海外派遣スタッフ体験談
厳しい状況にも前向きな人びとの姿に学ぶ
塩澤 幹雄
- ポジション
- 外科医
- 派遣国
- パキスタン
- 活動地域
- ハング—
- 派遣期間
- 2014年9月~2014年10月

- Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?
-
MSFへ参加することを以前から希望していましたが、外科医として未熟だと感じていましたし、周囲の理解を得られるのが難しい状態でした。研さんを積み、外科医としてやっていけると自負するようになり、所属している外科医局からも協力が得られ、参加しました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
-
ドイツで行われた外科ワークショップに各国のMSF外科医が集合
英語は週1回、英語が母国語の先生から個人レッスンを受けました。
外科技術に関しては、MSFでは帝王切開が必須の技術とされていましたので、近くの産科クリニックで週1回手術に入らせてもらいました。また、外傷は、ATOM コース(Advanced Trauma Operative Management:外傷外科トレーニングコース)を受講しました。また、ドイツで行われたMSF主催の外科ワークショップを受講しました。
両トレーニングともに実践的であり、銃創・開放骨折など重度の外傷を扱うことがまれな日本の一般外科医には大変勉強になりました。
外科ワークショップには16ヵ国26人のMSF外科医が参加し、これからの赴任地についてや、どのようにMSFに参加する機会・時間を作り出したのかなど、情報交換をしました。同じ目的を持つ外科医ばかりですから大変刺激を受けました。
- Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?
-
帝王切開の様子
小児科医を2年経験してから一般・消化器外科に転向して、これまでやってきました。研究テーマは乳がんです。派遣地での前任の外科医の専門は甲状腺でした。MSFに参加するにあたっては、十分準備すれば専門領域はあまり関係ないと思います。
役に立った技術としては、ポータブルの超音波検査器械を用いた、急性腹症や外傷の診断能力です。前置胎盤や胎児仮死などさまざまな状況の帝王切開がありました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
-
このプログラムは、急性腹症、火傷・銃創・骨折を含む外傷、都市部に搬送する時間がない切迫した帝王切開に対処するものでした。4週間の派遣期間で帝王切開が32例と最も多く、また現地では、かまどや古いポットの使用が多いため、台所回りでの事故による子どもの重度・広範囲の火傷がとても多く、処置に追われました。
チームは、外科医と麻酔科医が1人ずつで助産師は2人、手術室は現地スタッフ15人ほどで構成されていました。病棟は男性と女性に分かれており、それぞれ12人程度の定員でした。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
-
月曜から土曜日まで毎朝8時30分から治安に関するミーティングがあり(病院外は治安が悪いですから)、その後病棟ラウンド、手術となります。日曜日には予定手術は入っていませんが、緊急での帝王切開、外傷があれば手術となります。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
-
病院敷地内に住居があり、治安上、病院外への外出は禁止されています。4週間の短期派遣だったのでストレスには感じませんでした。夜中の呼び出しも多かったので、かえって院内で24時間過ごした方が便利だったと思います。
食事の不安がありましたが、現地採用の料理担当スタッフが作る食事はおいしく満足していました。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
-
初めての活動参加であり、不安が強かったのですが、現地スタッフはみんなよく慣れており、仕事に打ち込むことができました。
「困窮した人びとのために!」とパキスタンに行きましたが、治安が悪ければ皆が不幸というわけでもなく、厳しい状況のなかでも楽しく、前向きに頑張っている人びともおり、改めて「幸福の基準はそれぞれの人によって異なる」と実感することができました。
大きな気づきであり、最終的には自分が学ぶためにパキスタンに行ったように感じます。
- Q今後の展望は?
-
医局からは1年間の研修休暇をもらっているので、現在は福島原発に近い公立病院で手伝いをしていますが、この1年間にまた活動地に行きたいと思っています。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
-
MSFの活動に参加するための準備や周囲の協力を得るには時間と労力が必要でしたが、実際に行ってみるとそれだけの価値がありました。