロクサス産婦人科医。フィリピンでは1日あたり平均12人の女性が子宮頸がんで亡くなっている。

「家族計画も処置をしたら終わりではなく、クリニックに戻ってきてほしい。スラム街に住む若い女性に、もっと自分の体と健康に対する意識を高めてもらいたいんです」

リカーンのソーシャルワーカーとの二人三脚によるMSFの取り組みは続く。

MSFのマニラ・スラム地域での活動概要

MSFは、2015年に首都マニラのトンドにおけるスラム地域で医療ニーズを調査した。その結果、婦人科診療のニーズが高いことが明らかになった。2016年からは、地元で20年以上リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康とその権利)に従事するNPO「リカーン」と提携し、家族計画指導や子宮頸がんの検査・治療のほか、集団予防接種を実施している。

-2017年マニラでのMSF活動の実績-
・外来診療:14505件
・子宮頸がん検診:1438件
・凍結療法:77件
・家族計画の助言活動実施世帯:12374世帯