海外派遣スタッフ体験談

医療チームをまとめる管理職を初体験

鉄谷耕平

ポジション
医療チームリーダー/内科医
派遣国
リベリア
活動地域
モンロビア
派遣期間
2009年4月~2009年6月

QなぜMSFの海外派遣に参加したのですか?

私は2003年~2004年のMSF参加ののち、内科からマラリア学に転身し、大学院で学んでいました。基礎的なマラリア免疫学を専攻したのですが、今後学問を続けるにあたり、“現地感覚”をブラッシュアップしたいというのが今回の参加の動機でした。院修了後2009年4月の段階で私にとって、マラリア流行地で医療の仕事に就く直近ルートがMSFだったため、流行地への派遣を希望し、叶えていただきました。

Q今までどのような仕事をしていたのですか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?

2003年のMSF初参加までは臨床医として病院に勤務していました。今回の派遣で言うと、曲がりなりにも英語を使い続けたこと、メインの研究生活の傍らアルバイトとして週1~2回一般診療を続けたことが、MSF復帰への壁を低くしてくれたように思います。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?

首都近郊の母子専門病院です。現地機関との協同ではなく、人事・財源・物流のすべてにおいてMSF100%のプロジェクトです。十数年続いた内戦直後の混乱期であった2003年に緊急援助としてMSFが活動をし始めたのですが、その後状況が落ち着き、復興が本格化するに従い、MSFの撤退と現地組織への引継ぎが具体化しています。
医療チームリーダーという職は、実際の臨床業務を行なう他の医療職たちとプログラム責任者との橋渡し、また医療コーディネーターとの橋渡しを行なう中間管理職で、現場仕事の環境を整える雑用係でもあります。具体的には、

  • 院内部門間の調整(薬局・医療倉庫と末端利用者との間で品目リストの選定・使用量調整、臨床部門から他部門に対するクレーム処理など)
  • 渉外活動(業務提携を結んでいる医療機関への支援実務、医薬品の貸し借りや寄付、他医からの紹介・他医への紹介の問題処理)
  • 人事管理(業務縮小に伴う人員削減や、新規採用・懲戒訓告など。職員の業務評価も重要な職務の一つです)
  • 定期報告(月間活動報告を院内で取りまとめるほか、4ヵ月毎のプロジェクトレポートも作成しました)
  • 院内ソフトウェアの整備(診療方針の一部改訂と旧版の削除、院内で用いる書式の集中管理、カルテ保管庫の記録簿整備、外科手術関連感染症サーヴェイランス)のほか
  • 直接監督を薬局・医療倉庫と検査部、手術部内の滅菌部門に対して行ないました。医療チームリーダーはこのように事務方ですので、医師たちとの症例検討が楽しみでした。

付言しますと、外国人スタッフたちは本質的に病院経営者として派遣されていたと思いますが、安定期プロジェクトであるにもかかわらず数ヵ月単位の短期派遣のため人員の入れ代わりが激しく、病院システムにギクシャクしていた部分があったのと、大きな漏れもいくつかありました。それらを整備することが医療チームリーダーの職務だと理解しました。
上記(2)~(6)は所帯の小さいプロジェクトだと外国人医療職が必然的に行なう職務なのですが、外国人医療職が私を含めて最大6人という規模のため医療チームリーダーが設けられ、非臨床職として分業していました。しかし、病院プロジェクトの終了計画に伴って、私の離職を契機に医療チームリーダー職を廃止することになり、(7)医療チームリーダーの職務を分散し、上下左右のスタッフに引き継ぐこと、が私にとって最大の業務になったのは皮肉なことでした。

Q週末や休暇はどのように過ごしましたか?

多くの外国人スタッフは休日だけでなく平日終業後もしばしば市街へ出かけていましたが、そういうシティライフになじめなかった私は半端仕事を片付けたり、読書・睡眠・軽い運動や買い物・料理などで、倦むことなく、かつできるだけ怠けるようにしました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

これまでのミッション経験からは考えられないくらい恵まれていました。門限がなんと午前2時と、治安に全く問題がなかったことに加えて、衛生的な上水道と食材、発電機の都合で時間制限はありますが、インターネットが使用できました。広い広い個室が与えられ、洋式水洗便所。五つ星でした。唯一の難点は、雨季に入って洗濯物が乾きにくくなったことくらいです。

Q良かったこと・辛かったこと

管理職そのものが私にとって初体験であったため、すべてが勉強でした。MSF経験者とはいえ、過去のプロジェクトは移動診療や診療所の小規模世帯でしたから、問題を解決することを目的として組織をある程度理解するのに1ヵ月もかかりました。それが辛かったことでもあり、良かったことでもあります。やりかけたままだった業務がいくつかあるのが少し心残りです。

Q派遣期間を終えて帰国後は?

母校のマラリア臨床研究プロジェクトに転身します。その後マラリア免疫学の研究生活に戻ります。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

医療職にある以上、人のお役に立ちたいという気持ちは自然なものだと思いますが、自国内にも医療ニーズがあり、かつそのことを深く理解しているにもかかわらず、海外で医療を行なうのはなぜか。人によって答えはさまざまだと思いますが、自分自身が納得できる認識を持つとよいのではないかと思います。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2003年8月~2004年2月
  • 派遣国:ミャンマー・モン州、ムドン
  • ポジション:内科医
  • 派遣期間:2004年3月~2004年6月
  • 派遣国:ウガンダ・カタクィ県、アムリア
  • ポジション:内科医
  • 派遣期間:2004年11月~2005年1月
  • 派遣国:パレスチナ占領地・西岸地区北部、ナブルス
  • ポジション:内科医

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